冬が終わって、新しい春がやって来た。もう去年みたいにドキドキしない。と言いたいところだけど、今年もクラス替えがあるから落ち着かない。新奈と結月ちゃんと別れちゃったらどうしよう。
そんなドキドキは的中するものだ。
一年生の時よりもまばらになった掲示板の前、私たち三人は見事にバラバラになっていた。新奈は一組、私は二組、結月ちゃんは五組だった。
「バラバラだぁ」
「お昼は間の穂花のクラスに集まるかぁ」
「でも、陽平と湊もおんなじクラスだね」
良かったね、そう、新奈がにやにやと耳打ちしてくるものだから、私は思わず顔を赤らめた。三年ではクラス替えがないので、あとはずっと同じだ。
話したこともない子ばかりの中で、陽平君がいるのは心強いし、湊君がいるのは、すごくすごく嬉しい。
「なによ、にやけちゃって、薄情」
「にやけてないよ」
「まぁ、三年は選択教科ばっかでクラスはあってないようなものだし、お昼は一緒だし」
「あ~でもやっぱ寂しい」
「新奈のクラス、透真がいるじゃない。ボッチは私だし」
「透真かぁ」
透真君は賢くて、よく気が付くタイプの人。すごく気配り上手な人だなぁって思うんだけど、新奈はちょっと苦手にしているみたい。
「透真、私に厳しいからなぁ」
「愛情の裏返しでしょ」
「ないない」
言われてみれば透真君は新奈に厳しい。少しだけ適当なところのある新奈に、透真君は容赦なく突っ込みを入れる。結月ちゃんの言う通り愛情の裏返しだと思えばそんな気もしてくるけれど、それならもう少しオブラートに包んだものの言い方は出来ないものかと思わず苦笑い。
「穂花~三年間同じクラスな!」
教室に荷物を置いて講堂に入ると陽平君がハイタッチをしてきた。触れ合った右手がぱちんと小気味よい音を立てる。
「かなり心強いよ~よろしく」
「俺も~。でも湊も一緒だし、良かったな」
「うん。バラバラになっちゃったけど、今年も六人で遊ぼうって新奈が言ってた」
「それ、俺も思ってたー」
ほどなくして湊君が席につく。今年は遅刻してきていないなって思ったら、去年の出会いを思い出した。
「おはよう湊君」
「おはよ」
「湊、今日はちゃんと来たな」
「何のことだよ」
「去年新入生の癖に堂々と遅れてきただろうが」
「そういえば……忘れてたな。今日は遅れる理由がなかった」
なるほど、つまり公園で猫ちゃんたちとじゃれ合わなかったということだ。この一年一緒にいて判明したのだけれど(透真君がばらしてくれた)、湊君は大の猫好きらしい。昔は猫を飼っていたって言っていたけど、今は飼ってないんだって。私も猫も犬も大好きだけど、家で飼うことはできないから、家に猫がいるって少し憧れる。
ほどなくして初々しい新入生たちが入ってきた。真新しい制服姿が、すごく懐かしい。ほんの一年前までは、私もあの真新しさの中にいた。不安と、希望で揺れていた。入学式の始まりだ。
さて、この四月に私達には大きな使命が課せられていた。そう、新入部員の勧誘である。メジャーな運動部は勧誘なんてしなくてもたくさん人が入ってきてくれるみたいで、新奈も結月ちゃんも勧誘らしいことは何もしないって言っていた。
けれど、マイナーな弓道部はそんなことを言ってはいられない。各務先輩が卒業してしまった今、すでに試合には出られない人数になっている。
一年生だけじゃなく、二年生も勧誘対象なんだけど、みんな積極的にどこかしらの部活に所属していて、これからの勧誘は難しいと判断した。
「おまえ、最低女子一人勧誘。俺は男三人勧誘が目標な」
「うん、男の子にも声かけてみるね」
「梓馬先輩も勧誘頑張ってくれるから、おまえは玖珂先輩と必死に女子集めろよ、今年の目標は男女混合チームにならずに試合に参加だ」
「わかってる、頑張ろうね」
ぐっと握り拳を作ると、湊君も深く頷いてくれた。
入学式初日、私と玖珂先輩は一年生の教室がある一階に勧誘のポスターを貼り、下校時刻に合わせて勧誘に赴いた。
「最低一人、頑張ろうね穂花ちゃん」
「はい!」
そう頷き合って、私と玖珂先輩は声を出す。
「弓道部に興味のある人いませんか!」
一年生の廊下で何度かそんなことを言っていると、一人の女の子が声をかけてきた。さらさらの黒髪をショートボブに切りそろえていた。
「弓道部の勧誘ですか?」
凛とした声に私はそうだと頷く。すると女の子は礼儀正しく四十五度のお辞儀をしてきた。
「入部希望です、よろしくお願いします」
あまりにもあっさりと目標の一人が集まってしまい、玖珂先輩とぽかんとして顔を見合わせたあと、私と玖珂先輩はやったー! と飛び上った。
ショートボブの彼女は柊千晶さんと言った。中学時代から弓道をやっていた経験者なのだそう。なんと湊君と同じ中学校の出身だというから、中学時代も一緒に弓道をしていたらしい。少しだけ、羨ましいと思ってしまう。ほんの、少しだけ。
部室に招き入れると、湊君と梓馬先輩はまだ来ていなかった。私と玖珂先輩は柊さんに部活の説明を始める。練習の時間や曜日、自主練のこと、試合のこと、昇段試験のこと――経験者である柊さんは呑み込みも早く、説明はすぐに終わった。その頃、がらりと部室の扉が開いて梓馬先輩と湊君が入って来る。後ろにちょうど三人の男の子を連れている。湊君は柊さんを見て目を丸くした。
「柊!」
「お久しぶりです」
「加茂高に行くのかと思った」
「こちらの方が近かったので、先輩こそ加茂だと思っていました。木原先輩もあちらですから」
「まぁ、いろいろあるんだよ」
湊君と柊さんは、色々と昔話に花を咲かせていた。私の知らない湊君をたくさん知っている柊さんのことが、すごく羨ましいと思ってしまう。
世間話もそこそこに、部長である梓馬先輩から部活についての説明が始まった。湊君たちが勧誘してきてくれた男の子三人は友達同士て、一人が経験者だった、残りの二人は私と同じ未経験者。
入学式初日に、危惧していた部員不足はすっかり解消してしまった。先輩たちや湊君的には、もう何人か勧誘しておきたい気持ちがあるみたいだったけれど、私は十分な成果だと思った。なにより誰も外れることなく全員で試合に出られるのが嬉しい。初心者の二人が試合と昇段試験に間に合うよう、これからしっかり練習していくつもりだ。
私も、負けないように、そして少しでもお手本になれるように頑張らなくては。
そんなドキドキは的中するものだ。
一年生の時よりもまばらになった掲示板の前、私たち三人は見事にバラバラになっていた。新奈は一組、私は二組、結月ちゃんは五組だった。
「バラバラだぁ」
「お昼は間の穂花のクラスに集まるかぁ」
「でも、陽平と湊もおんなじクラスだね」
良かったね、そう、新奈がにやにやと耳打ちしてくるものだから、私は思わず顔を赤らめた。三年ではクラス替えがないので、あとはずっと同じだ。
話したこともない子ばかりの中で、陽平君がいるのは心強いし、湊君がいるのは、すごくすごく嬉しい。
「なによ、にやけちゃって、薄情」
「にやけてないよ」
「まぁ、三年は選択教科ばっかでクラスはあってないようなものだし、お昼は一緒だし」
「あ~でもやっぱ寂しい」
「新奈のクラス、透真がいるじゃない。ボッチは私だし」
「透真かぁ」
透真君は賢くて、よく気が付くタイプの人。すごく気配り上手な人だなぁって思うんだけど、新奈はちょっと苦手にしているみたい。
「透真、私に厳しいからなぁ」
「愛情の裏返しでしょ」
「ないない」
言われてみれば透真君は新奈に厳しい。少しだけ適当なところのある新奈に、透真君は容赦なく突っ込みを入れる。結月ちゃんの言う通り愛情の裏返しだと思えばそんな気もしてくるけれど、それならもう少しオブラートに包んだものの言い方は出来ないものかと思わず苦笑い。
「穂花~三年間同じクラスな!」
教室に荷物を置いて講堂に入ると陽平君がハイタッチをしてきた。触れ合った右手がぱちんと小気味よい音を立てる。
「かなり心強いよ~よろしく」
「俺も~。でも湊も一緒だし、良かったな」
「うん。バラバラになっちゃったけど、今年も六人で遊ぼうって新奈が言ってた」
「それ、俺も思ってたー」
ほどなくして湊君が席につく。今年は遅刻してきていないなって思ったら、去年の出会いを思い出した。
「おはよう湊君」
「おはよ」
「湊、今日はちゃんと来たな」
「何のことだよ」
「去年新入生の癖に堂々と遅れてきただろうが」
「そういえば……忘れてたな。今日は遅れる理由がなかった」
なるほど、つまり公園で猫ちゃんたちとじゃれ合わなかったということだ。この一年一緒にいて判明したのだけれど(透真君がばらしてくれた)、湊君は大の猫好きらしい。昔は猫を飼っていたって言っていたけど、今は飼ってないんだって。私も猫も犬も大好きだけど、家で飼うことはできないから、家に猫がいるって少し憧れる。
ほどなくして初々しい新入生たちが入ってきた。真新しい制服姿が、すごく懐かしい。ほんの一年前までは、私もあの真新しさの中にいた。不安と、希望で揺れていた。入学式の始まりだ。
さて、この四月に私達には大きな使命が課せられていた。そう、新入部員の勧誘である。メジャーな運動部は勧誘なんてしなくてもたくさん人が入ってきてくれるみたいで、新奈も結月ちゃんも勧誘らしいことは何もしないって言っていた。
けれど、マイナーな弓道部はそんなことを言ってはいられない。各務先輩が卒業してしまった今、すでに試合には出られない人数になっている。
一年生だけじゃなく、二年生も勧誘対象なんだけど、みんな積極的にどこかしらの部活に所属していて、これからの勧誘は難しいと判断した。
「おまえ、最低女子一人勧誘。俺は男三人勧誘が目標な」
「うん、男の子にも声かけてみるね」
「梓馬先輩も勧誘頑張ってくれるから、おまえは玖珂先輩と必死に女子集めろよ、今年の目標は男女混合チームにならずに試合に参加だ」
「わかってる、頑張ろうね」
ぐっと握り拳を作ると、湊君も深く頷いてくれた。
入学式初日、私と玖珂先輩は一年生の教室がある一階に勧誘のポスターを貼り、下校時刻に合わせて勧誘に赴いた。
「最低一人、頑張ろうね穂花ちゃん」
「はい!」
そう頷き合って、私と玖珂先輩は声を出す。
「弓道部に興味のある人いませんか!」
一年生の廊下で何度かそんなことを言っていると、一人の女の子が声をかけてきた。さらさらの黒髪をショートボブに切りそろえていた。
「弓道部の勧誘ですか?」
凛とした声に私はそうだと頷く。すると女の子は礼儀正しく四十五度のお辞儀をしてきた。
「入部希望です、よろしくお願いします」
あまりにもあっさりと目標の一人が集まってしまい、玖珂先輩とぽかんとして顔を見合わせたあと、私と玖珂先輩はやったー! と飛び上った。
ショートボブの彼女は柊千晶さんと言った。中学時代から弓道をやっていた経験者なのだそう。なんと湊君と同じ中学校の出身だというから、中学時代も一緒に弓道をしていたらしい。少しだけ、羨ましいと思ってしまう。ほんの、少しだけ。
部室に招き入れると、湊君と梓馬先輩はまだ来ていなかった。私と玖珂先輩は柊さんに部活の説明を始める。練習の時間や曜日、自主練のこと、試合のこと、昇段試験のこと――経験者である柊さんは呑み込みも早く、説明はすぐに終わった。その頃、がらりと部室の扉が開いて梓馬先輩と湊君が入って来る。後ろにちょうど三人の男の子を連れている。湊君は柊さんを見て目を丸くした。
「柊!」
「お久しぶりです」
「加茂高に行くのかと思った」
「こちらの方が近かったので、先輩こそ加茂だと思っていました。木原先輩もあちらですから」
「まぁ、いろいろあるんだよ」
湊君と柊さんは、色々と昔話に花を咲かせていた。私の知らない湊君をたくさん知っている柊さんのことが、すごく羨ましいと思ってしまう。
世間話もそこそこに、部長である梓馬先輩から部活についての説明が始まった。湊君たちが勧誘してきてくれた男の子三人は友達同士て、一人が経験者だった、残りの二人は私と同じ未経験者。
入学式初日に、危惧していた部員不足はすっかり解消してしまった。先輩たちや湊君的には、もう何人か勧誘しておきたい気持ちがあるみたいだったけれど、私は十分な成果だと思った。なにより誰も外れることなく全員で試合に出られるのが嬉しい。初心者の二人が試合と昇段試験に間に合うよう、これからしっかり練習していくつもりだ。
私も、負けないように、そして少しでもお手本になれるように頑張らなくては。

