それから、二時間たったけれど、私はまだこの大理石の部屋の中にいた。
もう、帰れないのではないかと不安ではあったが、この部屋の中なら、別にいいかな、なんて思う自分がどこかにいた。
「らいらさん、これ、どういうことでしょうね」
紺さんは、立ち上がって、大きな窓枠の外を見ていた。
「さあ。少し回ってみましたが、私たち以外に人はいないようですし」
そもそもここ、廊下が長すぎて、建物の大きさは見当が付かない。
「ここは、広すぎます。下手したら迷子になります」
私が途方に暮れたように壁にもたれ、座り込むと、紺さんは、見かねたようにそばにやってくる。
大理石の壁にもたれかかって、足を伸ばした。
「うーんと・・・紺さんは、私と同じで、中学一年生なんですね」
「うん」
なぜか紺さんは、片耳を押さえながら、私の15センチくらい横に座った。
片耳を押さえている。少しそれが違和感ではあったけど、私は言った。
「じゃあ、別に敬語じゃなくても良くないですか」
私が大真面目にそう言うと、紺さんは少し間を開けて、笑って見せた。
「え?」
何か、おかしな事を言っただろうか。
過去の私の言動を振り返ってみても、何も変なことは言ってない・・・はずだし。
「敬語・・・、一番使っているのはらいらさんでしょ」
紺さんは苦笑した。
「・・・あ」
確かに、そうかもしれないな。
でも、やっぱりこのしゃべり方が慣れてる。
話し言葉で話すのは、苦手だな。
家で口を開く時なんて、無意味な独り言と「いただきます」と「ごちそうさま」くらいだし。
その後は、ずっと無言。
まるで時が止まったかのように、静かな空間。
だから今、15センチ隣に人がいることだけで、ちょっと不思議な感覚なんだな。

