モノクロームの15センチ


きぃ、と扉の開く音が聞こえた。
肩をびくっと震わせて、俯いた。
私と同じように、気だるげな誰かが帰ってくる。

「…おかえりなさい」

声にもならない声でそう誰かに言うけれど、聞こえなかったらしい。
前髪の隙間から、ちらりと誰か見てみる。

後ろ姿だけだが、多分、紺さんだ。
紺さんは、義理のお兄さん。私とは、確か二つ違いだったはず。

背が高く、後ろ姿だけでも、惚れてしまう人はいるだろう。
だが、私は、どうしてもその紺さんの顔を見る心の余裕がなかった。

ため息をついたとたん、私の気配に気づいたのか、紺さんの肩が震えた。
そして、黒い前髪を少しかき上げながら、私のほうを見る。

ハッとして、私はそっぽを向く。

「あ」

紺さんがそういって、同じように、すぐにそっぽを向いた。
そして、階段をのぼっていって、自分の部屋へ行ってしまった。

最後、ドアを閉める音がするまで、私は微動だにしなかった。

いや、できなかった。

やっとのことで肩の力を抜き、また足をのばす。
紺さんの入っていったドアを見て、また身震いする。

喋ってみたい。

「ま、無理かな」
自分の中でそう解釈して、私はその気持ちを振り切った。

鏡にうつった私の目は、うつろだった。
どこか焦点の定まらない目が、自分の目だとは思いもしなかった。
明るい焦げ茶色の目には、私がうつっている。

五時を過ぎた現在、天気は急変して、雨になっていた。
先ほど見ていた新聞紙の天気予報によると、確かに晴れ時々雨だったはず。

雨が降ると、気分が下がるときはないだろうか。

私はそれに当てはまる。

とてつもなく気分が下がり、気力が湧かない。
とても小さな音だが、雨音がする。

ただ、この音から逃れたくて、私は二階の自分の部屋へ駆け込んだ。