溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 そして、次の日曜日。
 よく晴れた空は雲ひとつなく、春の陽気でぽかぽかとあたたかい。

 今日はどう過ごそうか。そんなことをぼんやり考えていたとき、突然、玄関のチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、そこに立っていたのはあきら。
 私は息を呑み、その場に固まった。驚きすぎて身体が動かない。

 守兄とのキスを目撃されて以来、一度も連絡を取っていなかった。
 会うのも、これが初めて。

 胸がきゅっと痛む。
 久しぶりの再会だった。

「あきら……」

 名前を呼ぶと、あきらは気まずそうに視線をそらし、小さくつぶやいた。

「ちょっと、ついてきてほしい。見せたいものがある」

 見せたいもの?
 思考が追いつかず、私はただ彼を見つめるしかない。

「いいから、来て」

 そう言って、あきらは私の手を強引に取った。

 温かさと力強さに、心臓が大きく跳ねる。
 そのまま引っ張られるように外へ。慌てて近くのサンダルをつっかけ、あきらの背を追った。

 外には、いつものワゴン車が停まっている。あきらが仕事で使う車。
 ということは、彼女も一緒なのだろうか。

 乗り込むと、運転席にはマネージャーの小森さんが座っていた。
 ちらりとこちらを一瞥すると、すぐに前を向いた。

 その横顔はどこか険しく、まるで怒っているように見えた。

「出して」

 私の隣に腰を下ろしたあきらがそう告げると、車は静かに走り出した。



 車の中、あきらはずっと窓の外を見つめたまま、一言もしゃべらなかった。
 運転席の小森さんも同じように黙り込んでいて、不機嫌オーラが滲み出ている。

 重たい空気を抱えたまま、車は都内の道を進んでいった。

 やがて着いた先は、テレビ局。
 駐車場に車が止まると、あきらは無言のまま私の手を取って歩き出した。

「ちょ、ちょっと……どうしたの? これ、どういうこと?」

 戸惑いながらも、引かれるままについていくしかない。

 でも、驚いた。
 あきらと付き合って一年以上になるけど、こうして仕事の現場に連れてこられたのは初めてだった。

「いいから」

 短く言うと、彼は一切歩みを緩めず、まっすぐ前を見据え進んでいく。

 局の裏口を通るとき、警備員さんがこちらを一瞥したけれど、あきらが軽く会釈すると何も言わず通してくれた。
 そのまま長い廊下を歩き続ける。

 途中、テレビでよく見る俳優さんとすれ違った。
 思わず振り返って目を奪われる私をよそに、あきらは気にも留めず先を急ぐ。

 ほどなくして、彼の楽屋にたどり着いた。
 ドアには『スターライト アキラ』と書かれている。

 中へ入ると、あきらは私を振り返った。

「ちょっと待ってて」

 それだけ言い残し、すぐに部屋を出ていってしまう。

 突然ひとり取り残され、そわそわと楽屋を見回す。
 テレビでしか見たことのない光景に、ただ見入ってしまう。

 でもそれより。どうして私をここに?
 まだ怒ってるのかな、あのときのこと。
 彼の意図が読めなくて、不安ばかりが募る。

 勝手に動くのもためらわれ、とりあえず椅子に腰を下ろす。
 小さく息を吐き、あきらを待った。


 しばらくするとドアが開く。
 戻ってきたあきらは無言のまま衣装に着替え始めた。

 壁に掛けられた豪華なステージ衣装を手に取り、迷いのない仕草で身にまとっていく。

 キラキラとした装飾に包まれた姿は、もう「アイドル・アキラ」そのものだった。
 そして、ようやく私の方へ振り返る。

 その口元に浮かぶのは、穏やかな笑み。

「さ、行こうか」

 差し出された手。

「え……行くって、どこに?」

 返事の代わりに、あきらはためらいなく私の手を握る。
 そして、再び楽屋を後にした。