溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 都内某所の撮影スタジオ。
 カメラや照明がずらりと並び、スタッフたちが慌ただしく動き回っている。

 今日は次に発売する新曲のプロモーションビデオの撮影。
 本来なら気持ちを切り替えて臨まなきゃいけないのに、どうしても気分が晴れなかった。
 さっきの出来事が、まだ胸の奥に引っかかっている。

 思わず大きなため息がこぼれる。

「どうした? 元気ないな」

 隣から声をかけてきたのは、スターライトのリーダー・リョウ。
 冷静で頭も切れる、頼れる存在。
 大人びた顔立ちに背丈も高く、しっかり者で機転も利く――まさに兄貴って感じの人だ。

「ああ……悪い。ちょっと、いろいろあってさ」

 笑ったつもりが、どうしてもぎこちない。
 リョウは優しく目を細め、ぽんと俺の頭に手を置いた。

「そうか。まあ、あんまり溜め込むなよ?」

 まったく、いつもこれだ。年もそう変わらないのに、ガキ扱いしてくる。

 でも、優しい。カッコいい。
 男の俺からしても、リョウは憧れの存在だった。

 そんな彼を見つめていると――

「どーん!」

 突然、背後からアタックされた。

「なにすんだよ!」

 振り向きざまに睨むと、そこにはハル。

「へへっ、ごめん。なんだかアキラが元気なさげだったから、励まそうと思って」

 屈託のない笑顔に、肩の力が抜ける。

「あーはいはい。……ありがとう」

 苦笑いすると、ハルはぱっと花が咲くように笑って俺の隣に並んだ。

 小柄で可愛らしい顔立ち。
 人懐っこい性格で、現場のムードメーカー。

 彼がいるだけで空気が明るくなる。そういうところに、何度も救われてきた。

 じっと見つめると、ハルが首をかしげ、にこっと笑った。

 ほんと、可愛い奴だな。
 俺もつられて笑顔を返していた。



 撮影は進む。
 けれど、調子はまるで出ない。

「ちょっと! アキラくん、どうした? もっと自然に、笑顔!」

 また叱られた。何度目だろう。
 カメラマンが不機嫌そうに眉をひそめ、スタッフたちの視線も痛い。

 まるで針のむしろだ。

「す、すみません」

 肩を落とす俺の横で、リョウが軽く肩を叩いてくれる。
 その優しさが胸にしみた。

 でも、ダメだ。どうしても集中できない。

 頭を離れないのは、星のこと。
 そして、本条守。

 なんで星は、あいつなんかと遊園地に行ってるんだよ。
 俺とだって行ったことなかったのに。

 本当はずっと、星と行きたかった。
 観覧車に乗って、笑い合って……彼女の嬉しそうな顔を隣で見たかった。

 でも、俺はアイドルだ。
 もし正体がバレて、大騒ぎになったら。
 仕事仲間にも、メンバーにも、星にも迷惑をかける。

 だから我慢してきたのに。
 初めての遊園地で、隣にいたのは――俺じゃなくて、あいつ。

 ったく。あいつはいったい、星の何なんだ。
 ただの幼馴染、なんだろ?

「アキラ、アキラ!」

 呼ぶ声にハッとして、現実に引き戻される。
 ぼんやりしていたらしい。

「は、はい……すみません」

 顔を上げると、プロデューサーが渋い顔でこちらを見下ろしていた。

「売れっ子だからって、舐めてもらっちゃ困るんだよね。……おい、マネージャー!」

 その声に、小森さんが慌てて駆け寄ってくる。

「しっかり指導してよね。これじゃ仕事にならないじゃないか」

「も、申し訳ありません!」

 小森さんが何度も頭を下げる。
 その姿に、胸が締めつけられた。

 全部、俺のせいだ。

 顔を上げることもできず、俺はただ下を向いて黙り込んだ。