あの日、君を救えなかった私は〜幼馴染を失った私達の、壊れてしまった恋〜

ほんと、もうちょっと自分のことも大切にして欲しい。

小さく息を吐いて、とん、と唯斗の肩を優しく叩く。
あざとくなく、あくまで自然に。慰めようとする気持ちが先走って、余計な甘さにならないように。


「ねぇ、唯斗。抱え込んでるのバレバレだよ」


できる限り優しく微笑んで唯斗を見つめる。

唯斗の目が私を映す。その瞳が微かに揺らいだのが分かった。


……うん、大丈夫。上手くできてる。
まずは唯斗が最優先だ。


「……もう、俺が乃亜慰めてあげようと思ったのに」


私と同じくらいの目線に頭を下げ、少し笑ってそう呟く唯斗は、いつもよりも少し幼く感じた。


……唯斗は、私が思っていた以上に、傷が深いのかもしれない。



──そのまま、こっちに手を伸ばしてきて。

ふわ、と包まれる感覚。
気づいた時には、唯斗の腕の中で。


男ものかな。ウッディー系の爽やかなシャンプーの匂い。
森の中のような、それでいて上品で安心感のある匂いに、張り詰めていた涙腺が一瞬崩壊しそうになる。

……って、そう、じゃなくて。

慌てて離そうとしても、女の私が力で敵うはずもなく。
その代わり、ぎゅ、と私を掴む腕の力が強まる。

「唯斗っ……離して……」
「……乃亜」

ぽつり。唯斗が囁くように放ったその声に、何も言えなくなってしまう。

今にも泣き出してしまいそうな、甘えるような唯斗の声。

……あ、やばい。
あのときと、同じだ。

「……ねぇ、乃亜。家来て」

ちゃんと、聞いてあげないといけない。
唯斗の負った傷に、目を逸らさないで見てあげないといけない。

それが、私に出来る最善のことだ。


「……うん」


呟いたその言葉は、真夏の風と蝉たちの鳴き声に攫われていった。