推しが彼氏!?

☆第9話☆ 「最後の夏休み」

― ミオ目線 ―

夏休み最後の日。

カレンダーを見るたび、少しだけ胸がきゅっとなる。

「明日から学校か……。」

そして。

「事務所のお手伝いも、もうすぐ終わり。」

そのことを考えると、寂しい気持ちになる。

最初はただのアルバイトだった。

NXTのスタッフのお手伝い。

憧れの人たちを近くで見られる、夢みたいな時間。

でも今は――。

(リオさんに会える時間。)

それが、私にとって大切なものになっていた。

---

「おはようございます!」

事務所へ着くと、いつものようにスタッフさんが迎えてくれる。

「ミオちゃん、おはよう!」

「今日もよろしくお願いします!」

控え室へ向かうと、メンバーたちが準備をしていた。

「ミオちゃん!」

ユウが手を振る。

「夏休み最後の日だね!」

「そうですね。」

「なんか寂しくない?」

その言葉に、私は少しだけ黙ってしまった。

「……少しだけ。」

するとユウは優しく笑った。

「そっか。」

その時。

「おはよう。」

リオさんが入ってきた。

「おはようございます!」

目が合う。

いつも通りの挨拶。

なのに。

今日はなぜか、少しだけ寂しく感じた。

---

午後。

NXTは新しい曲の練習。

私は資料の整理をしていた。

「ミオ。」

突然呼ばれて振り向く。

「はい?」

そこにはリオさんがいた。

「少し時間ある?」

「あります!」

「じゃあ……。」

少しだけ迷ったような表情。

「手伝ってほしいことがある。」

「分かりました!」

---

連れて行かれたのは、事務所の屋上だった。

「ここ……?」

「うん。」

夕方の空。

オレンジ色の光が広がっている。

「綺麗ですね。」

私が言うと、リオさんは空を見上げたまま言った。

「……夏、終わるね。」

「はい。」

短い返事。

でも、その声は少し寂しそうだった。

「ミオ。」

「はい?」

「夏休みが終わったら……。」

一瞬、リオさんが言葉を止める。

「……。」

「どうしました?」

リオさんは少しだけ目をそらした。

「いや。」

そして、小さく笑う。

「なんでもない。」

でも。

その表情は、いつものリオさんとは少し違って見えた。

まるで。

言いたいことを我慢しているみたいだった。

---

― リオ目線 ―

屋上へ誘った理由。

本当は、ちゃんとした理由なんてなかった。

ただ。

少しだけ、ミオと話したかった。

夏休みが終われば、ミオは学校へ戻る。

今みたいに毎日会えなくなる。

そう考えた瞬間。

胸の奥が苦しくなった。

(もっと一緒にいたい。)

その気持ちが、日に日に大きくなっている。

でも。

ミオにとって俺は、まだ「推し」なのかもしれない。

急に距離を縮めたら困らせるかもしれない。

だから、言えなかった。

「ミオ。」

名前を呼ぶだけで、少し安心する。

「はい?」

振り向く笑顔。

その笑顔を見ると、もっと近くにいたいと思う。

「……。」

言葉を探す。

でも結局。

「明日も、頑張ろう。」

そんな普通の言葉しか出てこなかった。

ミオは笑ってうなずく。

「はい!」

その笑顔を見ながら思う。

(いつか。)

ちゃんと伝えたい。

俺の気持ちを。

でもその前に――。

この大切な時間を、もう少しだけ守りたい。

夕焼けに染まる屋上で。

二人は同じ空を見上げていた。

まだ伝えられない想いを抱えながら――。

― ミオ目線 ―

屋上で夕焼けを見た次の日。

私はいつも通り事務所へ向かった。

でも、昨日のリオさんの表情がずっと頭から離れなかった。

(何か言いたそうだったな……。)

でも、聞く勇気はなかった。

リオさんにも、きっと何か考えていることがある。

そう思って、私は今日も仕事に集中することにした。

---

「ミオちゃん!」

スタッフさんが資料を持って走ってくる。

「急でごめんね!今日の撮影、少し変更になったの!」

「分かりました!」

慌ただしい現場。

でも、今ではこの空気にも慣れてきた。

前なら緊張していたことも、今では自然に動ける。

「ミオちゃん、本当に頼りになるね。」

そう言われるたび、嬉しくなる。

だけど。

ふと気づく。

(この時間も、もうすぐ終わっちゃうんだ。)

---

休憩時間。

私は一人でベンチに座っていた。

すると。

「隣、いい?」

「え?」

顔を上げると、リオさんがいた。

「もちろんです!」

少し緊張しながら横に座る。

しばらく二人で静かに過ごした。

でも、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ安心する。

「ミオ。」

「はい?」

「学校、始まったら忙しくなる?」

「たぶん……少しは。」

「そっか。」

その返事が、なぜか寂しそうに聞こえた。

「でも!」

私は慌てて続ける。

「またお仕事の日は来ます!」

リオさんは少し驚いた顔をして――

「……うん。」

小さく笑った。

その笑顔を見て、私も嬉しくなる。

---

― リオ目線 ―

「またお仕事の日は来ます。」

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が少し軽くなった。

自分でも驚く。

たったそれだけの言葉なのに。

こんなに嬉しいなんて。

(俺、どれだけミオに会いたいんだろう。)

最近、気づけばミオのことばかり考えている。

でも。

一つだけ不安がある。

ミオはどう思っているんだろう。

俺のことを。

ただの憧れのアイドルとして見ているのか。

それとも――。

「リオ。」

「ん?」

ユウが後ろから声をかけてきた。

「また考え事?」

「……。」

「ミオちゃんのこと?」

「……。」

答えられない。

でも、ユウは笑った。

「顔に出てるよ。」

「そんなに?」

「うん。」

ハルも近づいてくる。

「でも、いいことだと思う。」

「え?」

「誰かを大切に思えるってことだから。」

その言葉に、少し考える。

昔の自分なら。

こんなふうに誰かのことで悩むことなんてなかった。

でも今は。

ミオが笑っているか。

元気でいるか。

そればかり気になる。

---

夕方。

帰る前。

ミオがスタッフさんと話している姿が見えた。

楽しそうに笑っている。

その笑顔を見るだけで、自然と安心する。

(明日も会えたらいいな。)

そう思った瞬間。

自分の気持ちに気づく。

俺はきっと。

ミオとの「普通の時間」を大切にしたいんだ。

アイドルとスタッフじゃなく。

ただのリオとして。

ただのミオとして。

一緒に笑える時間を――。

― ミオ目線 ―

夏休み最後の日。

いつものように事務所へ向かう道を歩く。

明日から学校。

そして、これまでみたいに毎日ここへ来ることはなくなる。

そう考えると、少し寂しかった。

「……。」

でも。

楽しかった思い出がたくさんある。

初めてNXTのみんなと話したこと。

リオさんと雨宿りしたこと。

夏祭りで花火を見たこと。

全部、忘れたくない思い出だった。

---

「ミオちゃん!」

事務所へ着くと、スタッフさんが笑顔で迎えてくれる。

「今日で夏休み最後だね。」

「はい。」

「本当に助かったよ。ありがとう。」

「こちらこそ、ありがとうございました!」

そう言われると、胸がいっぱいになる。

最初はただのアルバイトだった。

でも今は。

ここが私にとって大切な場所になっていた。

---

片付けをしていると。

「ミオ。」

後ろから声がした。

振り返る。

「リオさん。」

「少しだけ、時間ある?」

「はい。」

まただ。

前にも連れてきてもらった屋上。

夕焼けが広がっていた。

「ここ、好きなんですか?」

私が聞くと、リオさんは少し考えてから答えた。

「……うん。」

「なんでですか?」

「静かだから。」

少し間を置いて。

「あと。」

「?」

「ミオと話せるから。」

その言葉に、心臓が大きく跳ねた。

「……。」

リオさんは少し照れたように空を見る。

「夏休み。」

「はい。」

「楽しかった。」

「私もです。」

「……よかった。」

その笑顔は、いつものステージの上の笑顔とは違った。

もっと近くて。

もっと優しい。

---

― リオ目線 ―

本当は伝えたいことがあった。

夏が終わる前に。

もっと一緒にいたいって。

会えない時間が寂しいって。

でも。

まだ言葉にする勇気がなかった。

だから。

今できることを伝える。

「ミオ。」

「はい?」

「これからも。」

少しだけ息を吸う。

「無理しないで。」

「え?」

「頑張りすぎるところあるから。」

ミオは少し驚いた顔をした。

「……見てたんですか?」

「うん。」

「いつも?」

「……たぶん。」

その答えに、ミオが笑う。

「リオさんって、意外とよく見てますね。」

「そうかな。」

「はい。」

その笑顔を見ると、安心する。

やっぱり。

俺はこの笑顔が好きだ。

---

帰る時間。

屋上を出る前に、ミオが振り返った。

「リオさん。」

「ん?」

「明日から学校頑張ります。」

「うん。」

「リオさんも、お仕事頑張ってください。」

その言葉が嬉しかった。

「……ミオも。」

「はい。」

「また会えるの、楽しみにしてる。」

言ったあと、自分でも少し驚いた。

こんなに素直な言葉が出るなんて。

ミオも少し驚いた顔をして。

そして。

「私もです。」

そう笑った。

---

その夜。

ミオはベッドの上で今日のことを思い出していた。

(また会えるの、楽しみにしてる。)

その言葉が頭から離れない。

一方、リオも。

「……。」

スマホを見る。

特別な連絡が来ているわけじゃない。

それでも。

明日からも頑張ろうと思えた。

二人にとって夏休みは終わる。

でも。

この夏に始まった気持ちは、まだ終わらない。

むしろ――

ここから少しずつ、大きくなっていく。