文化祭は無事に終わりを迎えた。お客さんの数は、うちのクラスが一番多くて、学校から記念品を貰った。
「みんなクラスの打ち上げあるよね? 六人での打ち上げは明日やろ~」
「別に六人で打ち上げしなくてもいいだろ」
「あー、そんなこと言う? じゃぁ透真だけ抜きでやろう」
「俺をハブるな、やるなら呼べよ」
新奈たちと別れて、陽平君や湊君とクラスの打ち上げに向かう。電車に乗り込む前にポケットに何かが入っているのに気が付いた。
「しまった、準備室の鍵返すの忘れちゃった」
「月曜日でいいんじゃないか?」
「明日も練習来るなら明日でいいだろ」
「うん、でも、失くしてもいけないし、返してくる。先に行ってて」
私は陽平君と湊君を電停に残して一度学校に帰ることにした。坂を上る途中にすれ違う同じ学年の子たちを挨拶をかわしながら、やっと坂を上りきる。
職員室に鍵を返すと、再び駆け足で校舎の中を駆けていこうとしたら、美術室から声が聞こえてきた。透真君の声だ。
「おまえ、湊のこと好きなんだろう?」
「……違うよ」
新奈の声だ。ドクンと、心臓が大きく波打つ。私は、思わず足を止めてしゃがみこんでしまった。聞かない方がいい、そう理性は忠告してくれているのに、私の体はその場から動くことができない。
「穂花に遠慮してんだろ? おまえらしくない」
「なんでそんなこと言うの」
「湊のことが好きなくせに、穂花の応援なんかして取り繕ってるのが腹立つから」
透真君がそんなことを言うものだから、新奈は声を荒げた。
「透真に言われたくない! これは私の問題なの。穂花を応援するって決めたの! 私には、湊君への気持ちよりも、穂花の方が大事なんだよ」
「良い人ぶるなよ」
「そんなんじゃない、透真には私の気持なんかわかんないよ! 透真は私のことが嫌いなんでしょう! だからひどいことばっかり言ってくるんだよね。テニス部でだってさ、透真は私のこと馬鹿にしてばっかり、嫌いなら嫌いだって、正々堂々言ったらいいじゃない」
どうしよう、止めに入った方がいい? でも、なんて言って入ったらいいの?
私はどうにか二人の喧嘩を止めたくて考えを巡らせるけれど、いい言葉が浮かばない。そもそも私が湊君が好きなことがことの発端になっているのだ、仲裁に入れる立場ではない気もする。
「俺、おまえのこと嫌いじゃない」
不意を突くような透真君の言葉に、新奈は一瞬言葉を失ったみたい。辺りに、静寂が戻ってくる。
「そう、なの?」
「そ、むしろ好きなんだけど」
「な……うっそ」
「嘘じゃねぇし。おまえのこと好きだからいろいろ気になるし、湊のことが好きなのも気に入らねぇし、中途半端に諦めてるから煮え切らないままで腹が立つんだけど」
「そんなこと、急に言われても……」
新奈が戸惑っているのが、わかる。初めて聞いた、透真君の気持ち。やっぱり透真君はわかりにくい。天の邪鬼だ。
「湊のことじゃなくてさ、俺のこと好きになったらいいんじゃないの? そしたら穂花のことも素直に応援できるだろうが」
「馬鹿じゃないの、急に言われても無理だし、透真のこと好きじゃないし」
「でも、俺のこと気になってきただろ」
「馬鹿!」
急に新奈が扉を開けて駆け出してきた。私は思わずよけようとして立ち上がる。
「穂花!」
「ごめん新奈……立ち聞きする気はなかったんだけど」
新奈は怒ったような赤い顔になっていた。そのまま駆け出そうをする腕を、私は必死で掴む。
「待って新奈!」
「ごめん、少し頭の中を落ちつけたいの」
「落ち着いたら話をしよう、私、新奈に謝らないと……」
「なんのことを謝るっていうの? 湊君のこと? それはもう関係ないの、私は穂花を応援するって決めたの!」
「新奈……」
新奈は、顔を赤くして、目に涙をためていた。
「透真君、ちょっと新奈借りるね」
私は新奈の手を引いて藤棚に向かった。他の生徒たちはみんな帰って、校庭も校舎も閑散としている。
「どこにいくの?」
「藤棚、新奈と二人で話したいから」
「クラスの打ち上げあるでしょ?」
「陽平君に連絡しておくから大丈夫」
私はスマホを取り出して、陽平君に遅れるって連絡を入れた。
「ほらこれで大丈夫。私、今日は新奈とこのまま離れたくない」
「穂花……でも私、今は少し刺々してるから嫌なこと言うかも」
「いいよ、そのままの新奈がいい。そのままの新奈と話がしたい」
「私のこと、嫌いにならない?」
「ならない、絶対に」
私は力強く頷いた。新奈は気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸をした。それから、ゆっくりと話し始めてくれる。
「私、やっぱり湊のことが好きなんだ」
やっぱり、そうなのかという感情が私の心の底にぽとりと落ちて、すとんと収まる。なんとなくそんな気がしていた。驚きはしない。
「そっか」
「うん、ごめん」
「新奈が謝ることじゃない。誰が誰を好きになるのかなんて、誰かの許可がいるものじゃないよ」
そう言うと、新奈はため込んでいた涙を吐き出すように泣きだした。堰を切ったように、涙が流れ出す。
「好きになっちゃったんだ。湊の公平さが私にはすごく新鮮で……一度好きになったら止められなくて、ごめん、ごめん穂花……」
「なんで謝るの新奈、一緒に好きでいたらいいじゃない、選ぶのは湊君だよ。どちらも選ばれないかもしれない、新奈かもしれない、可能性は一緒だよ」
私は新奈が落ち着くまで待った。新奈がこれほどまでに自分の気持ちを押し殺した理由は、私が湊君のことが好きだからだ。胸がぐっと痛みを覚える。
私は新奈の優しさに甘えて、ただただ湊君を好きでいた。浮かれて同じ部活に入って、毎日のように一緒に過ごして、二年生からのクラスも同じで──私が嬉しいと思った分、新奈は、どれほど辛い思いをしたのだろう。
「みんなクラスの打ち上げあるよね? 六人での打ち上げは明日やろ~」
「別に六人で打ち上げしなくてもいいだろ」
「あー、そんなこと言う? じゃぁ透真だけ抜きでやろう」
「俺をハブるな、やるなら呼べよ」
新奈たちと別れて、陽平君や湊君とクラスの打ち上げに向かう。電車に乗り込む前にポケットに何かが入っているのに気が付いた。
「しまった、準備室の鍵返すの忘れちゃった」
「月曜日でいいんじゃないか?」
「明日も練習来るなら明日でいいだろ」
「うん、でも、失くしてもいけないし、返してくる。先に行ってて」
私は陽平君と湊君を電停に残して一度学校に帰ることにした。坂を上る途中にすれ違う同じ学年の子たちを挨拶をかわしながら、やっと坂を上りきる。
職員室に鍵を返すと、再び駆け足で校舎の中を駆けていこうとしたら、美術室から声が聞こえてきた。透真君の声だ。
「おまえ、湊のこと好きなんだろう?」
「……違うよ」
新奈の声だ。ドクンと、心臓が大きく波打つ。私は、思わず足を止めてしゃがみこんでしまった。聞かない方がいい、そう理性は忠告してくれているのに、私の体はその場から動くことができない。
「穂花に遠慮してんだろ? おまえらしくない」
「なんでそんなこと言うの」
「湊のことが好きなくせに、穂花の応援なんかして取り繕ってるのが腹立つから」
透真君がそんなことを言うものだから、新奈は声を荒げた。
「透真に言われたくない! これは私の問題なの。穂花を応援するって決めたの! 私には、湊君への気持ちよりも、穂花の方が大事なんだよ」
「良い人ぶるなよ」
「そんなんじゃない、透真には私の気持なんかわかんないよ! 透真は私のことが嫌いなんでしょう! だからひどいことばっかり言ってくるんだよね。テニス部でだってさ、透真は私のこと馬鹿にしてばっかり、嫌いなら嫌いだって、正々堂々言ったらいいじゃない」
どうしよう、止めに入った方がいい? でも、なんて言って入ったらいいの?
私はどうにか二人の喧嘩を止めたくて考えを巡らせるけれど、いい言葉が浮かばない。そもそも私が湊君が好きなことがことの発端になっているのだ、仲裁に入れる立場ではない気もする。
「俺、おまえのこと嫌いじゃない」
不意を突くような透真君の言葉に、新奈は一瞬言葉を失ったみたい。辺りに、静寂が戻ってくる。
「そう、なの?」
「そ、むしろ好きなんだけど」
「な……うっそ」
「嘘じゃねぇし。おまえのこと好きだからいろいろ気になるし、湊のことが好きなのも気に入らねぇし、中途半端に諦めてるから煮え切らないままで腹が立つんだけど」
「そんなこと、急に言われても……」
新奈が戸惑っているのが、わかる。初めて聞いた、透真君の気持ち。やっぱり透真君はわかりにくい。天の邪鬼だ。
「湊のことじゃなくてさ、俺のこと好きになったらいいんじゃないの? そしたら穂花のことも素直に応援できるだろうが」
「馬鹿じゃないの、急に言われても無理だし、透真のこと好きじゃないし」
「でも、俺のこと気になってきただろ」
「馬鹿!」
急に新奈が扉を開けて駆け出してきた。私は思わずよけようとして立ち上がる。
「穂花!」
「ごめん新奈……立ち聞きする気はなかったんだけど」
新奈は怒ったような赤い顔になっていた。そのまま駆け出そうをする腕を、私は必死で掴む。
「待って新奈!」
「ごめん、少し頭の中を落ちつけたいの」
「落ち着いたら話をしよう、私、新奈に謝らないと……」
「なんのことを謝るっていうの? 湊君のこと? それはもう関係ないの、私は穂花を応援するって決めたの!」
「新奈……」
新奈は、顔を赤くして、目に涙をためていた。
「透真君、ちょっと新奈借りるね」
私は新奈の手を引いて藤棚に向かった。他の生徒たちはみんな帰って、校庭も校舎も閑散としている。
「どこにいくの?」
「藤棚、新奈と二人で話したいから」
「クラスの打ち上げあるでしょ?」
「陽平君に連絡しておくから大丈夫」
私はスマホを取り出して、陽平君に遅れるって連絡を入れた。
「ほらこれで大丈夫。私、今日は新奈とこのまま離れたくない」
「穂花……でも私、今は少し刺々してるから嫌なこと言うかも」
「いいよ、そのままの新奈がいい。そのままの新奈と話がしたい」
「私のこと、嫌いにならない?」
「ならない、絶対に」
私は力強く頷いた。新奈は気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸をした。それから、ゆっくりと話し始めてくれる。
「私、やっぱり湊のことが好きなんだ」
やっぱり、そうなのかという感情が私の心の底にぽとりと落ちて、すとんと収まる。なんとなくそんな気がしていた。驚きはしない。
「そっか」
「うん、ごめん」
「新奈が謝ることじゃない。誰が誰を好きになるのかなんて、誰かの許可がいるものじゃないよ」
そう言うと、新奈はため込んでいた涙を吐き出すように泣きだした。堰を切ったように、涙が流れ出す。
「好きになっちゃったんだ。湊の公平さが私にはすごく新鮮で……一度好きになったら止められなくて、ごめん、ごめん穂花……」
「なんで謝るの新奈、一緒に好きでいたらいいじゃない、選ぶのは湊君だよ。どちらも選ばれないかもしれない、新奈かもしれない、可能性は一緒だよ」
私は新奈が落ち着くまで待った。新奈がこれほどまでに自分の気持ちを押し殺した理由は、私が湊君のことが好きだからだ。胸がぐっと痛みを覚える。
私は新奈の優しさに甘えて、ただただ湊君を好きでいた。浮かれて同じ部活に入って、毎日のように一緒に過ごして、二年生からのクラスも同じで──私が嬉しいと思った分、新奈は、どれほど辛い思いをしたのだろう。

