溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

「はあ、おいしかった。ごちそうさま」

 満足げに笑う守兄を見て、私は苦笑いを返した。

「お粗末さまでした……」

 いやいや、なんでまた守兄が私の家で夕飯食べてるの?

 ついさっき「仕事があるから」って別れたばかりなのに、もう戻ってきてるし。
 しかも理由は「夕食を食べたいから」って。

 忙しいだろうに、わざわざこんな質素なご飯を食べに来なくてもいいのに。

 でも、嬉しいけどね。

 今は彼女いないんだよね? あのとき、私のこと好きって言ってたし。
 いや、でも守兄なら放っておいてもいい人が寄ってきそう。
 そういう人にご飯つくってもらわないのかな。

 お茶を口に運ぶ彼を、じっと見つめてしまう。

 もしかして、いや、かなり。
 アメリカから帰ってきてから、ずっと私のところに入り浸ってない?
 仕事、大丈夫なのかな。
 そういえば、今は何してるんだろう。ちゃんと聞いたことなかった。

「ね、守兄。仕事って、今なにしてるの?」

 問いかけると、守兄はふっと息を吐き、真剣な眼差しを向けてきた。
 その視線に、胸がドキッと跳ねる。

「な、なに?」

 問い返すと、彼は小さく頷いた。

「いや、そうだな。話しておくか」

 そう言って背筋を伸ばし、まっすぐこちらに向き直る。
 その真剣さに、私も同じように背筋を伸ばしてしまう。

 しばし考えたあと、守兄がゆっくりと口を開いた。

「俺は今、アメリカの本社の仕事と、日本事業の立ち上げを任されてる。
 その会社は……父の会社なんだ」

「え?」

 思わず声が漏れた。
 父の会社? 目が点になる。

「アメリカではいろんな事業を展開してるんだけど、日本でも本格的に動き出すことになってさ。
 それで、俺が立ち上げのリーダーになった」

 少し肩を竦める彼を、私は呆然と見つめる。

 守兄って、そんなにすごい家の人だったの。
 御曹司? いや、まるで別世界の住人じゃん。

 私とは正反対の世界で生きてたんだ。
 そういえば、守兄の家のこと、ちゃんと聞いたことなかったかも。

「す、すごいね。どんな会社なの? どんな仕事?」

 興味が一気に膨らむ。
 守兄って、いったい何者なの?

 身を乗り出すと、彼は少し困ったような笑みを浮かべた。

「うーん、AI事業を中心に手広くやってるかな。
 でも説明はちょっと難しいし……ま、星は知らなくていいよ」

 爽やかに言われ、むむっと眉を寄せる。

 なんか、馬鹿にされた気がする。
 「説明してもわからないだろ」って思ってるでしょ。

 私が頬をふくらませると、守兄がくすっと笑った。

「星のふくれ顔、ひさしぶりだな。やっぱり可愛い」

 そんなこと言われたら、頬が熱くなる。
 でも、本当に幸せそうに笑うから、目を逸らせなかった。

「な、からかわないでよ! で、続きは?」

 照れ隠しのように促すと、守兄は軽く咳払いして真面目な顔になった。

「アメリカへ行ってた四年間、俺は父の会社で勉強してたんだ。
 跡取りとして必要なこと、片っ端から叩き込まれてさ。
 最初から四年間って約束だった」

 そこで一度視線が落ち、少し苦笑する。

「正直、行きたくなかったよ。会社にも興味なかったし……何より星と別れたくなかった」

 まっすぐに見つめられ、大きく鼓動が鳴る。
 あの頃の痛みや想いが、じわりと呼び起こされる。

「でも父もなかなか折れなくてさ。
 俺も必死で抵抗したんだけど――結局、父が条件を出してきた」

 守兄は少し間を置いて、落ち着いた声で続けた。

「四年間しっかり勉強する。それが終わったら自由にしてやるって。
 会社のことをしっかり学んだ上で、継ぐかどうか決めればいい。そう言われた」

 遠くを見るような目で、ぽつりと笑う。

「逆らっても自由になれるわけじゃない。だったら四年我慢して、そのあと自由を掴めばいい。
 そう思ってアメリカへ行ったんだ」

 彼の瞳がまた私へ向いた。
 そこには、熱い決意が滲んでいる。

 やっとわかった。守兄が突然いなくなった本当の理由。

 あのときは詳しく話してくれなかったから、永遠のお別れだとばかり思ってた。
 でも本当は、戻ってくるために行ったんだ。

「星と別れるのは、すごく辛かった。
 身を引き裂かれるみたいで……最後まで悩んだよ」

 守兄が深く息を吐く。その瞳はまっすぐ私に向けられている。

「でも、四年間頑張ればまた会える。そう信じて、父の言葉を受け入れた。
 あれは俺にとってチャンスだった」

 一瞬の沈黙。
 やがて、守兄はゆっくりと微笑んだ。

「必死に頑張ったよ。この四年間、星を迎えに行くために」

 心臓がどくん、と大きく鳴った。

 ……なに、この展開。

 これって……愛の告白? いや、前に言われたときよりも、もっと重みがあるような。
 嬉しいんだけど。

 衝撃すぎて、どう答えていいかわからないよぉ。