溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 そして、次の休日。

 なにやら物音がして、私は目を覚ました。
 眠い目をこすりながら、ふらふらと居間へ向かう。

 ――そこで、一気に目が覚めた。

「な、なに……これ?」

 目の前に広がっていたのは、見慣れた我が家とは別世界。
 まるでパーティー会場に迷い込んだみたい。

 壁にはカラフルなガーランドが揺れ、中央には「おめでとう!」の垂れ幕が掲げられている。

 そして、部屋の真ん中に置かれた小さなちゃぶ台の上には、
 ホールケーキがどんと鎮座していて、そのまわりには五つの皿とコップがきれいに並べられていた。

「い、いったい……」

 呆然と立ち尽くしていると、誰かが横切った。
 台所から姿を見せたのは、大きなジュースのボトルを抱えた小森さんだった。

 え、ええ!? なんで小森さんが、私の家に!

 ぽかんと口を開けたまま凝視してしまう。
 すると、彼女は振り返り、にっこりと笑った。

「あら、星ちゃん、おはよう。まだいいわよ、もうちょっとで準備終わるから」

 軽やかな声とともに、コップへとジュースを注いでいく。

「あ、あの……なんで?」

 戸惑いながらも、私はゆっくりと居間に足を踏み入れた。

 自分の家なのに、まるで別の場所みたい。

「あ、姉ちゃん、起きたんだ」

 背後から声がして、びくっと肩が震えた。
 振り返れば、太陽が満面の笑みを浮かべて立っていた。

「太陽、これはどういうことなの?」

 小さな声で問いかけると、弟はあっけらかんと答えた。

「ん? 姉ちゃんとあきらさんのお祝いだよ」

 ……は?
 理解できずに固まった。もう一度聞き返そうとした、そのとき。

 ピンポーン、とチャイムが鳴った。

「はーい!」

 太陽が玄関へ駆けていく。

「ちょ、ちょっと!」

 慌てて私もあとを追った。

 そして――玄関に立っていた人物を見た瞬間、足が止まる。

 あきら……と、守兄!?

 にこりと笑うあきらと、その隣で優しく微笑む守兄。
 目の前に並んで立つ二人の姿に、私は呆然と立ち尽くした。



 どうしてこうなったのか、さっぱりわからない。

 ちゃぶ台の前にちょこんと座り、そっと周りを見渡す。
 囲んでいるのは、私、太陽、小森さん、あきら、そして守兄。

 ……え、これなに?
 状況がつかめず、落ち着かない。
 いや、私だけじゃないはず。
 あきらだって、先ほどからどこか落ち着きないし。

 守兄はといえば、いつも通りの柔らかな笑みを浮かべていて。
 逆にわからない。

 なに考えてるの? と観察するようにじっと見つめていたら、ぱちりと目が合った。

 し、しまった。見すぎた。
 彼がふわりと笑ったものだから、ますます混乱する。
 どうしてそんなふうに笑えるの。

 そわそわと視線をさまよわせていると、小森さんがからかうように肩を小突いてきた。

「ダメでしょ、星ちゃん。そっちの彼と見つめ合ってちゃ。
 またあきらに誤解されちゃうよ?」

 にやっと笑う小森さん。

 あれ、この人、こんなに砕けた人だったっけ?
 なんだか妙にフレンドリーだ。

「そ、そんな見つめ合ってなんかないです!」

 とりあえず否定する。

 すると、守兄も落ち着いた声で続けた。

「そうですよ。俺と星は、もう終わったんです」

 そのきっぱりとした言い方に、場が一瞬静まり返る。

「ま、まあまあ、いいじゃん。さ、はじめよ!」

 空気を変えるように、太陽が元気よく声を張った。

 そのタイミングで、私はずっと気になっていたことを口にした。

「ねえ、まって。今日って……なに?」

 全員の視線が私に集まる。
 え、なに、なんか変なこと言った?

「なにって、お祝いだよ」

 太陽が当然みたいに笑う。

「姉ちゃんとあきらさん、仲直りしたろ? よかったね、元通りになって」

 ……え、そういうこと?
 知らなかった。誰も教えてくれなかったし。
 っていうか、それってお祝いすることなの?

 ……でも、そっか。
 みんな、それだけ私たちのこと心配してくれてたんだ。
 そう思えば、心がぽっとあたたまった。

 小森さんが勢いよくグラスを掲げる。

「ま、細かいことはいいじゃない!
 めでたいことはお祝いしなくちゃ。はい、乾杯!」

 勢いに押され、私も近くのグラスを手に取る。
 カチンッと小気味よい音と共に、みんなでグラスぶつけあう。

「星ちゃん、あきら、おめでとう。幸せになりなさいよ!」

 小森さんが涙ぐみながら盛大に叫ぶ。

 な、泣いてる?
 ていうか、これジュースだよね。酔ってないよね?

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 おそるおそる聞くと、彼女はにっこりと笑った。

「平気よ。さ、ケーキ切るわね!」

 妙に張り切った様子でケーキを取り分けていく。

「は、はあ……」

 あまりのテンションの高さに、私はただ見ていることしかできない。

 すると太陽がこっそり近づいてきて耳打ちした。

「これ、企画したの小森さんなんだよ」

「え! そうなの?」

 驚くと、太陽が小さく笑った。

「僕に相談してきてさ。パーティーしようって。
 なんか、小森さんもいろいろ吹っ切りたいみたいだったし、協力したんだ」

 私はそっと小森さんを見つめた。

 ……そっか。あきらのこと、彼女なりにいろいろ考えてたんだ。
 気持ちを整理するために、あえてこんな大げさに祝ってくれたのかもしれない。

 それにしても、太陽ってほんと大人だな。
 私のことも、ちゃんと見てるし。他人のことまで。

 小森さんとも、いつの間に仲良くなったんだか……。

 視線の先では、太陽と小森さんが顔を見合わせて、楽しそうに笑い合っている。
 その様子を見ているうちに、私の口元にも自然と笑みがこぼれていた。