溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

「わ、わかった。信じるから」

 私は少し迷いながらも、そっと腰を下ろした。

 男性はほっとしたように微笑む。
 その笑顔が、また可愛いんだ。いっきに顔が熱くなる。

 動揺を隠すみたいに、視線をさまよわせながら言った。

「で、でも、まだ完全に信じたわけじゃないからね。
 だって、あなたみたいな、その、格好いい人が……おかしいでしょ?
 私はどこにでもいる平凡な子なのに」

 そう、特別美人でも可愛いわけでもない。それは自分が一番わかってる。
 こんなイケメンから告白される要素、ひとつもない。

 簡単に「はいそうですか」なんて、信じられるわけがない。

 普通、裏があるって思う。

 けれど、彼の視線はずっと私を捉えたまま。
 そこには、あきれるほどの愛おしさが滲んでいた。

 ドキドキ……心臓が早鐘を打つ。

 やだ、慣れてないから。
 こんなの、騙されちゃいそうじゃん。私、単純?

「君は綺麗だよ。とても。可愛いし、誰よりも」

 ――ズキュン!
 心臓を撃ち抜かれたみたい。

 な、なんてこと言うの!?

 口をあんぐり開けたまま、まん丸の目で彼を見た。

 だって、信じられる?
 こんなイケメンが、そんな夢みたいな言葉を言うなんて。

 彼はくすっと笑った。その笑い方すら可愛い。

「そうやって表情がコロコロ変わるとこも、素直で可愛いって思う。
 きっと、君の性分なんだろうね」

 イケてる男子が、きらきらスマイルを炸裂させる。

 ひ、ひぇー。可愛いし、カッコいいし。
 全身がじわりと熱を帯びていく。

 きっと、いま真っ赤。

 やっぱり、からかわれてる?
 力が抜けて、足腰はへなへな。夢を見てるみたいだ。

 そんな自分を必死で保ちながら、彼を見据えた。

「あの、私のこと、何度も見たって言いましたよね?
 いったい――」

 どんな私を見ていたというのだろう。

 彼はにこりと笑った。
 思いを馳せるように、ふっと斜め上を見上げ、ゆっくり語り出す。

「街で、君を見かけたんです。
 困っている人を見ると、放っておけないんですよね?
 最初は、迷子の子どもを案内している姿。
 次は、雨の日に傘を持たない人に傘を差し出していた君。
 そのあとも、苦しそうにうずくまる女性に声をかけて介助していたり……
 ほかにも、たくさんあります」

 彼の瞳がきらきらと輝き、まっすぐ私を見つめる。
 時おり何かを思い出したように、ふわっと嬉しそうに笑うのだ。

 その笑顔が可愛くて、つい見惚れてしまう。

「みんな忙しくて、人のことなんて見ていないのに。
 君は、困っている人や悲しんでいる人をすくいあげていく。
 誰もが気づかず通り過ぎるものを、ちゃんと拾って、大切にするんだ」

 彼は目を細めて、幸せそうに微笑む。
 そして、少し息をついてから、そっと言葉を継いだ。

「そんな君を見ていると、僕まで心が洗われていく気がしたんです。
 ああ、こんな人間もいるんだって」

 今まで笑顔だった彼の表情が、すっと沈む。

「……僕の周りは、計算高い人ばかりでした。
 すぐに掌を返す人、妬みや嫉みで足を引っ張る人。
 汚い大人たちばかりで、うんざりしてた。
 だから、君がすごく眩しくて。
 ずっと見ていたい、傍にいたいって思ったんです」

 彼は、またまっすぐに私を見た。

「だから会いたくて。暇さえあれば、あの場所に通ってました」

 本当なんだ、と直感する。
 彼の澄んだ瞳が、そう語っていた。

 心が揺れる。

「どうにか君との接点を作りたくて、落とし物で気を引こうって思ったんです。
 心優しい君なら、絶対に拾ってくれるって。
 ……卑怯ですよね、親切心を利用するなんて」

 眉を寄せて、自嘲気味に笑う。

 悪い人には、とても思えない。

「君と初めて話したとき、舞い上がるほど嬉しかったんです。
 だからあんな、急に誘うようなことをしてしまって。
 怖がらせて、ごめんなさい」

 彼が深々と頭を下げる。

「や、やめてください。もうわかりましたから……あなたの想いは」

 思わず口からこぼれた。
 だって、あまりにも誠実で、まっすぐで。
 とても綺麗で澄んだ心を見せつけられているよう。

「ほんとうですか!?」

 彼の瞳がぱっと輝き、ぐいっと近づいてくる。
 至近距離から見つめられて、心臓が跳ねた。

 こんなの、平気でいられる女子なんているの?

 私は彼をそっと見つめ返した。
 子犬みたいに潤んだ瞳。

 憎めないんだよなあ。

 「純粋」って言葉が、こんなに似合う人も珍しい。


 このとき、私はもう彼の虜だったのかもしれない。