十二月。
吐く息が白く染まる朝。
あの日の私は、これから先の人生で、あんなにも泣くことになるなんて思ってもいなかった──。
目覚まし時計の音でゆっくりと目を覚ます。
「……もう朝か。」
眠たい目をこすりながら制服に袖を通し、部屋を出る。洗面所で顔を洗い、歯を磨く。鏡に映る自分へ「今日も頑張ろう」と小さく笑ってみせた。
早起きしているはずなのに、家を出るのはいつも午前八時過ぎ。
学校までは歩いて二十五分。
少し早足で歩かなければ、始業のチャイムに間に合わない。
冬の冷たい風に肩をすくめながら歩いていると、後ろから聞き慣れた声が響いた。
「やっほー!」
振り返ると、同じクラスの廉が、大きく手を振りながら走ってくる。
「元気ー?」
「元気だし。」
私は笑いながらそう返した。
「廉は?」
「俺は前から元気だし!」
そう言って、廉は子どもみたいな笑顔を見せる。
……まただ。
なんで廉は、いつも私に話しかけてくるんだろう。
その無邪気な笑顔を見るたび、少しだけ胸が温かくなる。
「ほら、急がないと遅刻するぞ!」
そう言いながら、廉は私の隣を楽しそうに歩き始めた。
校門が見えてくる頃には、頬が少し赤くなっていた。
冬の朝の学校は、いつもより静かだった。
まだ登校してくる生徒も少なくて、校庭には薄い冷気が残っている。
「寒すぎない?」
廉が両手をこすりながら言う。
「寒い。」
「だよね。」
そう言って笑った廉は、ポケットから財布を取り出した。
「ちょっと待ってて。」
「え?」
廉は校門の近くにある自動販売機へ向かっていく。
そして戻ってきた手には、二本の缶が握られていた。
「はい。」
差し出されたのは、温かいコーンスープだった。
「え、いいの?」
「寒いじゃん。」
当たり前みたいに言う廉。
私は少し驚きながら、その缶を受け取った。
両手で包むと、冷たかった指先にじんわり温かさが広がっていく。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
廉は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、なぜか少しだけ安心した。
何気ない朝。
何気ない会話。
何気ない優しさ。
この時の私は知らなかった。
こういう小さな幸せほど、あとになって一番大切な記憶になることを。
「早く行こ。遅刻するぞ。」
「廉が寄り道したからでしょ。」
「え、俺のせい?」
「そうでしょ。」
くだらない言い合いをしながら、私たちは教室へ向かった。
この冬の朝が、ずっと続くと思っていた。
吐く息が白く染まる朝。
あの日の私は、これから先の人生で、あんなにも泣くことになるなんて思ってもいなかった──。
目覚まし時計の音でゆっくりと目を覚ます。
「……もう朝か。」
眠たい目をこすりながら制服に袖を通し、部屋を出る。洗面所で顔を洗い、歯を磨く。鏡に映る自分へ「今日も頑張ろう」と小さく笑ってみせた。
早起きしているはずなのに、家を出るのはいつも午前八時過ぎ。
学校までは歩いて二十五分。
少し早足で歩かなければ、始業のチャイムに間に合わない。
冬の冷たい風に肩をすくめながら歩いていると、後ろから聞き慣れた声が響いた。
「やっほー!」
振り返ると、同じクラスの廉が、大きく手を振りながら走ってくる。
「元気ー?」
「元気だし。」
私は笑いながらそう返した。
「廉は?」
「俺は前から元気だし!」
そう言って、廉は子どもみたいな笑顔を見せる。
……まただ。
なんで廉は、いつも私に話しかけてくるんだろう。
その無邪気な笑顔を見るたび、少しだけ胸が温かくなる。
「ほら、急がないと遅刻するぞ!」
そう言いながら、廉は私の隣を楽しそうに歩き始めた。
校門が見えてくる頃には、頬が少し赤くなっていた。
冬の朝の学校は、いつもより静かだった。
まだ登校してくる生徒も少なくて、校庭には薄い冷気が残っている。
「寒すぎない?」
廉が両手をこすりながら言う。
「寒い。」
「だよね。」
そう言って笑った廉は、ポケットから財布を取り出した。
「ちょっと待ってて。」
「え?」
廉は校門の近くにある自動販売機へ向かっていく。
そして戻ってきた手には、二本の缶が握られていた。
「はい。」
差し出されたのは、温かいコーンスープだった。
「え、いいの?」
「寒いじゃん。」
当たり前みたいに言う廉。
私は少し驚きながら、その缶を受け取った。
両手で包むと、冷たかった指先にじんわり温かさが広がっていく。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
廉は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、なぜか少しだけ安心した。
何気ない朝。
何気ない会話。
何気ない優しさ。
この時の私は知らなかった。
こういう小さな幸せほど、あとになって一番大切な記憶になることを。
「早く行こ。遅刻するぞ。」
「廉が寄り道したからでしょ。」
「え、俺のせい?」
「そうでしょ。」
くだらない言い合いをしながら、私たちは教室へ向かった。
この冬の朝が、ずっと続くと思っていた。
