飢えと重税、そして隣国への理不尽な侵攻。
ルシフェニアの民衆が溜め込んできた怒りのマグマは、ついに限界を超えて爆発した。
「悪政を敷く王女を引きずり下ろせ!」
「緑の国の同胞たちの無念を晴らすのだ!」
ルシフェニアの首都から始まった暴動は、瞬く間に国中へと波及した。
その中心にいたのは、民衆から絶大な支持を集める一人の女性
――亡き高官の娘であり、燃えるような赤い鎧を纏った女剣士・ジェルメイヌだった。
彼女の掲げる反逆の旗の下には、虐げられてきた農民や市民だけでなく、
リリアンヌの残虐さに愛想を尽かした王宮の兵士たちまでもが次々と集っていった。
さらに、最愛の婚約者ミクリアを奪われ、復讐の鬼と化した「青の国」の王・カイルもまた、
自国の精鋭を率いて反乱軍に合流した。
その総勢、数万。
怒濤の勢いとなった反乱軍は、行く先々の関所を破り、ついに王女の住まう王城へと迫りつつあった。
「……報告は以上か?」
王宮の作戦室。アレンは数少ない忠実な部下からの報告を聞き終えると、低く冷徹な声で問いかけた。
「は、はい、アレン様。すでに外壁の第一、第二防衛線は突破されました。
城の近衛兵たちも、大半が武器を捨てて逃亡、あるいは反乱軍へと寝返っております。
もはや……防ぎきることは不可能な情勢です」
部下は恐怖に顔を青ざめさせ、ガタガタと震えていた。
だが、アレンの表情には焦りも恐怖もなかった。
すべては、彼が予測していた通りの結末だった。
民衆の怒りが王女を焼き尽くす。
その運命は、もはや神であっても変えられないところまで来ている。
「よく報告してくれた。お前たちも、今のうちに城を出て命を全うするがいい」
「ア、アレン様は……?」
「僕はここに残る。我が主、王女様の側にいるのが僕の役目だ」
アレンは静かに微笑み、部下たちを下がらせた。
一人になった作戦室で、アレンは窓の外を見つめる。
遠くから、地鳴りのような民衆の怒号と、城壁が破壊される爆音、
そして不気味な炎の光が迫ってくるのが見えた。
(いよいよ、おやつの時間が終わるんだね、リリアンヌ)
アレンは自らの胸に手を当て、中に隠された「計画」を確かめるように深く息を吸った。
その頃、最上階の私室にいたリリアンヌは、ただならぬ城内の騒音に怯え、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
いつも彼女の我が儘を全肯定してくれた大臣たちも、へつらっていた貴族たちも、
誰一人として彼女の呼び出しに応じない。
それどころか、廊下からは逃げ惑う召使たちの足音と、調度品が盗まれていく不穏な音が響いてくる。
「皆、どこへ行ったの……? 私を置いて、どこかへ行ってしまったの……?」
リリアンヌの身体が、恐怖でガタガタと震え出す。
世界は自分の思い通りになるはずだった。
自分は、この国の絶対的な支配者であるはずだった。
しかし今、彼女の耳に届くのは、自分を「悪魔」「人殺し」と呪う、数え切れないほどの民衆の叫び声だった。
その時、部屋の重厚な扉が静かに開いた。
「ア、アレン……!?」
リリアンヌは弾かれたように振り返った。
入ってきたのは、いつもと変わらない、端正な顔立ちに冷徹な青い瞳、
そして自分と同じ金の髪を持つ召使だった。
彼の衣服には、わずかに返り血がついていたが、その佇まいはあまりにも平穏だった。
「リリアンヌ。お迎えに上がりました」
アレンは怯える王女の前に進み出ると、いつもよりずっと優しく、そして深い慈愛を込めて彼女を見つめた。
「アレン、大変なの! 悪いネズミたちが、たくさん城の中に押し寄せてきているわ!
兵士たちに命じて、あいつらを早く処刑しなさい!」
リリアンヌはアレンの胸にすがりつき、泣き叫んだ。
だが、アレンは彼女の肩をそっと掴み、まっすぐにその青い瞳を見つめ返した。
「王女様、もう兵士は誰もいません。この城は、間もなく落ちます」
「え……? 嘘、嘘よ……! じゃあ、私はどうなるの!? 捕まって、殺されてしまうの!?」
絶望に目を見開くリリアンヌ。
アレンは彼女の小さな身体を、今度は力強く、しかし壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「大丈夫です。貴女は死にません。僕が、貴女の命も、その恐怖も、すべて守って見せますから」
城門が破られる凄まじい音が、足元から響いてくる。
崩壊へのカウントダウンがゼロになるその瞬間、アレンはリリアンヌの耳元で、
ある「甘く残酷な提案」を囁くのだった。
ルシフェニアの民衆が溜め込んできた怒りのマグマは、ついに限界を超えて爆発した。
「悪政を敷く王女を引きずり下ろせ!」
「緑の国の同胞たちの無念を晴らすのだ!」
ルシフェニアの首都から始まった暴動は、瞬く間に国中へと波及した。
その中心にいたのは、民衆から絶大な支持を集める一人の女性
――亡き高官の娘であり、燃えるような赤い鎧を纏った女剣士・ジェルメイヌだった。
彼女の掲げる反逆の旗の下には、虐げられてきた農民や市民だけでなく、
リリアンヌの残虐さに愛想を尽かした王宮の兵士たちまでもが次々と集っていった。
さらに、最愛の婚約者ミクリアを奪われ、復讐の鬼と化した「青の国」の王・カイルもまた、
自国の精鋭を率いて反乱軍に合流した。
その総勢、数万。
怒濤の勢いとなった反乱軍は、行く先々の関所を破り、ついに王女の住まう王城へと迫りつつあった。
「……報告は以上か?」
王宮の作戦室。アレンは数少ない忠実な部下からの報告を聞き終えると、低く冷徹な声で問いかけた。
「は、はい、アレン様。すでに外壁の第一、第二防衛線は突破されました。
城の近衛兵たちも、大半が武器を捨てて逃亡、あるいは反乱軍へと寝返っております。
もはや……防ぎきることは不可能な情勢です」
部下は恐怖に顔を青ざめさせ、ガタガタと震えていた。
だが、アレンの表情には焦りも恐怖もなかった。
すべては、彼が予測していた通りの結末だった。
民衆の怒りが王女を焼き尽くす。
その運命は、もはや神であっても変えられないところまで来ている。
「よく報告してくれた。お前たちも、今のうちに城を出て命を全うするがいい」
「ア、アレン様は……?」
「僕はここに残る。我が主、王女様の側にいるのが僕の役目だ」
アレンは静かに微笑み、部下たちを下がらせた。
一人になった作戦室で、アレンは窓の外を見つめる。
遠くから、地鳴りのような民衆の怒号と、城壁が破壊される爆音、
そして不気味な炎の光が迫ってくるのが見えた。
(いよいよ、おやつの時間が終わるんだね、リリアンヌ)
アレンは自らの胸に手を当て、中に隠された「計画」を確かめるように深く息を吸った。
その頃、最上階の私室にいたリリアンヌは、ただならぬ城内の騒音に怯え、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
いつも彼女の我が儘を全肯定してくれた大臣たちも、へつらっていた貴族たちも、
誰一人として彼女の呼び出しに応じない。
それどころか、廊下からは逃げ惑う召使たちの足音と、調度品が盗まれていく不穏な音が響いてくる。
「皆、どこへ行ったの……? 私を置いて、どこかへ行ってしまったの……?」
リリアンヌの身体が、恐怖でガタガタと震え出す。
世界は自分の思い通りになるはずだった。
自分は、この国の絶対的な支配者であるはずだった。
しかし今、彼女の耳に届くのは、自分を「悪魔」「人殺し」と呪う、数え切れないほどの民衆の叫び声だった。
その時、部屋の重厚な扉が静かに開いた。
「ア、アレン……!?」
リリアンヌは弾かれたように振り返った。
入ってきたのは、いつもと変わらない、端正な顔立ちに冷徹な青い瞳、
そして自分と同じ金の髪を持つ召使だった。
彼の衣服には、わずかに返り血がついていたが、その佇まいはあまりにも平穏だった。
「リリアンヌ。お迎えに上がりました」
アレンは怯える王女の前に進み出ると、いつもよりずっと優しく、そして深い慈愛を込めて彼女を見つめた。
「アレン、大変なの! 悪いネズミたちが、たくさん城の中に押し寄せてきているわ!
兵士たちに命じて、あいつらを早く処刑しなさい!」
リリアンヌはアレンの胸にすがりつき、泣き叫んだ。
だが、アレンは彼女の肩をそっと掴み、まっすぐにその青い瞳を見つめ返した。
「王女様、もう兵士は誰もいません。この城は、間もなく落ちます」
「え……? 嘘、嘘よ……! じゃあ、私はどうなるの!? 捕まって、殺されてしまうの!?」
絶望に目を見開くリリアンヌ。
アレンは彼女の小さな身体を、今度は力強く、しかし壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「大丈夫です。貴女は死にません。僕が、貴女の命も、その恐怖も、すべて守って見せますから」
城門が破られる凄まじい音が、足元から響いてくる。
崩壊へのカウントダウンがゼロになるその瞬間、アレンはリリアンヌの耳元で、
ある「甘く残酷な提案」を囁くのだった。

