モノクロームの15センチ


なんだか、嬉しいな、なんて思ったのは、ここ最近初めてかもしれない。
最近はずっと、家にいて、何に対しても無気力で。

私の世界は、モノクロ。

家は、白色、黒色、あとは唯一、観葉植物の緑だけ。

家の紺さんとはろくに話せないし、何の進歩もない私。
でもこうやって今、人と話せている事実に、私自身が驚かされている。
大理石の壁くらい厚かったはずの心の壁。
いや、もともと大理石だったのかもしれない。
白黒で、モノクロな。

「おーい、らいらさん」
紺さんに声をかけられて、飛び起きる。
「はいっ」
「どうしたんですか」
「あ、いや、そのですね?・・・ちょっと、考え事です」
そうですか、と紺さんはまた片耳を押さえた。

「あの・・・、失礼かもしれないけれど、紺さんはなんで、ずっと片耳を押さえてるんですか?」
「ああ、これ?」
紺さんは、にこやかな笑みを浮かべ、言った。
「実はこっちの耳、聞こえてなくて」
「え・・・?」

そうなんだ。
・・・これは、どう返せばいいのかな。
私は体の不自由があるわけじゃないけれど、共感されたら逆に嫌な時、共感してほしい時。
色々な時があるから・・・。

「・・・そうなんですね」
「うん、でも、それ以上に視力がいいよ」
視力と言われて、私はうなだれる。
「・・・いいですね。私、両目、良くないんですよね」
小学校入りたての時は、両目Aだったのに、いつのまにかCとかDに低下しているときって、ある。

私がそれだった。
だんだんぼやけていくモノクロな視界に、のまれていく自分が怖くなる。
その状態が一番怖い。

色のグラデーションみたいに、どこからどこか、分からない状態。
すぐに彩度や明度やら色相やらが落ちないから、逆に怖いんだ。

「そうなんだ」
紺さんは、私の目を見て、頷いた。

全部がぼやけた私の視界に、モノクロームな視界に。
君だけ、貴方だけに、色が、宿った気がした。