溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

「小森さん?」

 あきらの目が見開かれる。

 すぐに車のドアが開き、中から小森さんが姿を現した。

「あきら……探したわよ」

 少し不機嫌そうに眉を寄せ、颯爽と歩み寄ってくる。
 その美貌と色気、そして大人の余裕。いつ見ても圧倒される。
 美人で、仕事もできて、しかも色っぽい。

 私にないものばかり持っている彼女が、正直うらやましい。

 目の前に立つと、ふわっといい香りが鼻をかすめる。
 大人の女って感じ。

「はぁー、困るのよね。いつもいつも勝手な行動ばかりされちゃ。
 今日は午後三時までって約束だったわよね?」

 ため息まじりの声。美人って睨むと迫力あるよね。
 あきらも、うっと言葉に詰まった。

「ご、ごめん。わかってたんだけど」

「――だけど?」

 ぐいっとあきらに詰め寄る小森さん。
 二人の距離が近すぎて、焦る。

 そ、そんなに近づかないで!

「どうせ、この子のことでしょ?」

 冷たい視線が、ちらりと私を射抜く。
 その瞳の奥に、はっきりと敵意を感じる。

 やっぱり小森さん、私のこと……。

 あきらが一歩前に出て、私と小森さんのあいだに立つ。

「星に責任はない。俺が勝手にしたことだ。俺が一緒にいたかったから」

 ばつの悪そうな顔で、ちらっと私を見るあきら。

「あきら。もしかして、仕事が入ってたの?」

 問いかけると、彼は気まずそうに目を逸らした。
 答えを聞かなくてもわかる。

 あきらは仕事を後回しにして、私のそばにいることを選んだんだ。
 前にも、そういうこと何度かあったよね。
 そのたびに小森さんに叱られて。

「なんで? そんなことしないでって言ったのに」

 胸が苦しくなる。
 あきらの邪魔になりたくない、そう思ってるのに。

 だから、ついきつい言い方になってしまった。

「だって、あんな状態で帰れるわけないだろ?」

 頬を膨らませ、そっぽを向くあきら。

 あんな状態って、守兄のこと?

「それでも! 仕事をすっぽかす理由にはならないよ。
 たくさんの人があきらを待ってるんだから……必要としてるんだから」

 そう。あきらは、私だけのものじゃない。
 わかってる、ずっと前から。

 私の剣幕に、あきらが悲しそうに顔を歪めた。

「な、なんだよ。俺は――」

「はい、はい。痴話げんかはそこまで。
 ここじゃ目立つし。とにかく、あきら急いで」

 小森さんがすっとあいだに割り込み、あきらの背をぐいっと押す。

「わ、わかったよ……」

 押された勢いか、それとも落ち込んだからか。
 あきらはしおらしくなり、とぼとぼと歩き出した。

 彼の背を押しながら、小森さんがこちらを振り返る。

「じゃあ、あきらは連れていくわ。またね」

 どこか勝ち誇ったような笑み。
 そのまま彼女は運転席へ。

 後部座席に乗り込もうとしたあきらが、ふいに振り返った。

 目が合う。悲しそうな瞳。

「……またな」

 それだけ言い残して、あきらも車に乗り込んだ。

 エンジンの音がさよならを告げているように感じる。
 車が発進すると、私はその場に立ち尽くし、静かに見送った。