溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

「はあ~」

 大きなため息がこぼれる。

 見上げた空はどこまでも青く、まるで俺をあざ笑っているみたいだ。
 目を逸らすように俯き、そっとポケットに手をやる。
 指先が小さな箱に触れ、自嘲気味に笑った。

「俺……何やってんだろう」

「どうしたの?」

 不意にかけられた声に顔を上げると、太陽が近づいてくる。
 庭でひとり佇む俺のすぐそばに立ち止まった。

「起きたのか?」

 さっき外へ出てきたときは、まだ寝ていたはずだ。

「うん。あきらさんと姉ちゃんも起きてる。小森さんはまだ寝てるよ」

「そうか」

 短く返すと、また沈黙が落ちた。
 すると太陽が、ぽつりと言った。

「……ていうか、姉ちゃんたちのラブラブぶり見てられなくて、出てきた」

 その言葉に、胸がズキンと痛む。

「ああ、そういうことか」

 苦笑いしながら目を伏せた。

 そうか、うまくいったんだな。
 本当に、もう終わったんだ。俺の恋は。

 感傷に浸る俺に、太陽がずけずけと問いかけてくる。

「守兄は、もういいの? 姉ちゃんのこと」

 ズバッと来るな、こいつは。
 じっと太陽を見つめると、彼は意味ありげに笑った。

 やっぱり、全部わかってるんだな。こいつ、年齢詐称してるだろ。

「しょうがないだろ。星の気持ちが俺にないんだから」

 口にして、さらに胸が締めつけられる。

 こんなにもまだ、彼女への想いが残っているなんて。
 でも、あきらめなきゃな。

 ポケットから小さな箱を取り出す。
 それをじっと見つめていると、太陽が目を丸くした。

「ま、守兄……それって」

 にやりと笑う。

「そうだ。おまえが思ってるものだよ」

 そう言って、掌の中の箱をぎゅっと握りしめる。
 そして、そっと心の奥にしまい込んだ。

 報われなかった想い。
 伝えられなかった言葉。
 渡せなかったもの。

 その全部を、深く、深く押しやる。

 すべては、彼女のために。
 俺の想いなんてどうでもいい。星が笑っていられるなら、それでいい。

 幸せになれ。……それだけを願ってる。

「守兄、かっこいい」

 太陽がぽつりとつぶやく。

「うるせぇよ、このませガキ」

 にやりと笑った。そのとき、あたたかな風がざあっと吹き抜けていった。