推しが彼氏!?

☆第6話☆ 「同じ空を見上げて」

― ミオ目線 ―

「また明日。」

昨日、リオさんが言ってくれたその一言が、朝から何度も頭の中で繰り返されていた。

(私、浮かれすぎかな……。)

鏡を見ながら小さく笑う。

「よし、今日も頑張ろう!」

制服ではなく、事務所のスタッフ用パーカーに袖を通す。

もう夏休みのアルバイトも慣れてきた。

最初は緊張で何も話せなかったのに、今ではメンバーとも自然に挨拶ができる。

でも――。

リオさんだけは、まだ特別。

目が合うだけで胸がドキドキしてしまう。

---

「おはようございます!」

控え室へ入ると、いつものようにユウが元気よく手を振った。

「ミオちゃん、おはよー!」

「おはようございます!」

レンも笑顔で近づいてくる。

「今日もよろしくお願いします!」

「こちらこそ!」

そんな会話をしていると、ドアが静かに開いた。

「……おはよう。」

リオさんだ。

「あ、おはようございます!」

私が笑顔で返すと、リオさんも小さくうなずく。

「おはよう。」

その一言だけなのに、心臓が少し速くなる。

「今日は雑誌の撮影だよ。」

ハルさんがスケジュールを確認する。

「屋上で撮るらしい。」

「屋上!?」

「景色きれいらしいよ。」

ユウが笑う。

(屋上かぁ……。)

少し楽しみになってきた。

---

撮影の準備が始まり、私はカメラマンさんのお手伝いをしていた。

「ミオちゃん、そのレフ板お願い!」

「はい!」

慣れないレフ板を持ちながら、撮影を見守る。

夏の青空。

風になびく衣装。

今日もNXTは本当にかっこいい。

ふと視線を上げると、リオさんと目が合った。

(あ……。)

一瞬だけ。

本当に一瞬だけ笑ってくれた気がした。

その笑顔に胸が熱くなる。

(……やっぱり、素敵だな。)

---

― リオ目線 ―

最近、不思議なことがある。

朝、事務所へ来ると。

自然と一番最初に探してしまう人がいる。

「……。」

今日も気づけば控え室を見回していた。

(いる。)

ミオがスタッフさんと話して笑っていた。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。

(……なんだろ。)

自分でも理由が分からない。

でも、笑っていてくれると安心する。

それだけは確かだった。

「リオ。」

ユウが横から顔をのぞき込む。

「また見てる。」

「……見てない。」

「いや、今見てた。」

「違う。」

「じゃあ何見てたの?」

「……窓。」

「ミオちゃん、窓になったの?」

「……。」

ソラが思わず吹き出す。

ハルも笑いをこらえていた。

「ユウ、からかいすぎ。」

「だって分かりやすすぎるんだもん。」

リオは小さくため息をつく。

(そんなに分かりやすいのかな。)

自分では普通のつもりだった。

でも。

撮影中も。

休憩中も。

気づけばミオを探してしまう。

レフ板を持って、一生懸命走り回る姿。

スタッフさんに笑顔で返事をする姿。

転ばないように慎重に歩く姿。

全部、目に入ってくる。

(頑張ってるな。)

そう思うたびに、応援したくなる。

その時だった。

屋上に少し強い風が吹く。

ミオの髪がふわっと揺れた。

思わず目で追ってしまう。

「……きれい。」

気づいた時には、小さくつぶやいていた。

「え?」

隣にいたレンが振り向く。

「何か言いました?」

「……いや。」

ごまかしたけれど、心臓は少しだけ速くなっていた。

(俺……。)

最近、本当に変だ。

ミオのことを考える時間が、前よりずっと増えている。

この気持ちは、いったい何なんだろう――。

― ミオ目線 ―

「よし、次は集合写真いきます!」

カメラマンさんの声が屋上に響く。

青空の下、NXTの5人が笑顔で並ぶ。

シャッター音が何度も鳴り、撮影は順調に進んでいた。

私は少し離れた場所で、小道具の確認をしている。

「次の撮影で使うボール……あった!」

ホッとした、その時だった。

ポツッ。

「……あれ?」

頬に冷たいものが落ちる。

空を見上げると、さっきまでの青空に黒い雲が広がっていた。

ポツ……ポツ……。

そして。

ザーッ!!

「雨だ!」

スタッフさんの声で現場が一気に慌ただしくなる。

「機材を中へ!」

「衣装も急いで!」

「みんな移動して!」

私は慌ててレフ板を抱え、屋内へ運ぼうとした。

でも。

「わっ!」

濡れた床で足が滑りそうになる。

その瞬間。

「危ない!」

誰かが腕をつかんだ。

「……!」

振り返ると、そこにはリオがいた。

「リオさん……!」

「大丈夫?」

「はい……ありがとうございます。」

リオは安心したように小さく息をつく。

「こっち。」

私の手からレフ板を受け取ると、一緒に屋内へ走り始めた。

雨はどんどん強くなる。

二人とも少し濡れてしまった。

屋内へ入ると、スタッフさんが申し訳なさそうに言った。

「雨が止むまで少し休憩です!」

私はタオルを受け取り、髪を拭く。

「風邪ひかないようにね。」

「はい!」

その時、隣から白いタオルが差し出された。

「これ。」

「え?」

「まだ濡れてる。」

リオだった。

「でも、リオさんのタオルじゃ……。」

「予備。」

「ありがとうございます。」

タオルを受け取ると、ほんのり柔軟剤の優しい香りがした。

(……なんだか安心する。)

思わず頬が熱くなる。

---

― リオ目線 ―

雨が降り始めた瞬間。

真っ先に目に入ったのは、ミオだった。

レフ板を抱えたまま、滑りそうになっている。

考えるより先に体が動いていた。

「危ない!」

腕をつかんだ瞬間。

ミオは驚いたように俺を見上げた。

(……よかった。)

転ばなくて。

ただ、それだけなのに。

胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

「リオ。」

後ろからハルの声が聞こえる。

「機材はこっちお願い。」

「あ……うん。」

返事をしながらも、気になってしまう。

ちゃんと雨に濡れてないかな。

寒くないかな。

風邪ひかないかな。

そんなことばかり考えている自分がいた。

休憩スペースで、ミオが髪を拭いている姿が目に入る。

まだ少し肩が濡れていた。

(……。)

気づけば、自分の予備のタオルを手に取っていた。

「これ。」

ミオが少し驚いた顔をする。

でも、嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとうございます。」

その笑顔を見た瞬間。

胸がドクンと大きく鳴る。

(……まただ。)

最近、この音が増えてきた。

ミオが笑うたび。

名前を呼ばれるたび。

近くにいるだけで、落ち着かない。

「リオ。」

今度はユウだった。

「……何。」

「タオル、自分から渡したね。」

「……。」

「しかも予備。」

「別に。」

「ふーん。」

ユウはニヤニヤが止まらない。

「心配だった?」

「……風邪ひくと困るから。」

「誰が?」

「スタッフ。」

「ミオちゃんでしょ?」

「……。」

返事ができない。

ハルはその様子を見て、静かに笑った。

「リオ。」

「ん?」

「もう答えは出てるんじゃない?」

その言葉に、俺は何も言えなかった。

だけど一つだけ、はっきりしていることがある。

ミオが笑っていると、嬉しい。

ミオが困っていると、助けたくなる。

その気持ちは、もう隠せないくらい大きくなり始めていた――。

― ミオ目線 ―

30分ほどすると、激しかった雨は少しずつ弱まり、やがて空が明るくなり始めた。

「雨、止みましたね!」

スタッフさんの声に、みんながほっとした表情を浮かべる。

「屋上で空だけ撮っておこう!」

カメラマンさんが急いで機材を運ぶ。

私も小道具を持って屋上へ向かった。

ドアを開けると――

「わぁ……。」

思わず声が漏れる。

雨上がりの空には、大きな虹がかかっていた。

夕焼けに照らされた虹は、とてもきれいで。

まるで映画のワンシーンみたいだった。

「すごい……。」

私は夢中で空を見上げる。

その時。

「ミオ。」

聞き慣れた、落ち着いた声。

振り向くと、リオさんが立っていた。

「リオさん!」

「……きれい。」

「ですよね!」

私は嬉しくなって笑う。

「こんな大きな虹、久しぶりに見ました!」

リオさんも空を見上げ、小さくうなずいた。

「うん。」

短い返事。

でも、その横顔はどこか優しかった。

「今日の撮影、大変でしたね。」

「そうだね。」

「でも、最後にこんな景色が見られてよかったです。」

そう言うと、リオさんは少しだけ笑った。

「……ミオらしい。」

「え?」

「最後まで前向き。」

突然言われて、少し照れてしまう。

「そんなことないですよ。」

「ある。」

優しい声だった。

胸がドキドキしてしまう。

その時。

「リオー! ミオちゃーん!」

遠くからユウくんの声が聞こえた。

「写真撮るよー!」

「あ、行きます!」

私たちは顔を見合わせ、小さく笑ってからみんなのところへ向かった。

---

― リオ目線 ―

雨上がりの屋上。

虹を見上げて笑うミオは、本当に嬉しそうだった。

「きれい。」

その一言が、自然に口から出た。

本当は。

虹だけじゃない。

笑っているミオが、きれいだった。

(……。)

また考えてしまう。

最近、頭の中にいるのはミオばかり。

朝も。

仕事中も。

帰る時も。

気づけば探している。

笑顔を見ると安心して。

落ち込んでいると気になって。

誰かと楽しそうに話していると、少しだけ胸がざわつく。

(これって……。)

後ろから足音が聞こえた。

「リオ。」

ハルだった。

「撮影、終わるって。」

「ああ。」

ハルはリオの隣に立ち、虹を見上げる。

「きれいだね。」

「うん。」

少し沈黙が流れたあと、ハルが静かに笑った。

「最近、楽しそう。」

「……そう?」

「うん。」

「理由、分かる?」

リオは少しだけ考えた。

そして、ゆっくり息を吐く。

「……分かったかも。」

「え?」

「ミオが笑ってると、嬉しい。」

「うん。」

「困ってたら助けたい。」

「うん。」

「他の人と話してると……少しだけ気になる。」

ハルは優しく微笑んだ。

「それなら、もう答えは出てるね。」

リオは夕焼けの空を見上げる。

胸の奥が少し熱い。

今まで感じたことのない気持ち。

でも、不思議と嫌じゃない。

「……好き、なのか。」

その小さなつぶやきは、風に乗って夕焼けの空へ消えていった。

その頃、少し離れた場所では――。

「ユウ、またニヤニヤしてる。」

ソラが笑う。

「だってさ。」

ユウは腕を組みながら満足そうにうなずく。

「やっとリオが気づいた。」

レンも嬉しそうに笑った。

「これからが楽しみですね!」

でも、ミオはまだ知らない。

リオが、自分への気持ちに気づいたことを――。

そして、その恋が二人の毎日を少しずつ変えていくことも。