「何?」
お母さん、かな……。
心配で来てくれたんだろうけど、正直今はそっとしておいてほしい。
そう思ったけど、ドアの向こうから聞こえてきた声は明らかにお母さんのものではなくて。
「乃亜、出てきて」
泣いた後のように少し掠れた、それでもどこか安心感のある、聞き慣れた声。
……唯斗?
急にどうして……。
あの日までは、毎日のように家を行き来していたけど、優海が亡くなってからは初めてだ。
そういえば、唯斗はお葬式のとき、どんな顔してたっけ。
私が泣いていたとき、唯斗はずっと呆然と優海を見ていた。
その時の唯斗は、どんな気持ちだったんだろう。
本当は、辛くて辛くて仕方がなかったんじゃないか。
唯斗は昔から抱え込む癖があるから、ずっと苦しかったんじゃないか。
「ね、乃亜。お願い」
ぐるぐる考える私の耳に入ったのは、聞いたこともないくらい優しい、唯斗の声。
「嫌だ」
……お願い、やめて。
「乃亜、話そう。開けていい?」
唯斗に抱え込んでほしくないのに……今優しくされたら、私が唯斗に甘えてしまう。
否定も肯定もできない私に、目の前のドアが、ガチャリと開いた。
「乃亜」
見上げると、当たり前だけどそこにいるのはいつもの唯斗で。
セットしていない、綺麗な長い前髪の奥で細まる瞳には、孤独、絶望、怒り、悲しみ、虚しさ、そしてそれでも滲み出る少しの優しさ──そんな感情が錯綜していた。
もう、いまにも壊れてしまいそうだ。
目を合わせていられなくて唯斗から視線を外す。
「……」
「……え、っと」
何か、何か話さなきゃと思って必死に頭を働かせる。
だけど、こんなときに気の利いた言葉なんて思いつくはずもなくて、どうしようかと悩んでいたときだった。
