溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 もやもやした気持ちを抱えたまま、私はもう一度スタジオへ戻った。

 残りの時間はただ黙って、あきらの仕事ぶりを見つめる。

 ステージ上の彼は、本当にキラキラしていた。
 歌って、踊って、笑って、その姿はまるで光そのもの。

 見ている人みんなを惹きつける。息をのむほど眩しい存在。

 アイドルって、やっぱりすごい。

 中でも一番心に残ったのは、あきらの表情だった。

 すっごく楽しそう。
 いつも仕事の話をするときに「好きなんだな」って感じてたけど、生で見るともっと……。

 心からこの仕事を愛しているんだって、ひしひしと伝わってきた。

 でも、その輝きに触れた瞬間、胸によみがえる声。
 小森さんの言葉。

 迷惑、マイナス。

 思い出した途端、気持ちがまた重く沈んでいった。


 撮影を終えたあきらが駆け寄ってきて、私の顔をのぞき込む。

「どうした? 何かあった?」

 心配そうな声。
 その優しさに胸がじんと熱を帯びる。

 私はどうすればいいんだろう。答えはまだ見つからない。

 メンバーやスタッフさんに挨拶を終え、私たちはスタジオを後にした。

 楽屋で私服に着替えたあきらが、にこっと笑って手を差し出す。

「ちょっと寄りたいところがあるんだ。一緒に行こう」



 テレビ局を出ると、すっかり日は暮れていて、町のネオンがきらきらと光を放っていた。
 人通りもまだ多く、気は抜けない。

「ね、大丈夫なの? 二人で歩いて」

 思わず不安を口にする。
 もし誰かに見られたら……。

「大丈夫。暗いし、ちゃんと変装してるから」

 あきらはウインクして、自分を指さした。
 帽子にマスク、パーカーにジーンズ。仕事中の彼とはまるで別人のようで、確かに目立たない。

 それでも気づく人は気づくかもしれない。どうしても心配は拭えなかった。

 そんな気持ちを払うように、あきらが明るく笑う。

 やっぱり、この笑顔に私は弱い。

「星、行こう」

 手をぎゅっと握り直されると、自然と不安がほどけていく。
 彼の笑顔につられるように、私も笑みがこぼれた。

 そのまま彼に導かれるように、近くの公園へ足を運んだ。



 そこは海に面した公園で、防波堤の先には波打ち際が広がっている。
 周りには緑も多く、空気もおいしい。どことなくゆったりとした空気も流れていた。

 ここは、恋人たちのデートスポットだという噂だ。

 防波堤の手前でふと足を止め、ふたり並んで腰を下ろす。
 寄せては返す波の音が心地よく響き、海風がひんやりと頬をなでていった。

 隣では、あきらが足をぶらぶら揺らしている。

 なんだか子どもみたい。そんなところも可愛いな。
 無意識に笑みがこぼれる。

 見つめていたら、ふいに彼と目が合った。

 トクン、と胸が高鳴る。

 澄んだ瞳はビー玉みたいに透きとおって、星を閉じ込めた宝石のよう。
 吸い込まれてしまいそうなこの瞳が、たまらなく好きだった。

「今日は、どうだった?」

 期待を込めたような眼差しで、あきらが問いかける。

「うん……すごく格好よかったよ。
 キラキラしてて、さすがアイドルだなって思った」

「それだけ?」

 不満そうに見つめてきたかと思うと、彼はすぐににこっと笑った。

「星に見てほしかったんだよ。俺が仕事してる姿」

 胸を張り、空を仰ぐ横顔はどこか誇らしげだ。

「どんなに大変な仕事も、いやだなって思うことも、好きなことだから頑張れる。
 ……でも、たまに負けそうになるときもあるんだ」

 そっと俯きながらつぶやくその声に、私は黙って耳を傾けた。

「でもそんなとき、星のことを思うと頑張れるんだ」

 顔を上げたあきらの瞳から、熱い想いが流れ込む。

「俺のパワーの源は、星なんだ。
 どんなときでも心の片隅に君がいて……冷え切った心も、あたためてくれる。
 だからまた元気になれるし、頑張れるんだ」

 そう言って、あきらは自分の手を私の手に重ねる。
 指先まで温かくて、彼の心を現しているようだった。

 ゆらゆら揺れる瞳が、真っすぐに私を射抜く。

「俺は、星じゃないとダメなんだ。君がいないと頑張れない」

 その言葉や気持ちがゆっくり染み込んでいく。
 嬉しくて、涙がこぼれそうになる。

「私も、あきらじゃなきゃダメ。
 一緒にいると心があったかくなって、元気をもらえるの。
 ずっとそばにいたいって、愛しいなって……」

 口に出した瞬間、顔が熱くなる。
 恥ずかしくて、俯いた。

 すると、あきらが私の頬を両手で包み、そっと顔を上げさせる。
 視界いっぱいに、大好きなあきらの顔が近づいてきて、鼓動が一気に速まった。

「この前は、ごめん。
 俺、嫉妬ばっかりで、ほんと情けないよね」

 悔しそうに眉を寄せ、あきらは視線をそらす。

 今度は私が、彼の顔に手を添えて、ゆっくりとこちらへ向けた。
 驚いたように、あきらの目が大きく見開かれる。

「ひ……星」

 かすかに揺らめく瞳。

「私も、ごめん。あんなところを見たら怒るのも当然だよね。
 油断してた。気を許しすぎてた。
 私には、あきらっていう大切な彼氏がいるのに。
 反省してる」

 見つめ合ったまま、時間が止まったように動けなくなる。
 その間も、心臓は鳴りやまない。

 息を整えてから、ゆっくりと言葉を絞り出す。

「――あきらが好き。大好き。それだけは信じて」

 そう告げると、あきらの瞳にうっすら涙が滲んだ。
 そして、ふっと柔らかな笑みを浮かべる。

「うん、信じるよ。俺も、星が大好き」

 微笑み合う私たち。
 夜の静かな海辺で、そっと唇を重ねた。