ナナイロ!

 夏休みのあの日から、私達六人はぐっと距離が縮まって、互いに名前で呼び合うようになった。もともと、男の子同士、女の子同士は名前で呼び合っていたけれど、今は女子と男子の垣根が無くなった感じ。二学期は時間が瞬く間に過ぎてしまって、気が付けば、もうすぐ冬休みだ。

「穂花ぁ、新奈ぁクリスマス空けとけよ。六人でクリスマスパーティーする予定だから」
「クリスマスパーティーいいね! 空けとくー!」
「いいねぇ! 昇段試験と試合後だから安心して参加できる~」
「あ、弓のやつ?」
「そうそう、初段受けるんだよ! 湊君は参段受けるって言ってた」
「へぇ、なんか段位とっちゃうとか格好いいな」
「穂花毎日練習してるから試合でも活躍出来ちゃうよ~」
「足引っ張らないように頑張るよ~」

 陽平君と新奈と話を弾ませていると、結月ちゃんが教室に入ってきた。いつもは私の机に来てから自分の席につくのに、今日は真っ直ぐに自分の席につく。

「結月、機嫌悪そうだね」
「うーん、機嫌悪いっていうより、落ち込んでる感じしない?」
「確かに、あぁいう結月見るの初めてだぁ」

 先輩と何かあったのかなぁ、と新奈が耳打ちをしてくる。昨日までは普通だったと思う。部活の日だったから何かあったのかもしれない。

「お昼に話してくれたらいいね」
「おはよって言いに行ってみよ」

 陽平君が席に戻ってから、私と新奈は結月ちゃんの席に向かう。結月ちゃんは机の上に突っ伏していた。

「結月おはよ」
「おはよう~」

 結月ちゃんはちょっと顔を上げた。「おはよ」と短く返してくれる。でもまたぱたりと突っ伏してしまった。少しだけ、目が赤い。

「結月ちゃん、寒いけど、今日は藤棚でご飯食べよう」

 藤棚はいつの間にか私たちが教室では話しにくい深い話をするときに使う場所になっていた。真冬のこの時期は、外に出る生徒も少ないので、余計に話しやすい。

「……うん、ありがと、ちょっと聞いて」
「うん」

 新奈と私は頷いて、自分の席に帰る。すると、秋月先生が入ってきてホームルームが始まった。

 お昼、新奈と一緒に藤棚で待っていると少し遅れて結月ちゃんがやってきた。買ってきたビニール袋の中には、温かいココアの缶が三つ入っている。

「はいこれ」
「ありがと~おごり?」
「そ、そのかわりいいアドバイスちょうだい」
「うわぁ、プレッシャーだ。ありがと~」

 結月ちゃんが買ってきたサンドイッチの包みを開き始めたので、私と新奈もお弁当を広げる。結月ちゃんは自分で作ったお弁当を持ってくる日もあるんだけれど、今日は買ってきたサンドイッチ。目も赤かったし、作る余裕がなかったのかもしれない。

「あのさ、察しがついてると思うけど、先輩のこと」

 結月ちゃんはぱくりと頬張ったサンドイッチを飲み込んでから話し始めた。話の内容は、新奈と予想していた通り、先輩のことで、昨日の部活で何かあったみたい。

「市瀬先輩とさ、遠藤先輩がさ、喧嘩したみたいなんだよね」
「喧嘩とか普通じゃない? 喧嘩もするよ」
「まぁそうなんだけどさ、そうじゃないっていうか……」

 結月ちゃんはいつになく歯切れの悪いものの言い方をした。こんな結月ちゃんは、出会ってから初めて見る。

「二人が喧嘩したのはさ、私のせいかもって思ってるんだ」
「それ、どういうこと?」
「私、最近ポジションが決まって、市瀬先輩と同じスパイカーになったんだけど、それが問題っていうか……先輩が私の練習に付き合ってくれるようになったんだよね。初めは嬉しかったんだけど、なんか、遠藤先輩はそれが気に入らないみたいでさ。ちょっと私が嫌がられてるっていうか、それで二人が険悪になってるっていうかさ……」

 結月ちゃんは、ゆっくりと言葉を探りながら状況を説明してくれた。自分のせいで先輩たちが喧嘩をしてしまっていると、負い目を感じているみだいだ。

「でもさ、それって結月は関係なくない? ポジション決めるのは女バレの先輩でしょう?」
「そうなんだけどさ、ポジションって言うよりは、市瀬先輩が私の練習を見るのが気に入らないみたい。必要ないって断ったんだけどさ、居残り練習してるとちょっかい出してくるんだよね」
「市瀬先輩は純粋に結月ちゃんに上手になってもらいたくて教えてくれてるんでしょう?」
「そ、昔からあぁいう人なの。私みたいにはねっ返ってるのが気になっちゃって仕方ないタイプのお節介焼きなのよ」
「でもそんなお節介なところが好きなんでしょう?」

 新奈の言葉に、結月ちゃんはちょっと顔を赤らめてから不機嫌そうな顔になった。

「昨日の練習の後に二人が言い合いになってさ、とにかく練習に行きにくいっていうか……今日はサボりますって部長に言ってある」
「部長には相談したの?」
「してないけど、わかってると思う。すごく不憫《ふびん》そうな顔された」
「とばっちり感半端ないね」
「市瀬先輩に見てもらると、かなり上達する気がして嬉しいんだけど、それで二人の仲が悪くなるのは嫌なんだよね」
「そこはさ、結月の関与するところじゃないっしょ」
「そうなんだけどさ」

 結月ちゃんはあははと笑ったけれど、その笑顔はどこか力なかった。結月ちゃんは買ってきたサンドイッチを半分くらい食べて、止めてしまう。結月ちゃんが買ってきてくれたココアは程よく冷めてしまった。

「穂花、今日も部活?」
「の予定だったけど、自主練だから湊君に話してお休みしてくる」
「じゃー決まりだ! 結月、今日はカラオケ行こー」
「うっわ、うれしー。でも穂花に部活休ませるの気が引けるんだけど。少しだけ引いてきなよ、新奈は時間大丈夫なの?」
「大丈夫~」
「じゃぁ一時間練習してもいいかな? たぶんやるのとやらないので全然違うと思う」
「穂花、土日も練習来てるよね?」
「うん、予定が無い時は来てる」
「湊は?」
「いつも一緒だよ」
「マジかぁそれで付き合ってないのおかしいでしょ」
「いやいや、部活だもん」
「今日は結月の話聞くけど、今度穂花の話しも聞かせてもらうから!」
「話せるようなこと何にもないよ~」

 チャイムが鳴り始めた。私たちはココアを飲み干して教室に向かう。結月ちゃんが、少しでも元気になりますようにと祈るばかりだ。