溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 あきらに連れられやってきたのは、テレビ局のスタジオだった。

 天井からいくつもの照明が吊るされ、まぶしい光が一面を照らしている。
 広い空間にはスターライトの音楽が響き、スタッフが慌ただしく行き交っていた。

 ステージの前には、大型のテレビカメラが何台も並んでいる。

「わあ……」

 思わず声がもれ、その迫力に呆然と立ち尽くす。

 そのとき、誰かが近づいてきた。

「よお、アキラ。今日は彼女連れか?」

 声をかけてきたのは、スターライトのメンバー・リョウ。

 生で見るのは初めてだけど、やっぱりイケメン。
 長身にクールな雰囲気、爽やかな笑顔まで完璧で、つい見惚れてしまう。

「可愛いね。でも気をつけなよ。彼女のこと……」

 心配そうに眉を寄せるリョウに、あきらは頷いた。

「ああ、わかってる。彼女は友達だ。今日は見学」

 言い切ると、リョウは肩を竦める。

「はいはい、そういうことね」

 呆れ顔で笑うその様子は、全部お見通しとでも言いたげだった。

 すると、その後ろからひょこんと誰かが顔を出した。

「あー! アキラ、その子だれ?」

 屈託のない笑顔で飛び出してきたのは、同じメンバーのハル。

 満面の笑み。愛らしい顔立ち。
 なるほど、可愛い担当ってこういうことか。
 弟キャラとして女性人気が高いって聞いていたけど、納得。

 か、かわいいなあ。
 またしても見惚れてしまった。
 もちろん、あきらだって十分かわいいし、かっこいいよ。

 芸能人ってほんとに美形ばかりなんだ。
 テレビ越しで見るのと、生の迫力はやっぱり違う。

 まとわりついてくるハルを軽く手で払うようにして、あきらがつぶやいた。

「うるさいな。いいだろ、俺の友達。今日は見学だから」

 さっきと同じ説明を繰り返す。

「へえー」

 納得してないのか、ハルは訝しげにあきらを見上げた。
 けれど私と目が合うと、にっこり可愛い笑顔を向けてくる。

「ま、いいや。よろしくね、アキラのお友達」

 わざとらしく甘い声を残し、ステージへ駆けていった。
 その背中を見送りながら、リョウもため息をついて後に続く。

 ……き、緊張した。
 小さく息を吐いたとき、あきらがこちらを振り返った。

「じゃあ、俺も行く。星はここで俺のこと見てて」

 まっすぐ見つめてくるその瞳に、戸惑いながら頷く。

「え、ええ」

 あきらは嬉しそうに笑い、ステージへと歩いていった。

 その背中を目で追いながら考える。
 どうして急に連れてきたんだろう。今まで現場に呼ばれたことなんて一度もなかったのに。

 でも。彼の仕事している姿を見られるのは、嬉しい。

 いつも楽しそうに語っていた舞台。その姿を近くで見られる日がくるなんて。

 胸が弾んで、ひとりでこっそり微笑む。
 私は視線を前に戻し、少し先にいる彼の姿に集中した。



 ステージの上で、スポットライトを浴びながら歌い踊るあきら。

 眩しい笑顔を振りまくその姿から、目を離せなかった。
 胸が熱くなり、ただ夢心地で見つめてしまう。

 やっぱり、格好いい。

 そのとき、ふわりと香水の匂いが鼻をつく。
 この香り……。

「ちょっと、いいかしら?」

 横に立ったのは、あきらのマネージャー・小森さん。
 腕を組み、鋭い視線で私を射抜いてくる。

 やっぱり苦手だ、この人。
 敵意を向けられている気がしてならない。

 でも、その理由はわかっていた。

「は、はい」

 逆らう勇気もなく、小さく頷く。

 小森さんはくるりと背を向け、すたすた歩き出した。
 私は慌ててそのあとを追う。


 スタジオを出て廊下を進み、人影のない通路で彼女は立ち止まった。

 しんと静まり返り、空気まで冷たくなったように感じた。
 嫌な予感しかしない。

 振り返った小森さんの表情には、怒りがにじんでいた。

「今回は特別なのよ。もう二度と、こんなことはないと思って」

 低い声で言い放ち、ため息をつく。

「あきらがどうしてもって言うから仕方なくよ。
 いい? ここで見たこと、聞いたことは絶対に口外しないで。必ず守って」

 びしっと言い切られ、私は慌ててうなずいた。

「は、はい!」

 ぶんぶんと首を上下に振る。

 それでも、小森さんの視線はさらに鋭さを増す。
 蛇ににらまれた蛙って、きっとこんな気分だ。

「あなた、本当にわかってるの?」

「へ?」

 強い口調に、変な声が漏れてしまう。

「こんな場所にのこのこついてきて……もし彼女だってバレたらどうするつもり?
 あきらにどれだけ迷惑がかかるか、考えたことある?」

 胸に突き刺さる言葉。うぅ痛い。ズキズキする。
 そんなこと、私だってわかってる。いつも不安でいっぱいだよ。

 今日だって心配だった。
 でも、ここに来るなんて知らなかったし。

 なんて、とても言い訳できる雰囲気じゃない。

 さらに彼女は口の端をつり上げ、冷たく微笑んだ。

「本当にあきらを思うなら、別れる道も考えた方がいいんじゃない?
 あなたと一緒にいたって、あの子のプラスにはならない。
 支えるだけなら、私で十分なんだから」

 勝ち誇ったような笑み。
 言い返したかったけど、言葉が喉に詰まった。

 だって、その通りだから。

 私はあきらの足かせでしかない。
 アイドルの彼に、私がしてあげられることなんて、ない。

 沈黙すると、小森さんが近づいてきた。
 そして横に並ぶと、前を見据えたまま低くつぶやく。

「よく、考えてみて」

 視線を合わせようともしない。
 そのまま彼女は、冷たい足音を響かせて去っていった。