「穂花、いっしょにご飯食べよう~ 合宿の話しもしたいしさ」
私と新奈はあっという間に仲良くなった。新奈は積極的な性格で、班分けで一緒になって以来、私に話しかけてくれるようになった。
「みんなごめんね」
私は今まで一緒にご飯を食べていた仲間たちと離れて、新奈と一緒に校庭の隅にある藤棚に向かう。正直に言うと、今までのメンバーといるよりも、新奈と一緒にいる方がずっと楽しい。
藤棚は花が満開で、綺麗な藤の花が素敵な日陰を作ってくれているのだ。
「神田さんにも声かけたんだけど来てくれるかなぁ」
「神田さん、いつもどこでご飯食べてるんだろう?」
「うーん、いつも教室でささっと何か食べて体育館に行ってる」
「なんで体育館?」
「バレー部だからじゃないかなぁ? 昼練?」
「バレーかぁ、すごいなぁ。私、ご飯食べた後はとても動く気になれないよぉ」
藤棚にある椅子に腰かけて、私と新奈はお弁当を広げた。神田さんはまだ来ていないみたい。
「合宿楽しみだねぇ、夕ご飯のカレー作りも楽しみ!」
「新奈料理上手そう」
「お菓子作りは好きなんだけど料理はあんまりしないかも、今度お菓子作って持ってくるね」
「わぁ、楽しみ」
新奈と私はすごく馬が合って、どうして四月の間ロクに話もしなかったのか、不思議なくらいだ。でも、その理由は明確。新奈はキラキラ女子、私は地味系女子。パッと見のコロニーが全然違った。神田さんもそう、神田さんは孤高の存在で、クラスの誰ともつるんでいない。
「穂花!」
突然名前を呼ばれたかと思ったら、目の前にあった機関車の車両から陽平君が手を振っていた。この車両、なんでも野球部の部室なんだそう。隣にもう一つ並んでいるのはサッカー部の部室なんだそうだ。使わなくなった車両を再利用しているらしいんだけど、なかなかシュールな光景。
私は陽平君に手を振りかえす。
「穂花、森君と仲良しだよねぇ」
話は当然のようにそんな話題になっていく。私はこくんと首を縦に振った。
「陽平君とは中学校が一緒だから。三年生のクラスで一緒だったんだけど、面白くて優しいの、人気者だよ」
新奈はあからさまにがっかりした表情になる。
「なんだそれだけかぁ」
「もう、新奈、なにかおかしなこと考えてる?」
「うん、相思相愛なのかと思った。ほら、名前呼びだし」
「違う違う、それはないなぁ」
なーんだ、と残念そうに言う新奈がおかしくて、私はふふふっと笑う。すると、目の前にとんっとビニール袋が置かれた。反射的に顔をあげた新奈はパッと表情を明るくする。
「神田さん、来てくれたんだ、ありがとう!」
「合宿の話しってなによ」
「とくにはないんだけどさぁ、たまには一緒にご飯食べようよ」
神田さんはぽすんと私の横に腰かけると、すらりとした足を組んで座った。
「別に話すことなんて何にもないし」
「そんなことないでしょう? たとえば神田さんはどうして昼休みに体育館に行っているのかとか」
「私の勝手、用がないなら帰るんだけど」
取りつく島のない神田さんに、新奈もかける言葉を無くしてしまった。結局、神田さんは私の横に腰かけはしたけれど、ご飯は食べずにそのままどこかに行ってしまう。
「神田さんと打ち解けるのには時間がかかりそうだぁ」
「合宿で仲良くなれたらいいね」
神田さんという女の子は、愛想のない感じだけれど、嫌味もなく、どこか憎めないのである。嫌いなタイプではないと思うんだけど、仲良くなれるかな。
神田さんがどこかへ行ってしまって、新奈と二人でお弁当を食べていると、新奈が「見て!」と言って前方を指さした。
新奈が示した方向には、瓦屋根の付いた建物が立っている。前面の壁が抜かれていて、外につながっている不思議な作りの建物だ。そこに、見覚えのある男の子が、袴姿で立っている。
「桐谷君だよ、弓道部なんだ、格好いい!」
視線の先の桐谷君は、大きな弓をゆっくりと引いていた。そして、引ききったところで動きを止める。思わず私も息を止めてじっと見つめていた。景色が静止してしまったのではないかと思えるくらい長い間、桐谷君はその姿勢を保っていたのだと思う。次の瞬間、急に時間が動き出し、桐谷君の手ともから一本の矢が飛び出した。矢は離れた場所にある白黒の的に当たる。
パァンっと微かな音がした。
「穂花、見た? 桐谷君、袴超似合うねぇ!」
そんな新奈の言葉に反応できないくらい、私は桐谷君の姿に釘付けになっていた。あまりにも美しいその動きに、見とれていたと言った方がいい。弓を放つ姿なんて、初めて見た。
「初めて見た……」
「なにを?」
「弓道」
「たしかに、なかなかない部活だよねぇ、マイナー? でも、今の格好良かったね!」
新奈の言葉に、私はこくんと頷いた。顔が、熱い。
こんなにも桐谷君のことが気になってしまうのは、どうしてなんだろう。入学式の日に遅刻してきたのが新鮮だったからだろうか? 猫ちゃんと戯れている姿が素敵だったからだろうか――間違いなく後者の方だ。あの優しそうな表情が、すっかり私の脳裏に焼き付いて、離れなくなってしまっていた。もちろん、あの直後、私に向けられた視線は忘れたことにする。
猫が好きで、弓道部――他に桐谷君について知っていることなど、何一つないと言うのに。どうしてこんなに惹かれちゃうんだろう。
「いいなぁ」
思わず音に乗っていた言葉を、新奈は聞き逃さない。
「桐谷君? 格好良いよねぇ!」
慌てて私は両手と首をブンブンと振る。
「違う違う、弓道! 袴とか弓とか格好いいなぁって」
私の答えに、新奈は少しほっとしたような顔をした、ような気がした。
「なあんだ、恋の予感かと思ったのにぃ」
「ないない、あはは」
あはは、と笑いながらも、心臓の方はドキドキと鳴ってうるさいくらいだ。私には、このドキドキの理由がまだわからない。
「穂花ちゃんの班大変そうだよねぇ」
合宿の班が決まってから、以前一緒にご飯を食べていた子たちにそんなことを言われた。なにが大変なのだろうと私は首をかしげる。
「そうかなぁ?」
「そうだよ、だって女子は山本さんと神田さんでしょう! 男子は森君がいるからいいけどさぁ、佐木君はひねくれてるし、桐谷君はちょっと怖そうじゃない?」
メンバーの顔を思い浮かべて、そうかなぁと再び首をかしげる。すると、他の子が畳み掛けるように言う。
「私、山本さんと同じ中学校だったけど、あの子色んな男の子と付き合ってて女子にすごく嫌われてたんだよねぇ」
「私、神田さんと同じ学校だった! あの人めっちゃ不良なんだよ! 今は見た目真面目そうになってるけどさ、中身はそう簡単に変わらないよねぇ」
「穂花ちゃん大変そう~」
みんなの言葉に、私はあははと苦笑いをした。佐木君と桐谷君のことはよくわからないけれど、少なくとも新奈のことは大好きだ。かなり気が合う友達だと思う。神田さんからもそんなに嫌な感じはしない。
「山本さん、一緒にご飯食べてるけど、私は嫌な感じしないよ。神田さんはわだよくわからないけど、嫌な感じはしてないから大丈夫。心配してくれてありがとうね」
そう返すと、彼女たちは少し面白くなさそうな顔をして、そうなんだぁと返してきた。口の中に苦いものが広がる。こういう話はあんまり好きじゃない。
私は、人の噂よりも自分の感覚を大事にしたい。
私と新奈はあっという間に仲良くなった。新奈は積極的な性格で、班分けで一緒になって以来、私に話しかけてくれるようになった。
「みんなごめんね」
私は今まで一緒にご飯を食べていた仲間たちと離れて、新奈と一緒に校庭の隅にある藤棚に向かう。正直に言うと、今までのメンバーといるよりも、新奈と一緒にいる方がずっと楽しい。
藤棚は花が満開で、綺麗な藤の花が素敵な日陰を作ってくれているのだ。
「神田さんにも声かけたんだけど来てくれるかなぁ」
「神田さん、いつもどこでご飯食べてるんだろう?」
「うーん、いつも教室でささっと何か食べて体育館に行ってる」
「なんで体育館?」
「バレー部だからじゃないかなぁ? 昼練?」
「バレーかぁ、すごいなぁ。私、ご飯食べた後はとても動く気になれないよぉ」
藤棚にある椅子に腰かけて、私と新奈はお弁当を広げた。神田さんはまだ来ていないみたい。
「合宿楽しみだねぇ、夕ご飯のカレー作りも楽しみ!」
「新奈料理上手そう」
「お菓子作りは好きなんだけど料理はあんまりしないかも、今度お菓子作って持ってくるね」
「わぁ、楽しみ」
新奈と私はすごく馬が合って、どうして四月の間ロクに話もしなかったのか、不思議なくらいだ。でも、その理由は明確。新奈はキラキラ女子、私は地味系女子。パッと見のコロニーが全然違った。神田さんもそう、神田さんは孤高の存在で、クラスの誰ともつるんでいない。
「穂花!」
突然名前を呼ばれたかと思ったら、目の前にあった機関車の車両から陽平君が手を振っていた。この車両、なんでも野球部の部室なんだそう。隣にもう一つ並んでいるのはサッカー部の部室なんだそうだ。使わなくなった車両を再利用しているらしいんだけど、なかなかシュールな光景。
私は陽平君に手を振りかえす。
「穂花、森君と仲良しだよねぇ」
話は当然のようにそんな話題になっていく。私はこくんと首を縦に振った。
「陽平君とは中学校が一緒だから。三年生のクラスで一緒だったんだけど、面白くて優しいの、人気者だよ」
新奈はあからさまにがっかりした表情になる。
「なんだそれだけかぁ」
「もう、新奈、なにかおかしなこと考えてる?」
「うん、相思相愛なのかと思った。ほら、名前呼びだし」
「違う違う、それはないなぁ」
なーんだ、と残念そうに言う新奈がおかしくて、私はふふふっと笑う。すると、目の前にとんっとビニール袋が置かれた。反射的に顔をあげた新奈はパッと表情を明るくする。
「神田さん、来てくれたんだ、ありがとう!」
「合宿の話しってなによ」
「とくにはないんだけどさぁ、たまには一緒にご飯食べようよ」
神田さんはぽすんと私の横に腰かけると、すらりとした足を組んで座った。
「別に話すことなんて何にもないし」
「そんなことないでしょう? たとえば神田さんはどうして昼休みに体育館に行っているのかとか」
「私の勝手、用がないなら帰るんだけど」
取りつく島のない神田さんに、新奈もかける言葉を無くしてしまった。結局、神田さんは私の横に腰かけはしたけれど、ご飯は食べずにそのままどこかに行ってしまう。
「神田さんと打ち解けるのには時間がかかりそうだぁ」
「合宿で仲良くなれたらいいね」
神田さんという女の子は、愛想のない感じだけれど、嫌味もなく、どこか憎めないのである。嫌いなタイプではないと思うんだけど、仲良くなれるかな。
神田さんがどこかへ行ってしまって、新奈と二人でお弁当を食べていると、新奈が「見て!」と言って前方を指さした。
新奈が示した方向には、瓦屋根の付いた建物が立っている。前面の壁が抜かれていて、外につながっている不思議な作りの建物だ。そこに、見覚えのある男の子が、袴姿で立っている。
「桐谷君だよ、弓道部なんだ、格好いい!」
視線の先の桐谷君は、大きな弓をゆっくりと引いていた。そして、引ききったところで動きを止める。思わず私も息を止めてじっと見つめていた。景色が静止してしまったのではないかと思えるくらい長い間、桐谷君はその姿勢を保っていたのだと思う。次の瞬間、急に時間が動き出し、桐谷君の手ともから一本の矢が飛び出した。矢は離れた場所にある白黒の的に当たる。
パァンっと微かな音がした。
「穂花、見た? 桐谷君、袴超似合うねぇ!」
そんな新奈の言葉に反応できないくらい、私は桐谷君の姿に釘付けになっていた。あまりにも美しいその動きに、見とれていたと言った方がいい。弓を放つ姿なんて、初めて見た。
「初めて見た……」
「なにを?」
「弓道」
「たしかに、なかなかない部活だよねぇ、マイナー? でも、今の格好良かったね!」
新奈の言葉に、私はこくんと頷いた。顔が、熱い。
こんなにも桐谷君のことが気になってしまうのは、どうしてなんだろう。入学式の日に遅刻してきたのが新鮮だったからだろうか? 猫ちゃんと戯れている姿が素敵だったからだろうか――間違いなく後者の方だ。あの優しそうな表情が、すっかり私の脳裏に焼き付いて、離れなくなってしまっていた。もちろん、あの直後、私に向けられた視線は忘れたことにする。
猫が好きで、弓道部――他に桐谷君について知っていることなど、何一つないと言うのに。どうしてこんなに惹かれちゃうんだろう。
「いいなぁ」
思わず音に乗っていた言葉を、新奈は聞き逃さない。
「桐谷君? 格好良いよねぇ!」
慌てて私は両手と首をブンブンと振る。
「違う違う、弓道! 袴とか弓とか格好いいなぁって」
私の答えに、新奈は少しほっとしたような顔をした、ような気がした。
「なあんだ、恋の予感かと思ったのにぃ」
「ないない、あはは」
あはは、と笑いながらも、心臓の方はドキドキと鳴ってうるさいくらいだ。私には、このドキドキの理由がまだわからない。
「穂花ちゃんの班大変そうだよねぇ」
合宿の班が決まってから、以前一緒にご飯を食べていた子たちにそんなことを言われた。なにが大変なのだろうと私は首をかしげる。
「そうかなぁ?」
「そうだよ、だって女子は山本さんと神田さんでしょう! 男子は森君がいるからいいけどさぁ、佐木君はひねくれてるし、桐谷君はちょっと怖そうじゃない?」
メンバーの顔を思い浮かべて、そうかなぁと再び首をかしげる。すると、他の子が畳み掛けるように言う。
「私、山本さんと同じ中学校だったけど、あの子色んな男の子と付き合ってて女子にすごく嫌われてたんだよねぇ」
「私、神田さんと同じ学校だった! あの人めっちゃ不良なんだよ! 今は見た目真面目そうになってるけどさ、中身はそう簡単に変わらないよねぇ」
「穂花ちゃん大変そう~」
みんなの言葉に、私はあははと苦笑いをした。佐木君と桐谷君のことはよくわからないけれど、少なくとも新奈のことは大好きだ。かなり気が合う友達だと思う。神田さんからもそんなに嫌な感じはしない。
「山本さん、一緒にご飯食べてるけど、私は嫌な感じしないよ。神田さんはわだよくわからないけど、嫌な感じはしてないから大丈夫。心配してくれてありがとうね」
そう返すと、彼女たちは少し面白くなさそうな顔をして、そうなんだぁと返してきた。口の中に苦いものが広がる。こういう話はあんまり好きじゃない。
私は、人の噂よりも自分の感覚を大事にしたい。

