「今日は悪かったな、こんな話するためにクラスの打ち上げサボらせてさ。陽平、おまえが来るの楽しみにしてると思うけど一人で楽しめてるかなぁ」
「陽平君は大丈夫だよ~。私なんかいなくても楽しいって」
「そうかなぁ、陽平に借りが出来ちゃったな」
「借り?」
「そ、こっちの話。さ、おまえのこと送って行こうかな」
「いいよ、いいよ、大丈夫」
「俺が送りたいんだよ」
フェア精神旺盛な湊君は笑顔でそう言う。その顔に、ドキンと心臓が跳ねた。今日のことを、新奈や結月ちゃんにはなんて話したらいいんだろう。
湊君と私は今日の文化祭のこと、それから部活や学校の話をしながら電車に乗った。いつもは自転車通学の湊君は、今日は打ち上げに参加するつもりで電車で来たって言っていた。確か私の記憶が正しければ、湊君の家は、私の家の最寄駅よりもずっと学校寄りのはずだ。でも、自転車で来るとなるとかなり時間がかかると思う。
「どうして自転車通学なの? 時間かかるでしょう?」
「だって満員電車に乗る気しないだろ?」
「朝から自転車乗ったらつく頃には疲れちゃうんじゃないかと思って」
「おいおいひ弱なこと言うなよ。あーでもおまえんちの方が遠いもんな。俺んちはちょうどいいくらいだ。チャリで40分くらい?」
「無理だー!」
「俺は毎朝の窮屈な電車通学の方が無理だ」
「透真君も家が近いの?」
言葉にして、そう言えば、透真君は新奈を待っていたのではないかという考えが浮かんだ。あんな話をした後で、一緒にクラスの打ち上げに行くのは気まずかったのではないかと思う。透真君の突然の告白には本当に驚いた。透真君の新奈への当たりの強さは、やっぱり愛情の裏返しだった。
「透真と家近いよ、中学も一緒に行ってた」
「仲良しだもんねぇ」
「そうでもないけど、腐れ縁? 透真といると気が楽だしなぁ。あいつ、全然飾んないから」
「透真君って、中学時代はテニス部に入ってたの?」
「透真? そう、今も入ってるだろ。かなり本気で練習しててさ、県大会でも上位の常連だった」
「すごい!」
「でもあの性格だろ? 先輩たちにあんまり可愛がられなくてさ」
「透真君斜めに構えてるから」
「高校ではもうやらないって言ってたくせに結局テニス部に入ってさ、まぁ高校テニスは楽しそうだよな」
「そっかぁ、透真君もすごい人なんだなぁ知らなかった。なんか一緒にいるのに知らないことっていっぱいあるね。あと一年あるし、もっと仲良くなれたらいいなぁ」
そう呟くと、湊君は短く息を吐いてから、そうだな、と呟いて窓の外を見ていた。
湊君はマンションまで送ってくれた。根っからの紳士なんだと思う。電停からの道すがら、湊君は驚くべきことを口にした。
「あのさ、弓道部の部長は、おまえがいいと思うんだ」
「ど、どうして! おかしいでしょ、湊君だよ! 私、副部長は千晶ちゃんがいいと思ってるくらいなのに」
「何言ってるんだよ、おまえ、柊と同じくらい中てられるようになってるだろう? 射形はおまえの方が綺麗だ。柊は少し癖が入ってるからな」
みなとくんが褒めてくれるのはとっても嬉しいけれど、湊君を差し置いて部長だなんてとんでもない。
「全然そんなことないよ私は頑張って羽分け、千晶ちゃんは安定の三中だよ。射形が綺麗なのは湊君のおかげだし」
「俺、部長って柄じゃないんだよ。副部長はやってやるから。先輩にも相談して、おまえのこと推してるから、あとはおまえの了解をもらうだけなんだ」
「私も部長なんて柄じゃないから!」
「どうしても嫌って言うならだけど、ちょっと考えてみろよ。頼む」
考えたこともないことに私は頭の中が真っ白になってしまった。中学時代の合唱部でも、私は役職らしい役職にはついてこなかった。そんな私が、経験者の湊君を差し置いて部長になるなんて、考えられない。でも――
自分に自信をつけて、湊君に告白しようって決めたから。湊君が私なら大丈夫だって言ってくれるなら――
「わかった、頑張ってみるよ」
引っ込み思案な自分を、変えたいから。湊君に、告白する勇気がほしいから――
「ありがとう、俺もちゃんと支えるから、さ」
そう言って笑う湊君の顔に、心は鼓動を早くする。ドキドキとした胸を抱えたまま、私は帰っていく湊君の後姿をいつまでも見つめていた。
「陽平君は大丈夫だよ~。私なんかいなくても楽しいって」
「そうかなぁ、陽平に借りが出来ちゃったな」
「借り?」
「そ、こっちの話。さ、おまえのこと送って行こうかな」
「いいよ、いいよ、大丈夫」
「俺が送りたいんだよ」
フェア精神旺盛な湊君は笑顔でそう言う。その顔に、ドキンと心臓が跳ねた。今日のことを、新奈や結月ちゃんにはなんて話したらいいんだろう。
湊君と私は今日の文化祭のこと、それから部活や学校の話をしながら電車に乗った。いつもは自転車通学の湊君は、今日は打ち上げに参加するつもりで電車で来たって言っていた。確か私の記憶が正しければ、湊君の家は、私の家の最寄駅よりもずっと学校寄りのはずだ。でも、自転車で来るとなるとかなり時間がかかると思う。
「どうして自転車通学なの? 時間かかるでしょう?」
「だって満員電車に乗る気しないだろ?」
「朝から自転車乗ったらつく頃には疲れちゃうんじゃないかと思って」
「おいおいひ弱なこと言うなよ。あーでもおまえんちの方が遠いもんな。俺んちはちょうどいいくらいだ。チャリで40分くらい?」
「無理だー!」
「俺は毎朝の窮屈な電車通学の方が無理だ」
「透真君も家が近いの?」
言葉にして、そう言えば、透真君は新奈を待っていたのではないかという考えが浮かんだ。あんな話をした後で、一緒にクラスの打ち上げに行くのは気まずかったのではないかと思う。透真君の突然の告白には本当に驚いた。透真君の新奈への当たりの強さは、やっぱり愛情の裏返しだった。
「透真と家近いよ、中学も一緒に行ってた」
「仲良しだもんねぇ」
「そうでもないけど、腐れ縁? 透真といると気が楽だしなぁ。あいつ、全然飾んないから」
「透真君って、中学時代はテニス部に入ってたの?」
「透真? そう、今も入ってるだろ。かなり本気で練習しててさ、県大会でも上位の常連だった」
「すごい!」
「でもあの性格だろ? 先輩たちにあんまり可愛がられなくてさ」
「透真君斜めに構えてるから」
「高校ではもうやらないって言ってたくせに結局テニス部に入ってさ、まぁ高校テニスは楽しそうだよな」
「そっかぁ、透真君もすごい人なんだなぁ知らなかった。なんか一緒にいるのに知らないことっていっぱいあるね。あと一年あるし、もっと仲良くなれたらいいなぁ」
そう呟くと、湊君は短く息を吐いてから、そうだな、と呟いて窓の外を見ていた。
湊君はマンションまで送ってくれた。根っからの紳士なんだと思う。電停からの道すがら、湊君は驚くべきことを口にした。
「あのさ、弓道部の部長は、おまえがいいと思うんだ」
「ど、どうして! おかしいでしょ、湊君だよ! 私、副部長は千晶ちゃんがいいと思ってるくらいなのに」
「何言ってるんだよ、おまえ、柊と同じくらい中てられるようになってるだろう? 射形はおまえの方が綺麗だ。柊は少し癖が入ってるからな」
みなとくんが褒めてくれるのはとっても嬉しいけれど、湊君を差し置いて部長だなんてとんでもない。
「全然そんなことないよ私は頑張って羽分け、千晶ちゃんは安定の三中だよ。射形が綺麗なのは湊君のおかげだし」
「俺、部長って柄じゃないんだよ。副部長はやってやるから。先輩にも相談して、おまえのこと推してるから、あとはおまえの了解をもらうだけなんだ」
「私も部長なんて柄じゃないから!」
「どうしても嫌って言うならだけど、ちょっと考えてみろよ。頼む」
考えたこともないことに私は頭の中が真っ白になってしまった。中学時代の合唱部でも、私は役職らしい役職にはついてこなかった。そんな私が、経験者の湊君を差し置いて部長になるなんて、考えられない。でも――
自分に自信をつけて、湊君に告白しようって決めたから。湊君が私なら大丈夫だって言ってくれるなら――
「わかった、頑張ってみるよ」
引っ込み思案な自分を、変えたいから。湊君に、告白する勇気がほしいから――
「ありがとう、俺もちゃんと支えるから、さ」
そう言って笑う湊君の顔に、心は鼓動を早くする。ドキドキとした胸を抱えたまま、私は帰っていく湊君の後姿をいつまでも見つめていた。

