推しが彼氏!?

☆第7話☆ 「文化祭で、もう一度恋をする」

― ミオ目線 ―

「えぇぇぇぇーーっ!?」

放課後の教室に、私の声が響いた。

「ミオ、声大きいって!」

親友のユナが慌てて口を押さえる。

「だ、だって!」

私は文化祭のお知らせを何度も見返した。

«『スペシャルゲスト:NXT』»

「本当に来るの!?」

「そうみたい!」

クラスのみんなも大興奮していた。

「整理券、絶対取る!」

「やばい、楽しみ!」

教室中がその話題でもちきりになる。

でも私は、みんなとは少し違う気持ちだった。

(学校で……リオさんに会う。)

仕事で会うのとは違う。

今度は、制服姿の私を見られる。

なんだか急に恥ずかしくなってきた。

---

文化祭当日。

学校中が色とりどりの飾りつけでいっぱいだった。

「ミオ、おはよう!」

「ユナ、おはよう!」

「今日はスタッフもあるんでしょ?」

「うん!」

実は今回、私は学校と事務所をつなぐサポート係を任されていた。

ライブ会場への案内や、控室への誘導も仕事の一つだ。

「緊張する……。」

そんなことをつぶやいていると――

「来たよ!」

誰かの声で校門の方を見る。

黒い車がゆっくりと学校へ入ってきた。

(来た……!)

胸がドキドキする。

ドアが開き、最初に降りてきたのはユウ。

「わぁ、本当に学校だ!」

続いてハル、ソラ、レン。

そして最後に、リオ。

制服姿の生徒たちを見渡していたリオの視線が、ふと止まる。

その先にいたのは――私だった。

「あ……。」

思わず目が合う。

私は緊張しながら小さくお辞儀をした。

「おはようございます!」

リオは少し驚いたような表情をしたあと、小さく笑った。

「……おはよう。」

その笑顔に、胸が高鳴る。

(どうしよう……。)

今日のリオさん、いつもと違う気がする。

---

― リオ目線 ―

学校に着くまで、今日は普通の仕事だと思っていた。

でも。

車を降りた瞬間、目に入ったのは――

制服姿のミオだった。

(……え。)

一瞬、言葉が出なかった。

いつもスタッフ用のパーカーを着ているミオとは全然違う。

白いシャツに、学校のリボン。

夏らしい制服姿。

思わず見とれてしまう。

「……かわいい。」

気づけば、小さくつぶやいていた。

「ん?」

隣を歩いていたユウが聞き返す。

「何か言った?」

「……何でもない。」

慌ててごまかす。

でも、心臓は落ち着かない。

(制服、似合うな……。)

そんなことばかり考えてしまう。

「リオ。」

ハルが小さく笑う。

「今日はいつも以上に分かりやすい。」

「……。」

否定できなかった。

その時、ミオがこちらへ歩いてきた。

「みなさん、おはようございます!」

笑顔で迎えてくれる。

リオは目を合わせたまま、少し照れくさそうに言った。

「……制服、似合ってる。」

「えっ……!」

ミオの頬が一気に赤くなる。

「ありがとうございます……!」

照れたように笑うその姿が、あまりにも可愛くて。

リオはまた、自分の鼓動が速くなるのを感じていた。

(……やっぱり。)

もう、ごまかせない。

俺は、本当にミオが好きなんだ。

だけど――

この想いを伝えるには、まだ少しだけ勇気が足りなかった。

― ミオ目線 ―

「まもなく、NXTのみなさんによるスペシャルライブが始まります!」

司会の先生の声が校内に響く。

体育館には、生徒たちの期待に満ちた歓声があふれていた。

「きゃー!!」

「NXTー!!」

私は舞台袖で、スタッフさんと一緒に最終確認をしていた。

「マイクOK!」

「音響OK!」

「照明スタンバイ!」

(いよいよだ……!)

胸が高鳴る。

仕事中だから落ち着かなきゃ。

そう思っていても、自然とステージのほうへ目が向いてしまう。

「それでは――スタート!」

イントロが流れた瞬間、体育館が大きな歓声に包まれた。

スポットライトの中へ現れたNXT。

その姿は、やっぱり眩しかった。

リオさんも、いつもの静かな雰囲気とは違う。

歌って、踊って、ファンへ笑顔を向ける姿は、本当にかっこいい。

(やっぱり……推しだな。)

思わず見とれてしまう。

その時だった。

リオさんの視線が、ふっと舞台袖へ向く。

一瞬だけ目が合う。

ドキッ。

私は思わず小さく手を振った。

リオさんはほんの少しだけ口元を緩める。

その笑顔を見た瞬間、胸がいっぱいになった。

(今……笑ってくれた。)

それだけで、今日一日頑張ってよかったと思えた。

---

ライブは大盛り上がり。

曲が終わるたびに大きな拍手が響く。

私は次のコーナーの準備をしながら、心の中でそっと応援していた。

(最後まで、頑張ってください!)

---

― リオ目線 ―

ステージに立つと、いつもなら緊張はしない。

でも今日は違った。

ライトの向こうに、ミオがいる。

舞台袖で一生懸命に動き回る姿が見える。

(ちゃんと休めてるかな。)

そんなことを考えてしまう。

歌っている最中なのに。

気づけば、また目で探していた。

「あ。」

舞台袖でミオと目が合う。

ミオが小さく手を振ってくれた。

思わず笑ってしまう。

その瞬間――

「おっ。」

隣で踊っていたユウが、小さく声を漏らした。

(やば。)

見られた。

曲が終わり、MCタイム。

ユウがマイクを持って笑う。

「みんな、文化祭楽しんでるー?」

「いぇーい!!」

体育館中が盛り上がる。

その横で、ユウはリオにだけ聞こえる声でささやいた。

「今、舞台袖見てたでしょ。」

「……。」

「しかも笑ってた。」

「気のせい。」

「気のせいじゃないって。」

ハルが苦笑しながら間に入る。

「ほら、本番中。」

「はーい。」

ユウは笑いながら前を向いた。

でも、その表情はどこか嬉しそうだった。

(リオがこんなに変わるなんて。)

ライブ終盤。

最後の曲が始まる。

客席を見渡すと、生徒のみんなが笑顔でペンライトを振っている。

そして舞台袖には――

ミオ。

誰よりも楽しそうに、NXTを見つめている。

その笑顔を見た瞬間、リオの胸に温かい気持ちが広がる。

(やっぱり……。)

ステージの上でも、真っ先に見つけてしまう。

目で追ってしまう。

もう、この気持ちは止められない。

だけど、その時――。

体育館の後ろの扉が開き、一人の女子生徒がリオをじっと見つめていた。

「……やっと会えた。」

その小さなつぶやきを聞いた人は、まだ誰もいなかった――。

― ミオ目線 ―

ライブは大成功だった。

最後の曲が終わると、体育館中が大きな拍手に包まれる。

「ありがとうございました!」

NXTのみなさんが笑顔でお辞儀をすると、生徒たちから「また来てー!」という声が飛び交った。

私は舞台袖で片付けを始める。

「ミオちゃん、このマイクお願い!」

「はい!」

機材を運びながら、さっきまでのライブを思い返していた。

(本当にかっこよかったな……。)

その時だった。

控室へ向かう廊下で、一人の女子生徒がリオさんに近づくのが見えた。

「リオくん!」

明るく笑う女の子。

「ずっと応援してました!」

リオさんは少し驚いたように立ち止まる。

「ありがとう。」

優しく返事をする姿は、いつもファンに向ける笑顔だった。

分かってる。

リオさんはアイドルだから。

ファンを大切にするのは当たり前。

なのに――。

胸の奥が少しだけ痛くなった。

(……あれ?)

なんだろう、この気持ち。

苦しい。

モヤモヤする。

私はその場を離れ、機材を運ぶことに集中した。

「よし……頑張ろう。」

そうつぶやいたけれど、心は少しだけ曇ったままだった。

---

― リオ目線 ―

ライブが終わり、控室へ向かって歩いていると、一人の女子生徒が声をかけてきた。

「リオくん!」

振り向くと、文化祭の実行委員らしい名札を付けた生徒だった。

「今日は来てくれてありがとうございました!」

「こちらこそ、ありがとう。」

少し話していると、その子が笑顔で言う。

「写真はダメですよね?」

「ごめんね。」

「ですよね!」

そう笑ってくれたので、ほっとした。

その時。

廊下の向こうで、機材を持って歩くミオが見えた。

……でも。

いつもより笑顔がない。

「……。」

気づけば会話を終え、ミオのほうへ歩いていた。

「ミオ。」

「えっ?」

振り返ったミオは、少し驚いたような顔をする。

「疲れた?」

「ううん、大丈夫です!」

笑っている。

でも。

少しだけ無理をしている笑顔だと分かった。

「……何かあった?」

「え?」

「元気ない。」

ミオは一瞬だけ目を伏せた。

「そんなことないですよ。」

「……そう?」

「はい!」

その返事に、リオはそれ以上聞かなかった。

でも心の中では思っていた。

(絶対、何かあった。)

どうしたらまた笑ってくれるんだろう。

そのことばかり考えてしまう。

すると、後ろからユウがやって来た。

「リオ。」

「ん?」

「今日さ。」

「うん。」

「ミオちゃんのこと、何回探したと思う?」

「……。」

「俺、数えてた。」

「数えたの?」

「十五回。」

「……そんなに?」

「うん。」

ハルも笑いながら近づいてくる。

「リオ。」

「何。」

「もう十分分かってるでしょ?」

リオは少し照れくさそうに笑う。

「……うん。」

その答えに、ユウは思わずガッツポーズをした。

「やっと認めた!」

リオは照れながらも、小さくつぶやく。

「好きだから。」

その一言に、ユウもハルもソラもレンも思わず顔を見合わせる。

「聞いた?」

「うん。」

「本人の口から初めて聞いた。」

四人は笑顔になる。

でも、その会話をミオは知らない。

帰り道。

夕暮れの校舎を見上げながら、ミオは小さく息をついた。

(さっきの気持ち……。)

あれはきっと。

初めて知った――

**"嫉妬"**だった。

一方、リオは車の窓から校舎を見つめていた。

(ミオ。)

心の中で名前を呼ぶ。

(次は、ちゃんと笑わせたい。)

恋を知った二人。

でも、お互いの想いはまだ胸の奥にしまわれたまま。

その距離は、あと少しで届きそうなのに――。