ナナイロ!

 春合宿の日はあっという間にやってきた。私はリュックサックに荷物をいっぱい詰め込むと、「いってきまーす」と家を出る。
 いつもは混んでいる路面電車も、休日のこの時間は空いていて、大きなリュックを持っていても問題なく乗ることができた。電車の中に新奈の姿を見つけて駆けよる。

「おはよう新奈!」
「おはよ~リュック重くない? 私もうヘトヘト」

 新奈の荷物には何が入っているのか、私のリュックよりもずっと大きい。

「新奈のリュック、何入ってるの?」
「マイピロー、私、枕が変わると眠れないタイプなんだよ~」
「なるほど、それは大きくなるねぇ」
「しかも蕎麦枕だから重たいの」
「宿泊施設に着いたらすぐに出そう」

 最寄駅に着くと、坂を上る。そんなに重さはないけれど、坂を上るとなるとずっしりと肩に重みがかかる気がする。私でも重たいのだ、新奈の荷物はなおさらだろう。

「二宮さん、山本さん、おはよ」

 後ろから呼び止められて振り返ると、自転車に乗った桐谷君と佐木君がいた。

「おはよ~、二人とも自転車通学なんだ」
「毎朝満員電車なんか乗ってられるかよ。それにしてもでかい荷物だなぁ、女子は荷物が多いな」
「佐木君そのボディバックで大丈夫なの?」
「一泊だろ? ヨユー」

 隣の桐谷君も佐木君と同じような小さな鞄しか持っていない。

「山本さん、鞄乗せようか?」

 桐谷君はちらりと私の方を見てから、新奈の荷物を見て、そんなことを言った。新奈はきょとんとしている。

「重いんだろう? 俺の荷物少ないから、チャリに乗せてやる」

 言うなり新奈の荷物を背中から剥ぎ取って、自転車のかごにひょいと乗せてしまった。

「あ、ありがとう」
「急がないと遅刻するぞ。荷物持っていっておくから」

 自転車で走り出す桐谷君。新奈はぼうっとした目でその背中を見つめていた。

「なんだよ格好いいことしやがって、じゃぁ俺は二宮さんの荷物持っていこうかな」

 佐木君がそんなことを言い始めるので、私は慌てて首を横に振った。

「大丈夫、ありがとう。私のは軽いから」
「そうかぁ? わかった、じゃぁまたあとでな」

 桐谷君の後を追うように自転車を漕ぎ始める佐木君。新奈は頬を赤らめながら歩きはじめた。

「桐谷君、紳士すぎ。穂花も佐木君に持ってもらったらよかったのに」
「あはは、私は枕入ってないし大丈夫。荷物運んでもらえて良かったね、新奈」

 新奈は私の問いかけにはにかんだ。ぱっちりとした目元、小さな口に、白い肌。改めて見ると、新奈は女の子っぽくて本当に可愛い。こういう子が困っていたら、男の子は思わず助けたくなっちゃうんだろうな……なんて想像するとため息が出た。
 私は論外だ、と思わず苦笑い。

 正門をくぐると、すでにたくさんの生徒たちが集まってきていた。自転車で先に行っていた桐谷君と佐木君もすでに集まっている。
 私たちの姿を見つけると、桐谷君は新奈にリュックを手渡してきた。

「ありがとう」
「何持ってきたんだよ、重いな」

 新奈は頬をほんのりと赤らめながら、桐谷君からリュックを受け取る。
 高校生って、こんな感じなのかな? 今までおんなじ学年の男の子なんて、なんとも思ったことなかったのに、桐谷君を見ているとどうしたことか心が穏やかではいられなくなる。おんなじ班なのに、こんな調子で大丈夫だろうか。少しだけ、ほんの少しだけ、新奈のことが羨ましかった。
 きっと、私が同じように重たい荷物を持っていたとしても、桐谷君は運んではくれないような気もした。きっと、新奈が特別だったのだ。そう思うと、ちくりと心が痛くなる。

 大型バスに新奈と並んで乗り込んだ。各班で並んで座るので、前の席には陽平君たちが座っている。陽平君は私たちが椅子に座ると、くるりと後ろに顔を出した。

「おはよ、穂花、山本さん」
「おはよう陽平君」
「穂花、昨日緊張して眠らなかっただろ?」
「そんなことないよ~」

 ありありです。慌てて言い返すと陽平君はにっと白い歯を見せて笑った。
陽平君の前の席に桐谷君と佐木君が座っている。本当は陽平君の隣に神田さんが座る予定なのだけれど、神田さんは誰も座っていない一番後ろの席に座っていた。
 バスが動き出すと、新奈はねぇ、と耳打ちしてきた。

「桐谷君、彼女いるかなぁ」
「どうかなぁ、まだ同じクラスになって一月ちょっとしか経ってないからわからないね」
「でもさ、他校とかにいたら噂になってるじゃん? ほら、正門で待ってたり、駅で待ち合わせたりしてさぁ」
「今回の合宿で聞いてみたらいいんじゃない?」
「直接聞くのは恥ずかしいよぉ」
「佐木君になんとなく聞いてみたらいいんじゃないのかな? ほら、佐木君と桐谷君っておんなじ中学でしょう?」

 そう提案すると、新奈は、そっかぁと頬を赤らめて頷いた。新奈は完全に桐谷君のことが気になっている。桐谷君も新奈のことが気になっているのだろうし……ここは、応援するところだ。

「私も陽平君とかに聞けたら聞いてみるよ、知らなそうだけど」
「ありがとう穂花!」

 にっこりと頬を赤らめる新奈はやっぱりすごく可愛かった。