最後の嘘は、愛だった

読み進めるにつれて、俺の手はどんどん震えていった。

病気だった。

余命一年だった。

海外で手術を受ける。

成功する確率は低い。

俺は何度も文字を読み返した。

「……嘘だろ」

声が漏れる。

都薇がいなくなった理由。

俺と別れた理由。

全部、俺が思っていたものとは違った。

『本当は、蓮に言いたかった』

その一文を読んだ瞬間、涙が落ちた。

「……言えよ」

誰もいない教室で、俺は呟いた。

「なんで言わなかったんだよ……」

怖かったなら、怖いって言ってくれればよかった。

一緒にいてほしいなら、そう言ってくれればよかった。

俺は何度でも隣にいたのに。

『もっと生きたい。もっともっと蓮と一緒にいたい。蓮と一緒に生きたい』

そこまで読んだところで、もう文字が見えなくなった。

涙で滲んでしまったからだ。

俺は何度も目を擦った。

それでも止まらない。

「……俺だって」

声が震える。

「俺だって、ずっと一緒にいたかったよ……」

都薇が「好きな人ができた」と言ったあの日。

俺は、都薇に嫌われたんだと思った。

俺より好きな人ができたんだと思った。

だから、諦めるしかないと思った。

でも違った。

都薇は俺を嫌いになったんじゃない。

俺を好きなまま、俺の前から消えようとした。

俺を苦しませたくないから。

「……馬鹿だよ」

手紙を握りしめる。

「都薇の馬鹿……」

本当は、怒りたかった。

勝手に決めるなって言いたかった。

一人で抱えるなって言いたかった。

でも――

それ以上に、怖かった。

都薇が今、どこにいるのか。

手術を受けるのか。

成功するのか。

帰ってこられるのか。

何も分からない。

「……俺、何も知らなかった」

幼なじみだった。

ずっと隣にいた。

恋人だった。

それなのに、都薇が一人で泣いていたことすら知らなかった。

俺は手紙を胸に抱きしめた。

「……都薇」

届くはずのない声で名前を呼ぶ。

「俺は待つよ」

手紙を握る手に力を込める。

「帰ってこられる保証なんてなくても、俺は待つ」

都薇が帰ってくるまで。

何年かかっても。

何年でも待つ。

「だから……絶対帰ってこいよ」

涙を拭う。

「俺、まだお前に言えてないこといっぱいあるから」

そして俺は、手紙を大切に折りたたんだ。

都薇が帰ってきたときに、ちゃんと返せるように。

――俺たちの時間は、まだ終わっていない。

そう信じたかった。