空賊退治専門屋

​ 街へ入ると、
 フィアマはそこにいた小柄な少女に何か二、三言話しかけたあと、
「ちょっと用事があるから!」
 と言って、
 疾風のようにその場を去ってしまった。

 ​取り残された俺の前に、
 その少女が満面の笑顔で近づいてくる。

​「はじめまして! フオコって言うの。
よろしくね!」

「あ、俺はピウマ……」

「うん、さっきフィアマちゃんから聞いたよ!
ねぇピウマ君、
どうして空賊なんかにさらわれていたの?」

「いや……俺にも全然わからないんだ」

「普通、空賊がお金や宝を奪うことはあっても、
人間を誘拐するなんてめったにないよ?
何か貴重な物でも盗まれなかった?」

「うーん……何も持ってなかったし、
盗まれた物もないよ」

「それじゃあ、ますます目的が見えないね……」

 ​フオコが首をかしげたその時、
 街中に緊迫した叫び声が響き渡った。

​『大変だーッ! 空からまた空賊が来たぞーッ!!』

​ 慌てて空を見上げると、
 一隻の空賊船が勢いよくこちらへ向かって降下してくるところだった。

​「来たなら、戦うしかないね!」

「えっ、どうやって!?」

 ​俺の問いに答えるより早く、
 フオコは腰のホルスターから素早く銃を抜き取ると、
 空賊船へ向かって間髪入れずに連射した。

 正確に弱点を撃ち抜かれた空賊船はガラガラとバランスを崩し、
 凄まじい音を立てて地上へ墜落していく。

​「ひ、人が死んじゃうんじゃないの!?」

「大丈夫だよ! 空賊は空を飛ぶのが仕事だから、
落ちた時の対策だってちゃんとしてるはずだしね」

 ​フオコがケロリと言い放った直後、
 煙の上がる船の残骸から、
 あの男――タンパニーが姿を現した。

 ​タンパニーは大型のライフルを構え、
 一直線に俺を見つめてくる。

​「ピウマ……無事だったか! 迎えに来たぞ、今度こそ絶対に離さん!」

 ​その言葉に応じるように、
 フオコも再び銃を構えた。

​「空賊専門の退治屋め、邪魔をするな!」

​ するとフオコはニヤリと笑うと、
 小さな体でひょいと俺をお姫様抱っこで抱え上げた。

​「へっ……!? うわっ!?」

「こうやって盾にすれば、
撃てないでしょ?」

 ​タンパニーは苦虫を噛み潰したような顔で激怒する。

​「お、愚かな……! それではこちらも手出しができんではないか!!」

「あはは、誰が銃だけで戦うなんて言った?」

​ 次の瞬間、
 フオコの足元からボッと真っ赤な炎が吹き出した。

​「うわあっ! 熱っ!?」

​ 驚いた俺は、
 振り落とされまいと必死でフオコにしがみつく。

 フオコは俺を抱えたまま軽々と空へ跳び上がると、
 燃え盛る足でタンパニーの顔面へ鮮やかな蹴りを叩き込んだ!

​「ぐはっ……熱つゥッ!?」

 ​顔を焼かれたタンパニーは、
 たまらず後ずさる。

 俺を抱きかかえているフオコに対して、タンパニーは俺を巻き込むことを恐れ、
 一切の反撃ができなかったのだ。

​「くっ……覚えていろよ……!」

 ​タンパニーは悔しそうに捨て台詞を残すと、
 命からがら逃げ去っていった。

 ​フオコは着地すると、
 そっと俺を地面へ降ろした。

​「……やっぱり不思議だね。
あの空賊、君のことを絶対に攻撃しようとしない」

「どういうことなんだろ……」

「ここまでくると、
空賊本人たちに直接理由を聞くしかないかもしれないね」

「フオコにも理由は分からないの?」

「うん、全部は分からないよ。
空賊には、
『空賊専門退治屋』
すら知らない秘密がたくさんあるの。
だから近いうちに、
仲間の何人かが情報を集めるために調査へ行く予定なんだ」

 ​フオコの話を聞きながら、
 俺は改めて自分の置かれた状況の厳しさを突きつけられていた。

 ​この世界へやってきてから、
 俺は自分一人では何一つできない。

 常識も知らず、
 誰もが当たり前に使える力や技術もない。
 ​元の世界へ帰る方法なんて見当もつかないし……仮に帰れたとして、
 津波に飲み込まれた故郷に、
 俺の居場所が残っているのかさえ分からないのだ。
 ​こうして――俺の波乱に満ちた異世界生活が、
 本格的に幕を開けたのだった。