溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 よかった、なんとか誤解が解けそう。
 そう思ったのも束の間。

「でも、それなら俺に言えばいいだろ?
 なんで、こいつなんかに連れてきてもらうんだよ」

 ……まだ不機嫌。がっくり肩が落ちる。

「ほ、ほら。だってあきら、仕事忙しいし。迷惑かけられないよ。ね、太陽?」

 再び弟に助けを求めるように視線を向けたが、太陽はさすがに面倒くさそうな顔をした。

「うん……どうでもいいけど、早く行こうよ。僕、ジェットコースターに乗りたい!」

 ノリノリの太陽に、すかさず守兄が反応する。

「そうだよな、太陽。せっかく来たんだ、楽しまないと。
 このお兄ちゃんは煩いねえ」

 そう言いながら太陽の頭をくしゃりと撫で、あきらを鋭く睨みつけた。

「なんだと?」

 二人の間に、再び火花が散る。

「ちょ、ちょっと、もういいでしょ!? こんなところで喧嘩しないで!」

 慌てて二人の間に割って入る。
 けれど、あきらがにやりと笑った。

「ふん、俺だってこんな奴といつまでも話していたくない。
 せっかく遊園地に来たんだから、星、俺とデートしよう。
 太陽は、この人に任せてさ」

 そう言って、私の肩をぐっと引き寄せる。

 それを見た守兄の表情が険しくなり、一歩詰め寄った。

「ちょっと、それは聞き捨てならないな」

「あ?」

 視線がぶつかり合い、空気がぴりぴりと張りつめる。

「俺が先約なんだ。あとからやって来て星を奪うなんて、男のすることか?
 ね、星。俺と約束してたんだから、今日は俺とデートだよな」

 にこやかに微笑みながら、守兄が私にすり寄ってくる。

「はあ? デートだあ? 星は俺の彼女なんだぞ」

 あきらの声は低く、肩を抱く手に力がこもった。

 守兄はあきれたように腕を組み、冷ややかに言い返す。

「ふん、偉そうに。いつも星のこと放っておいて、都合のいいときだけ側にいる。
 そんなわがまま、星が可哀そうだ。俺なら絶対にそんなことはしない」

「う……っ」

 あきらが唇を噛み、悔しそうに黙り込む。

 そんなに気にしてたんだ。私は仕方ないって思ってたのに。

 気まずい空気が流れ、息が詰まりそうになったそのとき――

「まあまあ、いいじゃん!」

 太陽が勢いよく声をあげた。

「せっかくあきらさんも揃ったんだし、ここは四人で一緒に遊ぼうよ」

 無邪気な笑顔で場を仕切る太陽。
 この空気が読めてないのか、それとも心臓に毛が生えてるのか。

「さ、姉ちゃん、行こう」

 太陽に手を引かれる。

「え? あ、ちょ、太陽!」

 そのまま私は弟の勢いに押され、ずるずると引きずられていった。



 太陽に引かれるまま、私はジェットコースターの列へとやってきた。
 見渡すかぎりの人の波に圧倒されながら、最後尾に並ぶ。

 さすが人気アトラクション。やっぱりすごいなあ。

 隣では、にこにこ顔の太陽。
 そして、すぐ後ろには、不機嫌そうに顔を背け合うあきらと守兄。

 相変わらず二人の間には、ピリピリとした空気が漂っていた。

「姉ちゃん、楽しみだね。一緒に乗ろう!」

 太陽の一言に、背後の二人が同時に反応した。

「なに?」
「なんだって?」

 ぴたりと声が重なり、二人の視線が交差する。

「星と太陽が一緒に乗るってことは……」

 ゆっくりと互いを睨み合い、

「冗談じゃない! こいつと乗るくらいなら死んだ方がマシだ!」

 あきらが鬼の形相で吼える。

「ふんっ、俺だって御免だね。星や太陽ならいいけど、こいつは遠慮する」

 守兄も目を吊り上げ、そっぽを向いた。
 ピリピリムードはさらに加速していく。

「じゃ、じゃあ、二人はちょっと待っててくれる?
 私は太陽と乗ってくるからさ」

 どうにかこの場を収めようと提案すると、

「え!? な、なんでそうなるんだよっ」

 あきらが食い気味に詰め寄ってくる。困惑と寂しさが混ざった表情。

「怒鳴るなよ、仕方ないだろう。今日は太陽のために来てるんだから」

 守兄は冷静そのもの。だが、声に棘がある。

「あっ、おまえ今認めたな? 星とデートとか言っておいて。やっぱり違うんじゃないか!」

 あきらがすかさず攻撃する。

「煩いなあ。俺の気持ちの中ではデートと変わらないってことさ」

 肩を竦める守兄。ちっともこたえていない。

「はっ、勝手な奴」

 あきらも同じように肩を竦め、余裕の顔。

 ……張り合ってるのかな? もう勘弁してほしい。
 どうしたものかと頭を抱えていると、列が動いた。

 しめた! このタイミングしかない。

「じゃ、じゃあ、二人は待っててね。行ってきまーす!」

 太陽の背を押しながら、私は逃げるように前へ進む。

 横目でちらりと見れば、二人ともまだ納得していない顔をしていたが、
 やがてすごすごと列を離れていった。

 よかった。ひとまずは落ち着いてくれた。
 でも、あんなふうに喧嘩ばかりされたら、私も疲れちゃうし。何より、あきらの正体がバレるかもってひやひやする。

 ふぅっとため息をつくと、

「姉ちゃん……大変だね」

 太陽が憐れみの視線を向けてきた。
 弟に恋愛のことで心配されるなんて。この子、どこまでわかってるんだか。

 じろっと疑うような目を向けると、太陽は無邪気に笑った。