バスに乗って二時間、途中でお昼休憩を取って、バンガローテントが立ち並ぶキャンプ場に着いた。各テントに三班ずつ、男女別れて泊ることになる。テントの中は意外と綺麗だ。トイレやお風呂は外に行かなければいけないけれど、寝るだけなら申し分ない。小学校の時に泊まったバンガローテントは本当にほっ建て小屋だったから、窓ガラスもきちんと鍵がかかる扉もついている時点で随分マシだ。私たちはテントの中に荷物を下して、一息つく。
「これからなんだっけ?」
「クイズラリーでしょ」
「筆記用具忘れたー誰か貸して!」
「ボールペンでもいい?」
テント内でそんな会話が繰り広げられる。私は新奈と神田さんと一緒に外に出て、集合場所であるテントの中央に集まった。全員がそろうと、学年主任の先生が説明を始める。
「みんなには各班で別れて、園内に設置してある問題を解いてもらう。今から配る用紙に、答えを書くこと、制限時間は二時間、ゴールの早さは競わないこととする」
配られた用紙を覗き込むと、問題は十問もあった。一緒に配られた地図は園内を図式化したものだろう。クイズを解くのは好きだけれど、広い園内を歩いて回るのは結構大変そうだ。体力に自信のない私は少しだけ不安になる。
「俺たちのスタート地点はCだからあっちからスタートだな」
班長である佐木君(アウトドア経験が豊富ということで、全会一致で決まった)が持っている地図を見ながら、陽平君が確認してくれる。同じコースを行ったのではぞろぞろと大名行列になってしまう。因って、各班ごとに別々のスタート地点が設けられていた。私達三班は池がある方向からのスタート。
「面倒くさいなって思ってたけど、ここまで来るとちょっとわくわくするよな」
「ちょっとじゃないだろ、俺はかなりわくわくしている」
「森らしいなぁ、おまえも面倒くさい口だろう、湊?」
「おまえ、アウトドアが好きだとか言ってただろうが」
「好きなのは親父、俺は連れまわされて詳しいだけ」
桐谷君がこの合宿のことを面倒くさいと思っていたのなら、少しでも楽しい思い出になったらいいなと思う。
スタートの合図とともに、私達はコース内を歩きはじめた。生い茂る木々の中、設置されているであろう問題を探していく。
「クイズって三択かなぁ?」
「筆記だったら面倒だな」
「先生たち、どんな問題出すだろうね?」
佐木君と新奈が話しながら前を進んでいってくれる。その後ろに桐谷君、私の横には陽平君そして少し離れて神田さんが付いてきていた。
後ろから見上げる桐谷君の姿は、やっぱり少し大人びていてドキリとしてしまう。いけない、新奈のことを応援すると決めたのに、私がときめいてどうするの。
「あった! 見て見て、一問目あったよ~」
新奈の嬉しそうな声がした。見ると一本の杉の木にA4のコピー用紙がくくりつけられている。
「何々? 第一問、学年主任の田中先生が一番好きな食べ物はなんでしょうか?」
「なんだよそれ、知るわけないだろ!」
「三択とかじゃないよ~、ねぇなんだと思う?」
「適当でいいだろう? はい、ハンバーグ」
佐木君はペンを取り出して、陽平君の持っている用紙に書こうとする。
「おい、子供じゃねぇんだから、もっと考えろよ。あ、でも、俺もハンバーグ好き」
「真面目に考える問題じゃないだろ」
桐谷君の言葉に、陽平君はそれもそうかと、納得している。女子三人人も特に口をはさむことはなく、佐木君は「ハンバーグ」と書き込んだ。
「こんな馬鹿馬鹿しい問題が続くわけじゃないでしょうね?」
「あはは、難問だよねぇ」
後ろにいた神田さんも呆れたような顔でそんなことを言い始める。少しずつ、会話が交わされるようになってくる。
「あった、二問目」
陽平君が見つけたのは大きな石の裏側に張り付けてある問題。
「なになに? 1858年7月29日、日本とアメリカ合衆国の間で取り交わされた条約はなんでしょうか? また、当時の将軍の名前を書きなさい?」
「なんだよ今度は真面目かよ。これ、日米修好通商条約だろ? このときの将軍誰だ?」
「家茂《いえもち》」
「はいはい、にちべいしゅうこうつうしょうじょうやく、とくがわいえもちっと。はい、二問目終了ー!」
陽平君が紙に書き込んでくれる。こんな風に問題を探して、色々一緒に考えて、相談して、今まで名前くらいしか知らなかった互いの性格とか、得意分野とか、いろんなことがわかってくる。距離が、近くなる感じ。とっても楽しい!
「あった、五問目、どれどれ? なんだこれ」
「なんて書いてあんだよ、第91回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したのは誰でしょうか? うっわ、知らねぇ。湊知ってる?」
「ニュースで見たけど忘れた」
「だよなぁ、女の子知ってる子いる?」
佐木君に問われて私も新奈も首をかしげた。アカデミー賞の作品賞を受賞したのはグリーンブックっていう作品だったけれと、主演男優賞の名前まで覚えていない。
「ボヘミアン・ラプゾディのラミ・マレック」
振り返ると、神田さんがすらすらと答えを言い始める。
「すごい!」
新奈と声を合わせて言うと、神田さんは照れたようにそっぽを向いた。
「普通よ、映画見たから覚えてただけ。ナイトミュージアムにも出てたし」
「神田さん、洋画好きなの?」
「わりと、邦画も好きだけど、洋画の方が好きな作品が多いかも」
「格好いい!」
「普通でしょ」
すごい、神田さんのことを、少し知ることが出来た。話してみると神田さんは穏やかな口調だし、見た目の印象ほど刺々した感じがしない。自然と私の頬も緩む。
「おすすめの洋画ある?」
神田さんが面白かったって思う映画が知りたくて尋ねてみる。すると神田さんは真剣な顔で悩んでくれる。
「そうね、私、SFが好きなのよね。スケールが大きくて、ゼログラビティとかオデッセイとか面白かった。衣装とかメイクとか印象的なのはプラダを着た悪魔かなぁ」
「神田さんSF好きなんだね、意外かも」
新奈の率直な感想に気分を害する様子もない。
「それ、自分でも思う。私、ファッションが好きだからさ、映画以外はSF興味ないんだ」
「神田さんメイクとかも毎日しっかりしてるもんね、私、リップくらいしかひかないからすごく尊敬する! 美人だし良いなぁ」
神田さんってとっても大人っぽいけど、メイクしてるからっていうのもあるかも。私もメイク上手になりたいなぁ。
「メイク好きだからねぇ」
「教えて欲しい!」
「いいよ、メイク道具なかったら買いに行くとこから行こう。百均とかでもいいものいっぱいあるし」
「行く行く! 穂花も行くでしょう?」
「うん、行きたい!」
女子三人、すっかり意気投合してしまった。神田さんは懐に踏み込んでしまえばフレンドリーな女の子なのだと思う。私たち周りのみんなも、神田さんはなんとなく一人が好きなんだろうなぁって思い込んでいたんだと思う。
六人で難問に挑んでいると、班で一丸になっている感じが強くなってきた。
「あったよ~十問目!」
「どれどれ? 二組担任の秋月先生の奥さんの名前を書きなさい?」
新奈の頭の上に大きなはてなマークが浮かぶ。
「知らねぇ、ってか秋月結婚してんのか」
それ、私も思ったよ佐木君! って心の中で同意していたら佐木君がペンを握る。
「カトリーヌ」
「国際結婚!?」
新奈がすかさずツッコミを入れる。でも、秋月先生ならありえないこともないかもしれない。
「絶対違うだろ、秋子じゃねぇ?」
陽平君の案はいたって普通の名前、ゴロが良すぎじゃない? 芸名みたい。
「秋月秋子、いいねぇ。ぽいぽい。春子もよくない?」
「どうせわかんねぇんだから面白いの書くぞ」
六人でけらけら笑いながら答えを書く。秋月先生に怒られませんように。
「よーし、ちょうど二時間経ったんじゃねぇ? もとの集合場所に帰ったらゴールだ」
「やっと終わりかぁ、けっこう楽しかかったなぁ」
「問題の内容が意味不明だったけどな」
「時間かけてない感半端なかったよなぁ」
前列に三人並んで歩く男の子の背中を見つめてみる。歩き方だけで誰かわかっちゃうくらい三人には違いがある。陽平君は弾むように大股で歩くし、佐木君は滑るように滑らかに歩く。桐谷君は、背が高いからか、ちょっと猫背だ。猫好きで、猫背。ちょっと長めの髪が、耳にかかっている。陽平君や佐木君と話すたびに、ちらっと見える横顔に、ちょっと心がときめいてしまう。
「なに笑ってるのよ穂花」
「えぇ? 笑ってないよ」
「うっそ、今にやにやしてたくせに」
新奈に言われて私はそうかぁと首をかしげる。猫好きで猫背って言うのが、ちょっと可愛いなと思ってしまったのかもしれない。ダメだ、気にしないようにしようって決めたばっかりなのに。どうしたって目で追ってしまう。
「これからなんだっけ?」
「クイズラリーでしょ」
「筆記用具忘れたー誰か貸して!」
「ボールペンでもいい?」
テント内でそんな会話が繰り広げられる。私は新奈と神田さんと一緒に外に出て、集合場所であるテントの中央に集まった。全員がそろうと、学年主任の先生が説明を始める。
「みんなには各班で別れて、園内に設置してある問題を解いてもらう。今から配る用紙に、答えを書くこと、制限時間は二時間、ゴールの早さは競わないこととする」
配られた用紙を覗き込むと、問題は十問もあった。一緒に配られた地図は園内を図式化したものだろう。クイズを解くのは好きだけれど、広い園内を歩いて回るのは結構大変そうだ。体力に自信のない私は少しだけ不安になる。
「俺たちのスタート地点はCだからあっちからスタートだな」
班長である佐木君(アウトドア経験が豊富ということで、全会一致で決まった)が持っている地図を見ながら、陽平君が確認してくれる。同じコースを行ったのではぞろぞろと大名行列になってしまう。因って、各班ごとに別々のスタート地点が設けられていた。私達三班は池がある方向からのスタート。
「面倒くさいなって思ってたけど、ここまで来るとちょっとわくわくするよな」
「ちょっとじゃないだろ、俺はかなりわくわくしている」
「森らしいなぁ、おまえも面倒くさい口だろう、湊?」
「おまえ、アウトドアが好きだとか言ってただろうが」
「好きなのは親父、俺は連れまわされて詳しいだけ」
桐谷君がこの合宿のことを面倒くさいと思っていたのなら、少しでも楽しい思い出になったらいいなと思う。
スタートの合図とともに、私達はコース内を歩きはじめた。生い茂る木々の中、設置されているであろう問題を探していく。
「クイズって三択かなぁ?」
「筆記だったら面倒だな」
「先生たち、どんな問題出すだろうね?」
佐木君と新奈が話しながら前を進んでいってくれる。その後ろに桐谷君、私の横には陽平君そして少し離れて神田さんが付いてきていた。
後ろから見上げる桐谷君の姿は、やっぱり少し大人びていてドキリとしてしまう。いけない、新奈のことを応援すると決めたのに、私がときめいてどうするの。
「あった! 見て見て、一問目あったよ~」
新奈の嬉しそうな声がした。見ると一本の杉の木にA4のコピー用紙がくくりつけられている。
「何々? 第一問、学年主任の田中先生が一番好きな食べ物はなんでしょうか?」
「なんだよそれ、知るわけないだろ!」
「三択とかじゃないよ~、ねぇなんだと思う?」
「適当でいいだろう? はい、ハンバーグ」
佐木君はペンを取り出して、陽平君の持っている用紙に書こうとする。
「おい、子供じゃねぇんだから、もっと考えろよ。あ、でも、俺もハンバーグ好き」
「真面目に考える問題じゃないだろ」
桐谷君の言葉に、陽平君はそれもそうかと、納得している。女子三人人も特に口をはさむことはなく、佐木君は「ハンバーグ」と書き込んだ。
「こんな馬鹿馬鹿しい問題が続くわけじゃないでしょうね?」
「あはは、難問だよねぇ」
後ろにいた神田さんも呆れたような顔でそんなことを言い始める。少しずつ、会話が交わされるようになってくる。
「あった、二問目」
陽平君が見つけたのは大きな石の裏側に張り付けてある問題。
「なになに? 1858年7月29日、日本とアメリカ合衆国の間で取り交わされた条約はなんでしょうか? また、当時の将軍の名前を書きなさい?」
「なんだよ今度は真面目かよ。これ、日米修好通商条約だろ? このときの将軍誰だ?」
「家茂《いえもち》」
「はいはい、にちべいしゅうこうつうしょうじょうやく、とくがわいえもちっと。はい、二問目終了ー!」
陽平君が紙に書き込んでくれる。こんな風に問題を探して、色々一緒に考えて、相談して、今まで名前くらいしか知らなかった互いの性格とか、得意分野とか、いろんなことがわかってくる。距離が、近くなる感じ。とっても楽しい!
「あった、五問目、どれどれ? なんだこれ」
「なんて書いてあんだよ、第91回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したのは誰でしょうか? うっわ、知らねぇ。湊知ってる?」
「ニュースで見たけど忘れた」
「だよなぁ、女の子知ってる子いる?」
佐木君に問われて私も新奈も首をかしげた。アカデミー賞の作品賞を受賞したのはグリーンブックっていう作品だったけれと、主演男優賞の名前まで覚えていない。
「ボヘミアン・ラプゾディのラミ・マレック」
振り返ると、神田さんがすらすらと答えを言い始める。
「すごい!」
新奈と声を合わせて言うと、神田さんは照れたようにそっぽを向いた。
「普通よ、映画見たから覚えてただけ。ナイトミュージアムにも出てたし」
「神田さん、洋画好きなの?」
「わりと、邦画も好きだけど、洋画の方が好きな作品が多いかも」
「格好いい!」
「普通でしょ」
すごい、神田さんのことを、少し知ることが出来た。話してみると神田さんは穏やかな口調だし、見た目の印象ほど刺々した感じがしない。自然と私の頬も緩む。
「おすすめの洋画ある?」
神田さんが面白かったって思う映画が知りたくて尋ねてみる。すると神田さんは真剣な顔で悩んでくれる。
「そうね、私、SFが好きなのよね。スケールが大きくて、ゼログラビティとかオデッセイとか面白かった。衣装とかメイクとか印象的なのはプラダを着た悪魔かなぁ」
「神田さんSF好きなんだね、意外かも」
新奈の率直な感想に気分を害する様子もない。
「それ、自分でも思う。私、ファッションが好きだからさ、映画以外はSF興味ないんだ」
「神田さんメイクとかも毎日しっかりしてるもんね、私、リップくらいしかひかないからすごく尊敬する! 美人だし良いなぁ」
神田さんってとっても大人っぽいけど、メイクしてるからっていうのもあるかも。私もメイク上手になりたいなぁ。
「メイク好きだからねぇ」
「教えて欲しい!」
「いいよ、メイク道具なかったら買いに行くとこから行こう。百均とかでもいいものいっぱいあるし」
「行く行く! 穂花も行くでしょう?」
「うん、行きたい!」
女子三人、すっかり意気投合してしまった。神田さんは懐に踏み込んでしまえばフレンドリーな女の子なのだと思う。私たち周りのみんなも、神田さんはなんとなく一人が好きなんだろうなぁって思い込んでいたんだと思う。
六人で難問に挑んでいると、班で一丸になっている感じが強くなってきた。
「あったよ~十問目!」
「どれどれ? 二組担任の秋月先生の奥さんの名前を書きなさい?」
新奈の頭の上に大きなはてなマークが浮かぶ。
「知らねぇ、ってか秋月結婚してんのか」
それ、私も思ったよ佐木君! って心の中で同意していたら佐木君がペンを握る。
「カトリーヌ」
「国際結婚!?」
新奈がすかさずツッコミを入れる。でも、秋月先生ならありえないこともないかもしれない。
「絶対違うだろ、秋子じゃねぇ?」
陽平君の案はいたって普通の名前、ゴロが良すぎじゃない? 芸名みたい。
「秋月秋子、いいねぇ。ぽいぽい。春子もよくない?」
「どうせわかんねぇんだから面白いの書くぞ」
六人でけらけら笑いながら答えを書く。秋月先生に怒られませんように。
「よーし、ちょうど二時間経ったんじゃねぇ? もとの集合場所に帰ったらゴールだ」
「やっと終わりかぁ、けっこう楽しかかったなぁ」
「問題の内容が意味不明だったけどな」
「時間かけてない感半端なかったよなぁ」
前列に三人並んで歩く男の子の背中を見つめてみる。歩き方だけで誰かわかっちゃうくらい三人には違いがある。陽平君は弾むように大股で歩くし、佐木君は滑るように滑らかに歩く。桐谷君は、背が高いからか、ちょっと猫背だ。猫好きで、猫背。ちょっと長めの髪が、耳にかかっている。陽平君や佐木君と話すたびに、ちらっと見える横顔に、ちょっと心がときめいてしまう。
「なに笑ってるのよ穂花」
「えぇ? 笑ってないよ」
「うっそ、今にやにやしてたくせに」
新奈に言われて私はそうかぁと首をかしげる。猫好きで猫背って言うのが、ちょっと可愛いなと思ってしまったのかもしれない。ダメだ、気にしないようにしようって決めたばっかりなのに。どうしたって目で追ってしまう。

