ナナイロ!

「結月ちゃん!」
「結月!」

 駆け寄ると、結月ちゃんはへなへなとその場にしゃがみこんでしまった。

「ありがとう二人とも、私、言えた」
「どうしてあんなこと……」
「だってさ、付き合えるわけないよ。遠藤先輩の身になってみなよ、これから大事な受験期なのにさ。もう引退だけど、まだまだ部活でも顔合わせるかもしれないし。市瀬先輩に肩身の狭い思いさせたくないし、私も肩身の狭い思いしたくない。それに私、遠藤先輩のこともさ、好きだからさ……」

 結月ちゃんはそう言うと、泣き出した。こらえていた涙が一気に溢れだしたのだろう。

「大好きなの……本当に……。遠藤先輩と一緒にいるのを見てるのが、辛かった……」
「そうだよねぇ」

 新奈が結月ちゃんの背中をさすりながら声をかける。私は、上手く言葉をかけて挙げることが出来なくて、ただただ結月ちゃんの紡ぐ言葉に全神経を集中させていた。

 結月ちゃんが少し落ち着いて泣き止むと、私達は缶ココアを買って公園に行く。並木通りを一本内側に入ると街中なのにちょっとした遊具のある公園があるのだ。そのベンチに、結月ちゃんを真ん中にして座る。

「前も少し話したと思うんだけどさ、市瀬先輩とは塾で会ったんだよ。中学違うから」
「うん、聞いた。荒れてる結月を更生させてくれたんでしょ」

 新奈の言葉に結月ちゃんは懐かしそうに笑う。

「あの人はそんな大層なことしたつもりないと思うけど、まぁ私にとってはそうだよね。中学時代の私って見た目も結構すごくてさ、高校はさ、ほら受験があるじゃない? 親に無理やり塾に入れられてさ、嫌で嫌で仕方なかったからやめるって言いに行ったときに先輩に会ったんだよね」
「中二?」
「そ、先輩は中三。中学生のくせに偉そうに私に声かけてきたわけ」
「あはは、なにそれ、結月の言い方が面白すぎ」
「塾、やめるつもりだったのに、先輩の物の言い方がやけに腹立ってさ、文句言ってやろうって思って通うようになったの」
「なんて言われたの?」
「君の金髪は似合っているけれど、背伸びしてる感が半端ないね。受験するつもりなら不合格だって」
「あはは、言いそう。結月ちゃんはなんて言い返したの?」
「この髪で受かってやるって言ったの」
「うわ、やるー。でもちゃんと黒く染めたんでしょ?」
「私、意外と度胸なかったー」
「金髪の結月ちゃんも見て見たかったかも」
「スマホに写真入ってるかも。見る?」
「見る見るー!」

 見せてもらった写真に写る結月ちゃんは、今よりもちょっとだけ幼くて、確かに背伸びをしている感じがした。中学時代に出会っていたら、絶対に声をかけられない。

「ねぇ結月市瀬先輩、結月のことが好きなんでしょう?」
「そんなこと言ってない」
「でも、結月のこと振りたくないって言ってたよ。でも付き合わないの?」

 新奈の問いかけに、結月ちゃんは俯いた。きっと、心の底では付き合いたいと思っているのだ、でも、部活のこととか、周りのこととか、色々なことを考えてさっきの結論に至った。私だったら、どうするだろう……考えてみようとしても、いい考えが浮かばない。結月ちゃんは大人だ。

「今はさ、部活の空気とか、これ以上悪くしたくない。だから、先輩が卒業してからもう一回告白する」
「それまでにほかの子に取られちゃうかもしれないじゃん、先輩モテるし」
「そうなったらそれまで。先輩の気持ちはそんなもんだったってこと」

 缶が熱を失って、ココアはすっかり冷めてしまった。冷静すぎる結月ちゃんの言葉みたい。

「そろそろ帰ろっか、今日はごめん」
「また見に行こうって言ってるから大丈夫だよ~陽平君に言っておくからまた六人で来よう」

 結月ちゃんはすっきりした顔をしていた。市瀬先輩に、いつか言わなきゃいけないって思っていたのだろう。結月ちゃんのことが、すごく格好よく見えた。