空賊船での暮らしにも、
少しずつ慣れてきた。
それでも、
高い場所だけはどうしても克服できない。
船が少し揺れるだけで、
「このまま墜落するんじゃないか」
と生きた心地がしなくなるのだ。
――そんな俺をさらに惑わせる存在がいた。
この船の船長、
タンパニーだ。
最初はギクシャクしていた関係だったのだが、
最近の奴はどこかおかしい。
「手を繋いでくれるか……?」
「き、キス……してくれぬか?」
「今夜、一緒に寝てほしいのだが……」
「一緒にお風呂に入らないか?」
「お、お姫様抱っこをしてもいいか……!?」
真っ赤な顔をして、
矢継ぎ早に妙な要求を繰り出してくる。
もちろん俺は、そのたびに容赦なく突っぱねた。
「嫌です」
男同士でそんなことをする理由がどこにある。
するとタンパニーは、
今にも泣き出しそうな捨て犬のような顔で俺を見つめてくるのだ。
「……もしかして、我のことが嫌いなのか?」
「嫌いとかそういう問題じゃない」
知り合って間もない野郎と、
そんな関係になれるわけがないだろう。
タンパニーは何かを言いたげに口を開いた。
「我は、貴様が……」
「それ以上は言わなくていい」
なんだか嫌な予感がして、咄嗟に言葉を遮る。
タンパニーはどこか切なさの混じった、寂しげな笑みを浮かべた。
「貴様は……我との『絆』を忘れてしまったのだな」
「忘れるも何も、俺たちは初対面だろ」
「いいや。我らは前世で固い契りを交わした」
「前世!?」
ファンタジー世界とはいえ、
急にそんなオカルティックなことを言われて信じられるはずもない。
「そんな話、信じられるわけないだろ」
「……そうか。忘れているのなら、今はそれでいい」
タンパニーはそれ以上、
何も言わなかった。
その時だった。
『大変だーッ! 空賊専門の退治屋が来たぞ!!』
見張り役の怒号が響き渡ると同時に、
激しい衝撃が船を揺らした。
巨大な炎の渦が、
一瞬にして船体を包み込んでいく。
「――ファイアーロード!!」
何者かの凛とした叫び声が響き、
船は黒煙を上げながら猛スピードで傾き始めた。
「うわぁぁっ!?」
業火に巻かれ、
船が墜落へと向かって急降下していく。
ああっ、やっぱりこうなるんだ! もうダメだ――!
死を覚悟したその瞬間、
目の前にふっと小柄な少女が舞い降りた。
「ちょっと派手にやりすぎちゃったかな。仕方ない、君だけは助けてあげる!」
少女が差し出してきた手を、
俺は必死で掴み取る。
すると彼女は、
俺の軽い体をひょいとお姫様抱っこで抱え上げ、
そのまま燃え盛る船から大空へと飛び降りた。
眼下に広がる絶景と暴風。
炎に包まれていたはずなのに、
不思議と熱さは感じない。
風を切る感覚のあと、
トサッと足元に衝撃が走り、
無事に地面へと着地した。
「ふぅ、危機一髪だったね!」
少女は眩しい笑顔で胸を張る。
「あ、助けてくれてありがとう……! 君は一体……?」
「フィアマ!
炎を操る『空賊専門の退治屋』だよ」
「空賊専門の退治屋……?」
「知らないの? 空賊を討伐してギルドから賞金をもらう仕事さ」
「そんな職業があったなんて……」
「実は正式に依頼を受けて、
あの空賊船を討伐しに来たんだよね。
これで依頼達成だから、
早くギルドに報告しに行かなきゃ!」
そこで俺は、
ようやく自分が助けられた理由を悟った。
フィアマのターゲットはあくまで空賊。
巻き込まれただけの一般人だと判断されたからこそ、
こうして救出してもらえたのだ。
「さ、街へ行こう!」
元気に歩き出すフィアマの後ろを、
俺は慌てて追いかける。
ふと振り返ると、
遥か遠くの山肌に、
炎を上げた空賊船が激しく墜落していくのが見えた。
タンパニーたちは無事脱出できたのか、
それとも捕まってしまったのか――。
当時の俺には、
まだ知る由もなかった。
少しずつ慣れてきた。
それでも、
高い場所だけはどうしても克服できない。
船が少し揺れるだけで、
「このまま墜落するんじゃないか」
と生きた心地がしなくなるのだ。
――そんな俺をさらに惑わせる存在がいた。
この船の船長、
タンパニーだ。
最初はギクシャクしていた関係だったのだが、
最近の奴はどこかおかしい。
「手を繋いでくれるか……?」
「き、キス……してくれぬか?」
「今夜、一緒に寝てほしいのだが……」
「一緒にお風呂に入らないか?」
「お、お姫様抱っこをしてもいいか……!?」
真っ赤な顔をして、
矢継ぎ早に妙な要求を繰り出してくる。
もちろん俺は、そのたびに容赦なく突っぱねた。
「嫌です」
男同士でそんなことをする理由がどこにある。
するとタンパニーは、
今にも泣き出しそうな捨て犬のような顔で俺を見つめてくるのだ。
「……もしかして、我のことが嫌いなのか?」
「嫌いとかそういう問題じゃない」
知り合って間もない野郎と、
そんな関係になれるわけがないだろう。
タンパニーは何かを言いたげに口を開いた。
「我は、貴様が……」
「それ以上は言わなくていい」
なんだか嫌な予感がして、咄嗟に言葉を遮る。
タンパニーはどこか切なさの混じった、寂しげな笑みを浮かべた。
「貴様は……我との『絆』を忘れてしまったのだな」
「忘れるも何も、俺たちは初対面だろ」
「いいや。我らは前世で固い契りを交わした」
「前世!?」
ファンタジー世界とはいえ、
急にそんなオカルティックなことを言われて信じられるはずもない。
「そんな話、信じられるわけないだろ」
「……そうか。忘れているのなら、今はそれでいい」
タンパニーはそれ以上、
何も言わなかった。
その時だった。
『大変だーッ! 空賊専門の退治屋が来たぞ!!』
見張り役の怒号が響き渡ると同時に、
激しい衝撃が船を揺らした。
巨大な炎の渦が、
一瞬にして船体を包み込んでいく。
「――ファイアーロード!!」
何者かの凛とした叫び声が響き、
船は黒煙を上げながら猛スピードで傾き始めた。
「うわぁぁっ!?」
業火に巻かれ、
船が墜落へと向かって急降下していく。
ああっ、やっぱりこうなるんだ! もうダメだ――!
死を覚悟したその瞬間、
目の前にふっと小柄な少女が舞い降りた。
「ちょっと派手にやりすぎちゃったかな。仕方ない、君だけは助けてあげる!」
少女が差し出してきた手を、
俺は必死で掴み取る。
すると彼女は、
俺の軽い体をひょいとお姫様抱っこで抱え上げ、
そのまま燃え盛る船から大空へと飛び降りた。
眼下に広がる絶景と暴風。
炎に包まれていたはずなのに、
不思議と熱さは感じない。
風を切る感覚のあと、
トサッと足元に衝撃が走り、
無事に地面へと着地した。
「ふぅ、危機一髪だったね!」
少女は眩しい笑顔で胸を張る。
「あ、助けてくれてありがとう……! 君は一体……?」
「フィアマ!
炎を操る『空賊専門の退治屋』だよ」
「空賊専門の退治屋……?」
「知らないの? 空賊を討伐してギルドから賞金をもらう仕事さ」
「そんな職業があったなんて……」
「実は正式に依頼を受けて、
あの空賊船を討伐しに来たんだよね。
これで依頼達成だから、
早くギルドに報告しに行かなきゃ!」
そこで俺は、
ようやく自分が助けられた理由を悟った。
フィアマのターゲットはあくまで空賊。
巻き込まれただけの一般人だと判断されたからこそ、
こうして救出してもらえたのだ。
「さ、街へ行こう!」
元気に歩き出すフィアマの後ろを、
俺は慌てて追いかける。
ふと振り返ると、
遥か遠くの山肌に、
炎を上げた空賊船が激しく墜落していくのが見えた。
タンパニーたちは無事脱出できたのか、
それとも捕まってしまったのか――。
当時の俺には、
まだ知る由もなかった。



