歌声が心の扉を叩いた日

朝ごはんをゆっくりと食べ終え、愛斗は身支度を整えて仕事へと向かった。
一日中、集中して仕事をやり遂げ、帰宅してからも次の日の予定を確認しながら、真知子に早く会いたいという気持ちで胸がいっぱいになっていた。
そして待ちに待った次の日。約束していた待ち合わせ場所に足を運ぶと、真知子が少し急いだ様子でこちらへ歩いてくるのが見えた。
手には大きなキャリーバッグを引いている。
「愛斗くん、お待たせしました。少し荷物が多くなっちゃって」
「全く待ってないよ。ちょうど僕も着いたところだから。それじゃあ、行こっか」
「うん、お願いね」
愛斗は真知子のキャリーバッグを笑顔で受け取ると、車のトランクに丁寧に積み込んだ。
それから二人は運転席と助手席に並んで座り、ドアを閉めた瞬間、愛斗はそっと真知子の方へ体を寄せ、柔らかく唇を重ねた。
「二日も会えなかったから、本当に会いたかった。会えてすごく嬉しいです」
「私もよ。毎日、どんなに過ごしてるかなって、ずっと愛斗くんのことばかり考えてたの」
もう一度優しくキスを交わしてから、愛斗はエンジンをかけ、ゆっくりと車を走らせた。
向かったのは、川のせせらぎが聞こえる中黒川沿いだ。道の両側には季節の花々が咲き誇り、風に揺れる様子がとても穏やかだ。
駐車場に車を停め、二人は手を繋いで降り立った。色とりどりの花を見ながら、仕事のことや最近の出来事、好きな音楽の話など、話は尽きることがない。
そんな穏やかな時間が流れていた時、突然見知らぬ男性が真知子の前に立ちふさがった。
「真知子ちゃん、久しぶりじゃないか。この男、いったい誰なんだい?」
男性は不審な目つきで愛斗を睨みつけ、さらに真知子に近づこうとした。
真知子は一歩も引かず、真っ直ぐ男性を見据えてはっきりと答えた。
「彼氏です」
「なんだって? 彼氏? そんな話、聞いてないぞ」
男性は驚きと不満を露わにし、さらに手を伸ばそうとした。
その瞬間、愛斗は素早く真知子の前に立ちふさがり、男性の腕を強く掴んで追い払った。そのまま近くの壁際まで追い詰め、手首をねじり上げると、低く鋭い声で言い放った。
「俺の大切な真知子に、これ以上近づくな。二度と手を出すな。さっさとここから消えろ」
男性は痛みに顔をしかめ、何も言い返せず、恨めしそうな視線を残してその場から逃げていった。
愛斗はすぐに真知子のもとへ戻り、彼女の肩をそっと抱きしめた。
「大丈夫ですか? 怖くなかったですか?」
「大丈夫よ。愛斗くんが守ってくれたから……本当にありがとう。助けてくれて、すごく嬉しい」
「どういたしまして。もう絶対に、誰にもさせないから」
真知子は愛斗の胸元に顔を寄せ、嬉しそうに何度もキスをした。愛斗は彼女を壁際に優しく導き返し、心を込めて深くキスを返した。お互いの温もりを確かめるように、長く優しい時間が流れた。
それから二人は、昔ながらの趣のある古本屋へと足を運んだ。棚に並ぶ本を一つひとつ手に取りながら、愛斗は気になった小説を二冊選び、真知子も好きな詩集を手に取った。その時、愛斗はレコードコーナーで、真知子がデビューしたばかりの頃のCDを見つけた。ジャケットには、若き日の輝くような笑顔が写っている。
「真知子さん、この頃も本当に可愛いですね。今も変わらず素敵だけど、初々しくてまた違う輝きがあります」
「あら、ありがとう。もう随分前のことだけど、懐かしいわね」
本とCDをレジで支払い、古本屋を出ると、愛斗はそっと真知子の手を固く握りしめた。手を繋いだまま、道端の花々を見ながら、二人はゆっくりと、そして穏やかに歩き続けた。風が心地よく吹き抜け、二人の幸せな気持ちを乗せて、どこまでも続いていくようだった。