「新奈、謝るのは私の方。私、新奈の優しさに甘えてた」
新奈の背中を撫でながら言うと、新奈は首を横に振る。
「違うんだよ、穂花。これはね、私が今までしてきたことが原因なの」
「新奈が、今までしてきたこと?」
「そう、聞いてくれる?」
伺うように聞いてから新奈が話し始めたのは、中学時代の話しだった。去年の四月に同じクラスの子から聞いた新奈の噂話は、大きく間違っていたわけではないのだろう。ただ、事実を少し意地悪く湾曲させたもののように感じた。
「私ね、中学に入ってからモテ期がきちゃて、男の子からよく告白されたりしたんだよね」
「新奈可愛いもん、わかる」
中学時代から、新奈は今のように華やかだったのだろう。それは、飾られたものではなくて、新奈そのものからにじみ出る華やかさ。同性の私が見ても素敵だなって思うのだ、多感な時期に入る中学生の男の子には、それはそれは魅力的に見えるはずだ。
「私、バカだから浮かれちゃってさ、告白されたらけっこう簡単に付き合ったりして。その人、先輩だったんだけどさ、それが二股で、本当の彼女の先輩にすごーく怒られた」
「それ、男の先輩が悪いよね」
「あはは、そうだって言っちゃいたいんだけど、そうもいかなくてね。それでけっこう悪い噂が立っちゃって。軽い男の子ばっかり話しかけてくるようになったりして、女友達もいなくなっちゃって……中学時代って私の暗黒時代なの」
「新奈ってキラキラ女子だから、中学校も華やかなんだと思ってた」
「そんなことないよ、ほら、去年同じ中学の子も言ってたじゃない。私、あの時聞いちゃってたんだよね、全くの嘘でもないから反論できなくてさ。穂花が私のこと信じてくれてすごく嬉しかった。友達になってくれて、本当に嬉しかったの」
「そんな、当たり前だよ。私、新奈のことが好きだから」
「穂花……」
新奈はわっと泣き出してしまった。きっと、新奈は、私の想像を超えるような辛い過去を抱えているのだろう。
「合宿の時さ、湊が私のリュック持ってくれたでしょう? あの時、私を依怙贔屓《えこひいき》したわけじゃないのが分かってたんだ」
「そうなの?」
「うん、だって湊、ちゃんと私と穂花の荷物を見比べてたもん。比べてから、私の方が重いって判断したんだよ、そういうフェアな感覚にぐっときちゃったんだよね」
「そうなんだ、私は新奈に気があるんだと思った」
「違うよ、湊、完全に穂花のこと気に入ってると思うよ」
「どうかな……」
「私、湊と穂花を天秤にかけてさ、穂花の方を選んだの。それなのに、透真にあんなこと言われて腹が立っちゃったんだよね。でもそれって、本当のことだから腹が立ったんだと思う。結局私が湊のことを諦めきれてないってことって言うか……本当に中途半端。自分で決めたことなのに……」
「好きな気持ちを簡単に諦めるのって難しいと思う。私も、きっと止められない」
新奈は私ににっこりと微笑んだ。その笑顔には、悲しみも、苦しみも浮かんでいないように見える。
「湊を好きな気持ちはなかなか無くならないと思うけれど、私はやっぱり穂花を応援したい」
「新奈……」
新奈の力強い言葉が、私の心に落ちてふわりと温かな光を灯す。新奈みたいに優しい光──
「自分で決めたことなの、だから穂花、私のためにも頑張って。もし穂花と湊が付き合うようになったらさ、私も心に折り合いがつけられると思うの。余地があるとさ、期待しちゃうから」
「わかった。新奈、次の試合で予選リーグを突破出来たら、湊君に告白したいなって少し考えてた」
「そんなにあと!? 次の試合って冬でしょう?」
「うん、でも、ある程度自分に自信が欲しいから。湊君に教えてもらった弓道で試合に勝てたら、大きな自信になると思うの」
「そっか、わかった。穂花、練習も頑張って」
新奈はぎゅっと私に抱きついてきた。新奈からは甘い花のような香りがした。
「ごめんね、今日クラスの打ち上げでしょう?」
「新奈のクラスもあるでしょ?」
「うん、途中参加しにくい気もするけど、やっぱり行こうかな。穂花はどうする?」
問われて私は実は湊君と途中で抜け出すつもりていることを新奈に話した。新奈に話すのは躊躇《ためら》われたけど、隠してはいけない気がした。
「うっそ! 本当! それ完全に脈ありじゃん!」
新奈が興奮してそんなことを言うものだから、私は急にドキドキとしてきてしまう。
「いや、部活のことかもしれない。先輩たちは冬の大会で引退するし、その前に部長と副部長の引き継ぎがあるから……」
「こんな日にそんな話なわけないでしょう! まさか湊君から告ってくるとは……」
「あはは、さすがにそれはないよ」
「もう、早く湊に連絡してから行きなよ~。これは結月にも連絡しなきゃ! 後で何があったか連絡ちょうだいね」
「期待するような話じゃないよ」
「穂花! 穂花は可愛いから大丈夫。自信もって!」
「新奈にそう言ってもらえると嬉しいけど、そんなことないから。私、新奈みたいに可愛くないしさ」
「大丈夫、恋する女の子はみんな可愛いんだから。あ、この前一緒に買ったリップ持ってる?」
「持ってる」
「つけていくんだよ! 何があるかわからないからさぁ」
にやにやしながら言ってくる新奈。私は無駄にドキドキしてしまう。湊君は、どんな話をするつもりなのだろうか?
新奈の背中を撫でながら言うと、新奈は首を横に振る。
「違うんだよ、穂花。これはね、私が今までしてきたことが原因なの」
「新奈が、今までしてきたこと?」
「そう、聞いてくれる?」
伺うように聞いてから新奈が話し始めたのは、中学時代の話しだった。去年の四月に同じクラスの子から聞いた新奈の噂話は、大きく間違っていたわけではないのだろう。ただ、事実を少し意地悪く湾曲させたもののように感じた。
「私ね、中学に入ってからモテ期がきちゃて、男の子からよく告白されたりしたんだよね」
「新奈可愛いもん、わかる」
中学時代から、新奈は今のように華やかだったのだろう。それは、飾られたものではなくて、新奈そのものからにじみ出る華やかさ。同性の私が見ても素敵だなって思うのだ、多感な時期に入る中学生の男の子には、それはそれは魅力的に見えるはずだ。
「私、バカだから浮かれちゃってさ、告白されたらけっこう簡単に付き合ったりして。その人、先輩だったんだけどさ、それが二股で、本当の彼女の先輩にすごーく怒られた」
「それ、男の先輩が悪いよね」
「あはは、そうだって言っちゃいたいんだけど、そうもいかなくてね。それでけっこう悪い噂が立っちゃって。軽い男の子ばっかり話しかけてくるようになったりして、女友達もいなくなっちゃって……中学時代って私の暗黒時代なの」
「新奈ってキラキラ女子だから、中学校も華やかなんだと思ってた」
「そんなことないよ、ほら、去年同じ中学の子も言ってたじゃない。私、あの時聞いちゃってたんだよね、全くの嘘でもないから反論できなくてさ。穂花が私のこと信じてくれてすごく嬉しかった。友達になってくれて、本当に嬉しかったの」
「そんな、当たり前だよ。私、新奈のことが好きだから」
「穂花……」
新奈はわっと泣き出してしまった。きっと、新奈は、私の想像を超えるような辛い過去を抱えているのだろう。
「合宿の時さ、湊が私のリュック持ってくれたでしょう? あの時、私を依怙贔屓《えこひいき》したわけじゃないのが分かってたんだ」
「そうなの?」
「うん、だって湊、ちゃんと私と穂花の荷物を見比べてたもん。比べてから、私の方が重いって判断したんだよ、そういうフェアな感覚にぐっときちゃったんだよね」
「そうなんだ、私は新奈に気があるんだと思った」
「違うよ、湊、完全に穂花のこと気に入ってると思うよ」
「どうかな……」
「私、湊と穂花を天秤にかけてさ、穂花の方を選んだの。それなのに、透真にあんなこと言われて腹が立っちゃったんだよね。でもそれって、本当のことだから腹が立ったんだと思う。結局私が湊のことを諦めきれてないってことって言うか……本当に中途半端。自分で決めたことなのに……」
「好きな気持ちを簡単に諦めるのって難しいと思う。私も、きっと止められない」
新奈は私ににっこりと微笑んだ。その笑顔には、悲しみも、苦しみも浮かんでいないように見える。
「湊を好きな気持ちはなかなか無くならないと思うけれど、私はやっぱり穂花を応援したい」
「新奈……」
新奈の力強い言葉が、私の心に落ちてふわりと温かな光を灯す。新奈みたいに優しい光──
「自分で決めたことなの、だから穂花、私のためにも頑張って。もし穂花と湊が付き合うようになったらさ、私も心に折り合いがつけられると思うの。余地があるとさ、期待しちゃうから」
「わかった。新奈、次の試合で予選リーグを突破出来たら、湊君に告白したいなって少し考えてた」
「そんなにあと!? 次の試合って冬でしょう?」
「うん、でも、ある程度自分に自信が欲しいから。湊君に教えてもらった弓道で試合に勝てたら、大きな自信になると思うの」
「そっか、わかった。穂花、練習も頑張って」
新奈はぎゅっと私に抱きついてきた。新奈からは甘い花のような香りがした。
「ごめんね、今日クラスの打ち上げでしょう?」
「新奈のクラスもあるでしょ?」
「うん、途中参加しにくい気もするけど、やっぱり行こうかな。穂花はどうする?」
問われて私は実は湊君と途中で抜け出すつもりていることを新奈に話した。新奈に話すのは躊躇《ためら》われたけど、隠してはいけない気がした。
「うっそ! 本当! それ完全に脈ありじゃん!」
新奈が興奮してそんなことを言うものだから、私は急にドキドキとしてきてしまう。
「いや、部活のことかもしれない。先輩たちは冬の大会で引退するし、その前に部長と副部長の引き継ぎがあるから……」
「こんな日にそんな話なわけないでしょう! まさか湊君から告ってくるとは……」
「あはは、さすがにそれはないよ」
「もう、早く湊に連絡してから行きなよ~。これは結月にも連絡しなきゃ! 後で何があったか連絡ちょうだいね」
「期待するような話じゃないよ」
「穂花! 穂花は可愛いから大丈夫。自信もって!」
「新奈にそう言ってもらえると嬉しいけど、そんなことないから。私、新奈みたいに可愛くないしさ」
「大丈夫、恋する女の子はみんな可愛いんだから。あ、この前一緒に買ったリップ持ってる?」
「持ってる」
「つけていくんだよ! 何があるかわからないからさぁ」
にやにやしながら言ってくる新奈。私は無駄にドキドキしてしまう。湊君は、どんな話をするつもりなのだろうか?

