ナナイロ!

 五月に入ると、六月に行われる文化祭の準備が始まる。うちのクラスはメイド執事カフェをやることになっていた。メイド、執事と言っても、ただのメイドと執事ではない。メイドさんは男子の女装だし、執事は女の子の男装だった。結月ちゃんが同じクラスだったら、さぞかし格好いい執事になったと思う。私はもちろん裏方に立候補。執事になりたい女の子が多くて助かった。

「えぇ! 穂花男装しないの? 楽しみにしてたのに」

 土曜日、新奈と結月ちゃんと三人で街に遊びに来ていた。カフェで飲み物を頼んで、二階のソファに座ると、各々クラスの状況を報告し合って盛り上がる。

「しないしない、やりたい子多いし。安心して裏方に徹することができるよ~」
「つまんない。湊も陽平も女装するんでしょうね?」
「湊君すっごい嫌がってたけどね、陽平君はノリノリだった」
「ポイポイ! 絶対行く~」
「新奈と結月ちゃんのクラスは?」
「うちはお化け屋敷だから、湊と二人でおいでよ~」
「いやいやいや、誘えないよ。クラスの友達と行こうかなぁ」
「男女ペアじゃないと入れないようにするつもりなの」
「それ、先生からクレーム来なかったの?」
「井上先生、ごにょごにょ文句言ってたけど委員長の透真が押し切ってた」
「頼もし~委員長」
「結月は?」
「うちはなんかゲームセンターみたいなやつ? ボーリングとかストラックアウトとかある」
「陽平君連れていったら喜びそう!」
「当番の時間とか希望出せたら合わせてさ、一緒に回ろうよ~」
「いいねぇ」

 三人でいるとあっという間に時間が過ぎていく。話しているうちに結月ちゃんはあれから先輩たちとどうなったのかを少しだけ教えてくれたけど、遠藤先輩と別れた市瀬先輩とは今までよりも距離を取って接しているみたい。遠藤先輩とは今まで通り仲良くやってるっていっていた。
 新奈は部活の先輩の話をしてくれるんだけど、その人が誰なのかピンと来ない。カフェを出ると、一緒にバラエティショップで色違いのリップを買った。新奈も結月ちゃんもコスメについて詳しい。そう言えば、二年生に上がってから新奈もほんのり化粧をするようになってきた。スッピンも美人の結月ちゃんは毎日きちんとメイクをしている。私も日焼け止めだけは欠かさないようにつけているけれど、他のお化粧はどうやったらいいのかわからない。興味はあるけど手は出せないでいるっていう感じ。このカラーリップは新奈と結月ちゃんが似合う色を選んでくれた。今まで持っていたリップとは違う。初めてのコスメらしいコスメ。

 文化祭当日。私は朝からカフェの準備で大忙しだった。前売りの時点でかなりの数が売れてしまったので、コーヒーやジュース、クッキーなどの焼き菓子、かなりの数を揃えている。
 メイドや執事に扮した子たちが着替えから戻ってきた。

「穂花! どう? けっこう似合うだろ」

 目の前ににかっと満面の笑みを浮かべたメイドさんが現れた。顔は悪くないけど、とにかく色が黒くて筋肉質だな……と思ったら。

「陽平君! なに、可愛い!」
「だろ~、湊も褒めてやってよ」
「やめろ陽平、引っ張るな!」

 陽平君に首元を引っ張られた湊君が姿を現す。こ、これは……

「湊君、改めてみるとやっぱりガタイがいいねぇ」
「……どうも」

 湊君は左手で顔を隠したまま私の前に姿を現した。袴姿を見慣れた湊君は、お世辞にもメイドさんの格好は似合ってない。でも、顔だけなら宝塚の男役の人みたいだ。うん、綺麗!

「顔美人! 羨ましい!」
「おまえに羨ましがられたくないな……ほら行くぞ」

 湊君は陽平君を引っ張って水屋の奥に引っ込んでしまった。どうやら文化祭が始まるまで隠れているつもりらしい。
 他の男の子たちも着替えていたけれど、お世辞にも褒められたものじゃなくて、みんな笑い合いなから記念写真に勤しんでいる。

「穂花ちゃんも一緒に撮ろうよ~」

 クラスの子が声をかけてくれるので、お言葉に甘えて私もぱしゃり。ついでに一緒に写真も撮らせてもらった。いつも一緒にいる同じクラスの子たちなのに、格好が違うと少し緊張する。

「穂花、一緒に撮ろう!」

 陽平君がやってきて二人で撮ってもらう。陽平君はすっかりメイドさんになりきっていてなんだか可愛らしい。

「湊も来いよ」
「絶対に嫌だ」

 湊君は私と写真を撮ってはくれなかった。一緒に撮りたかったな……少しがっかり。
 
 午前中の一時間、裏方の当番になっていた私は、滅茶苦茶忙しかった。うちのクラスのメイド執事喫茶は陽平君たちの呼び込みによって大盛況。

「二宮さん、やっと交代だよ~」

 そう言われた時には足がくたくただ。立ち仕事って言うのはすごく辛いものだとわかった。

「穂花、一緒に回ろうぜ」
「いいよ~、あれ、湊君は着替えちゃったの?」
「あんな格好、いつまでもやってられないだろうが」
「写真撮りたかったのに!」

 当番の時間が終わると、陽平君と湊君と一緒に回る約束をしていた。後から新奈や結月ちゃん、透真君も合流予定。
 メイドさんの格好の陽平君は道行く子たちに声を掛けられては快く写真を撮ってあげている。相変わらずサービス精神旺盛な人だ。

「陽平はえらいなーあれでうちのクラスにもっと客が来る」
「あはは、陽平君、そんなに深いこと考えてるかなぁ」
「陽平、ああ見えて色々気を遣ってんだよ。器用すぎて損しそうなタイプだ」
「損?」
「そ。なぁ、今日クラスの打ち上げあるだろう?」
「うんあるねぇ、カラオケだっけ?」
「途中で抜けようぜ。俺、大勢で長居はごめんだ」
「いいけど、その後は?」
「おまえを送っていく。途中で公園とかないか? おまえと二人で話したいんだよ」
「あ、あるけど……」

 これって、どういうことだろう。二人で話すだけならいつも弓道部で……いや、最近後輩たちも自主練に参加してくれているから二人きりって言うのはないかも。
 新奈、結月ちゃん、ちょっと、ドキドキしちゃうんだけど。何の話だろう?