七月も末のこと、期末試験も終わって、私の部活の方はというと――必死!
「夏休みは基本練習はないけど、鍵借りて勝手にやっていいから。あ、でも二宮さんはまだ一人で矢を射るの禁止な」
「練習の時は俺が付き合います」
「そうかぁ? 桐谷、二宮さんにあんまり練習させ過ぎんなよ」
「……気を付けます」
部長の梓馬《あずま》先輩が笑ってそんな注意をする。隣で副部長の玖珂先輩がころころと可愛らしく笑っていた。
「俺は夏練パス」
「先輩はいい加減受験勉強してください」
三年生で唯一部活に残ってくれている元部長の各務《かがみ》先輩。陽気で、穏やかな先輩なんだけれど、的の前に立つと、顔つきが変わる。的中率はやっぱり一番高い。
「推薦で決まったら冬の大会、余裕で出られるな」
「浪人して部活のせいにしないでくださいよ」
「はい、自己責任で参加します梓馬部長」
各務先輩と梓馬先輩はいつもこんな風にコントみたいな言い合いをしている。人数が少ないからこそ仲がいい、というのだろうか。それとも部長である梓馬先輩の雰囲気だろうか。弓道部の雰囲気はとても穏やかだ。
「ねぇ桐谷君、たまには穂花ちゃんと一緒に練習したいんだけど、いいかな?」
「そういうの、俺じゃなくて、二宮さんに直接聞いてくださいよ」
「それもそうだ、なんか桐谷君のオッケーが必要なんだと思ってた。マネージャーというか、保護者というか、ねぇ、穂花ちゃん」
玖珂先輩がにっこりと笑ってそんなおかしなことを言う。桐谷君は少し不機嫌そうに首筋を撫でた。照れてるの……かな?
「穂花ちゃん、入ってくれて本当にありがとうね」
「いえいえ、そんなに感謝されることでは……寧ろ未経験者の私で、申し訳ないと言うか……」
そう言うと、玖珂先輩は首を横に振った。
「大丈夫、未経験でも大歓迎よ! はじめはみんな未経験なんだから。弓道部、なんで人気ないんだろう、すごく格好いいと思わない?」
「思います! 藤棚から矢を射る姿が見えるんですよ、それがすごく格好良くて」
「桐谷君?」
「はい! あ、え……だけではなくて」
「穂花ちゃん天然で可愛すぎ。からかってごめんね、とにかく入ってくれて嬉しいよ。先輩たちがぬけちゃって、今年は試合厳しいなぁって思ってたの。こうやって練習するだけでも楽しいけど、やっぱり目標があると張り合いがあるし、個人戦って言う手もあるけれど、やっぱり団体戦に出たくて」
「私も、早く試合に出られるように頑張ります」
「あはは、今でも十分頑張ってると思おうよ、七kg弓、引けるようになったって言ってたっけ?」
「はい」
「すぐに軽く感じられるようになるよ、その後は弓買うの?」
「いえ、桐谷君が中学時代に使っていた十キロの並寸の弓を貸してくれるみたいです。先輩みたいに十二キロが引けるようになったら、自分の弓を買いたいなって思っています」
答えると、先輩はへぇっと何か納得したような声を出した。そして、こそっと耳打ちをしてくる。
「ねぇ、二人は付き合ってるんでしょう?」
ぼっと顔が赤くなる。私は慌てて否定した。
「ち、ち、ち、違います」
「違うの? そっか、違うのかぁ……仲が良いし、自主練毎日一緒にやってるみたいだからてっきり付き合っちゃってるんだと思ったよ」
「そんな畏れ多い」
「お似合いだと思うけどなぁ」
とんでもない。全くもって月とスッポン(もちろん私がスッポン)だと思うけれど、そんなことを言われたら、余計に桐谷君のことが気になってしまう。
勝手に意識したりして、大変申し訳ない。桐谷君、ごめんなさい。
「私と梓馬君もね、なんとなーくで、付き合い始めちゃったから、もしかしたら二人もなんとなーく付き合い始めちゃうのかもね」
「本当にそんなことはありません。先輩たちはすごくお似合いで憧れます」
部長の梓馬先輩と玖珂先輩は互いに思い合っているのが伝わってくる。すごく素敵。
「あはは、私と梓馬君はよく喧嘩するけどね」
「喧嘩するほど仲が良いって言うから」
「それだと良いな」
嬉しそうに笑う玖珂先輩。大人っぽいなって思う。私も二年生になったら、もう少し大人っぽくなれるのかな……?
「さぁ、おしゃべりと楽しいけど、練習しよっか?」
「はい、よろしくお願いします」
玖珂先輩との練習は、いつものドキドキがない分少しだけリラックスして射形の練習が出来た。玖珂先輩は誉め上手なので、自分がすごく上手になったような気さえしてしまう。
「よし、的の前で射ってみようか? 私、部長に聞いてくるね」
「ありがとうございます」
最近は、巻き藁(練習道具の一つ。藁を巻いて樽のような形にしたもの)に向かって少しずつ的の前で射たせて貰えるようになった。すごく緊張するけれど、矢を放ったあとのなんとの言えない清々しさがたまらなく気持ちが良い。
梓馬先輩の許可を得て、私も的前に立つ。練習の最後に、立(弓道において、試合のことを立と呼ぶ)形式の練習を行うのだ。
ふぅっと深呼吸をしてから矢を射る体勢に入る。長い会の後、私の放った一本目の矢は、安土まで届かず草の上に落ちた。
「まだまだダメだ……」
ため息と共に、思わず漏れる言葉。すると、桐谷君が話しかけてきた。
「7kgならあんなもんだろ、中てようなんて考えずに、射形を気にしろ。今の、少し右肩が上がってたぞ」
「そっかぁ、中てることばっかり考えてた」
「射形がきちんとしていれば、重い弓を引けるようになったら中たり始める。今は軽い弓だから気にするなよ」
焦らないように、的確な指摘をしてくれる桐谷君。すごく教え上手だ(時々スパルタだけど)。焦らずに、頑張ろう。私のペースで。
「夏休みは基本練習はないけど、鍵借りて勝手にやっていいから。あ、でも二宮さんはまだ一人で矢を射るの禁止な」
「練習の時は俺が付き合います」
「そうかぁ? 桐谷、二宮さんにあんまり練習させ過ぎんなよ」
「……気を付けます」
部長の梓馬《あずま》先輩が笑ってそんな注意をする。隣で副部長の玖珂先輩がころころと可愛らしく笑っていた。
「俺は夏練パス」
「先輩はいい加減受験勉強してください」
三年生で唯一部活に残ってくれている元部長の各務《かがみ》先輩。陽気で、穏やかな先輩なんだけれど、的の前に立つと、顔つきが変わる。的中率はやっぱり一番高い。
「推薦で決まったら冬の大会、余裕で出られるな」
「浪人して部活のせいにしないでくださいよ」
「はい、自己責任で参加します梓馬部長」
各務先輩と梓馬先輩はいつもこんな風にコントみたいな言い合いをしている。人数が少ないからこそ仲がいい、というのだろうか。それとも部長である梓馬先輩の雰囲気だろうか。弓道部の雰囲気はとても穏やかだ。
「ねぇ桐谷君、たまには穂花ちゃんと一緒に練習したいんだけど、いいかな?」
「そういうの、俺じゃなくて、二宮さんに直接聞いてくださいよ」
「それもそうだ、なんか桐谷君のオッケーが必要なんだと思ってた。マネージャーというか、保護者というか、ねぇ、穂花ちゃん」
玖珂先輩がにっこりと笑ってそんなおかしなことを言う。桐谷君は少し不機嫌そうに首筋を撫でた。照れてるの……かな?
「穂花ちゃん、入ってくれて本当にありがとうね」
「いえいえ、そんなに感謝されることでは……寧ろ未経験者の私で、申し訳ないと言うか……」
そう言うと、玖珂先輩は首を横に振った。
「大丈夫、未経験でも大歓迎よ! はじめはみんな未経験なんだから。弓道部、なんで人気ないんだろう、すごく格好いいと思わない?」
「思います! 藤棚から矢を射る姿が見えるんですよ、それがすごく格好良くて」
「桐谷君?」
「はい! あ、え……だけではなくて」
「穂花ちゃん天然で可愛すぎ。からかってごめんね、とにかく入ってくれて嬉しいよ。先輩たちがぬけちゃって、今年は試合厳しいなぁって思ってたの。こうやって練習するだけでも楽しいけど、やっぱり目標があると張り合いがあるし、個人戦って言う手もあるけれど、やっぱり団体戦に出たくて」
「私も、早く試合に出られるように頑張ります」
「あはは、今でも十分頑張ってると思おうよ、七kg弓、引けるようになったって言ってたっけ?」
「はい」
「すぐに軽く感じられるようになるよ、その後は弓買うの?」
「いえ、桐谷君が中学時代に使っていた十キロの並寸の弓を貸してくれるみたいです。先輩みたいに十二キロが引けるようになったら、自分の弓を買いたいなって思っています」
答えると、先輩はへぇっと何か納得したような声を出した。そして、こそっと耳打ちをしてくる。
「ねぇ、二人は付き合ってるんでしょう?」
ぼっと顔が赤くなる。私は慌てて否定した。
「ち、ち、ち、違います」
「違うの? そっか、違うのかぁ……仲が良いし、自主練毎日一緒にやってるみたいだからてっきり付き合っちゃってるんだと思ったよ」
「そんな畏れ多い」
「お似合いだと思うけどなぁ」
とんでもない。全くもって月とスッポン(もちろん私がスッポン)だと思うけれど、そんなことを言われたら、余計に桐谷君のことが気になってしまう。
勝手に意識したりして、大変申し訳ない。桐谷君、ごめんなさい。
「私と梓馬君もね、なんとなーくで、付き合い始めちゃったから、もしかしたら二人もなんとなーく付き合い始めちゃうのかもね」
「本当にそんなことはありません。先輩たちはすごくお似合いで憧れます」
部長の梓馬先輩と玖珂先輩は互いに思い合っているのが伝わってくる。すごく素敵。
「あはは、私と梓馬君はよく喧嘩するけどね」
「喧嘩するほど仲が良いって言うから」
「それだと良いな」
嬉しそうに笑う玖珂先輩。大人っぽいなって思う。私も二年生になったら、もう少し大人っぽくなれるのかな……?
「さぁ、おしゃべりと楽しいけど、練習しよっか?」
「はい、よろしくお願いします」
玖珂先輩との練習は、いつものドキドキがない分少しだけリラックスして射形の練習が出来た。玖珂先輩は誉め上手なので、自分がすごく上手になったような気さえしてしまう。
「よし、的の前で射ってみようか? 私、部長に聞いてくるね」
「ありがとうございます」
最近は、巻き藁(練習道具の一つ。藁を巻いて樽のような形にしたもの)に向かって少しずつ的の前で射たせて貰えるようになった。すごく緊張するけれど、矢を放ったあとのなんとの言えない清々しさがたまらなく気持ちが良い。
梓馬先輩の許可を得て、私も的前に立つ。練習の最後に、立(弓道において、試合のことを立と呼ぶ)形式の練習を行うのだ。
ふぅっと深呼吸をしてから矢を射る体勢に入る。長い会の後、私の放った一本目の矢は、安土まで届かず草の上に落ちた。
「まだまだダメだ……」
ため息と共に、思わず漏れる言葉。すると、桐谷君が話しかけてきた。
「7kgならあんなもんだろ、中てようなんて考えずに、射形を気にしろ。今の、少し右肩が上がってたぞ」
「そっかぁ、中てることばっかり考えてた」
「射形がきちんとしていれば、重い弓を引けるようになったら中たり始める。今は軽い弓だから気にするなよ」
焦らないように、的確な指摘をしてくれる桐谷君。すごく教え上手だ(時々スパルタだけど)。焦らずに、頑張ろう。私のペースで。

