溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

「なっ」

 あまりの驚きに声が出なかった。
 なんで、あきらがここに?

 まん丸の目で見つめる私に、あきらが鋭い視線を投げた。

「星、そいつ……なんでここにいるんだよ?」

 怒りをはらんだ眼差しが、守兄に突き刺さる。

「え! えーと、なんでだろう、私もびっくりしてて」

 しどろもどろに答えると、守兄がすっと横に並ぶ。

「どうも、あきらくん」

 爽やかすぎる笑顔。なのに挑発にしか見えない。

 あきらの眉がぴくりと上がる。
 明らかに不機嫌そう。怒っているのがありありとわかった。

「星の幼馴染のあなたが、なぜ、こんなところに?」

 声音に隠しきれない棘が混じる。

「星に会いたくて」

 あっさり言い切る守兄に、私は固まった。

 ちょっと、それ言っちゃう!?
 彼氏の前でそんな堂々と。まるで喧嘩売ってるみたい。

「へえ、そうですか。……で、何のつもりですか?」

 あきらの表情が一気に冷え、目が鋭さを増す。

 しかし守兄は平然と肩を竦める。

「何が?」

 とぼけたような声が、さらに火に油を注ぐ。

 二人の視線がぶつかり合い、見えない火花が散る。

「ちょ、ちょっと待った!」

 私は慌てて二人の間に割って入った。

「ここじゃ目立つから、場所変えよ? ね?」

 必死で二人の顔を見上げ、お願いの気持ちを込める。

 だってここ、校門の前!
 通りかかる生徒や先生たちの視線が、先ほどから突き刺さってくる。

 あきらだって、こんなところで正体がバレることは本意でないはず。

「……わかった」

「そうだね、こんなところで立ち話もなんだし」

 二人は同時に頷いた。

 ほっ。とりあえず収まったらしい。
 でも、なんで今日に限って二人ともここに?

 そんな疑問を抱きながら、私は二人と並んで校門をあとにした。



 あきらが先頭を歩き、私と守兄はそのあとに続いた。
 やがて、視界に飛び込んできたのは一台のワゴン車。

 え、これって。あきらが仕事のときに使ってる車じゃない?

 足が止まる。
 呆然と立ち尽くす私の前で、運転席から小森さんが降りてきた。

 やっぱり。小さくため息が落ちる。

「こんにちは」

 小森さんは颯爽と歩み寄り、慣れた手つきで後部座席のドアをスライドさせた。
 美しい笑みまで添えて。

「どうぞ」

 ここで話せってこと?

 不安げにあきらを見ると、彼はにこりと笑って頷いた。

「さ、乗って。とりあえずこの中なら誰にも見られないし、ゆっくり話せるよ」

 そう言って、私の肩を引き寄せる。
 守兄を牽制するみたいに、ふんっと鼻息まで荒い。

 守兄は、ただ、あきらを見返していた。
 まっすぐに、鋭い目で。

 張りつめた空気が、三人のあいだに流れる。

 どうしてこんなことに。
 なんとも言えない気持ちのまま、私とあきらと守兄は車へと乗り込んだ。



 で――やっぱり、こうなるのね。

 がっくり肩を落としながら、私は両側から伝わってくる圧に耐える。

 ピリピリとした重圧と空気。気のせいじゃない。

 右にあきら、左に守兄。
 二人に挟まれ、車のいちばん後ろの席で小さく身体を丸める。

 き、気まずい。

 あきらはとんでもなく不機嫌な顔。
 守兄は余裕の笑み。その余裕が逆にムードを悪化させている気がする。

 視線を窓の外へ逃がすと、小森さんが電信柱に背を預け、煙草をふかしていた。
 どうやら外で待機中らしい。

「で。なんでこんなところへ?」

 あきらの声が鋭くて、心臓が跳ねる。
 と、とげとげしい!

「さっき言いましたよね? 星に会いにって」

 守兄の声にも棘が!

「星は僕の彼女だ。幼馴染だからって、気軽に会わないでもらえますか?
 なあ、星」

「え!」

 いきなり矛先を向けられ、心臓が止まりそうになる。

「え、えーと……まあね」

 もじもじと口ごもっていると、守兄がすかさず反論した。

「彼氏だからって、そんな束縛みたいなこと言うのはどうかと思うな。
 星が誰に会おうが自由でしょう? 心が狭いなあ。ねえ、星」

「えっ!」

 また巻き込まれてしまった。もう、疲労困憊(こんぱい)。

 でも、私がしっかりしないと。

「そ、そんなこと――」

 言い返そうとした瞬間、あきらがかぶせてきた。

「なあ、星。迷惑なら迷惑って言ってやらないと。
 この人、鈍いみたいだから」

 わざと大きな声で挑発する。

「はあ? 君の方が鈍いんじゃない? そうやって星を束縛して。
 彼女、困ってると思うなあ。星は優しいから何も言わないんだよ」

「は?」

「ん?」

 二人が私を挟んでにらみ合う。

 ひぃ、火花が見えるよぉ。

「ちょ、ちょっと、落ち着こうよ、ね」

 笑顔を作ってみせたが、二人は同時に大きなため息。

「俺は星とふたりきりの時間を作りたくて。わざわざ少しの時間を縫って、仕事の合間に来たんだ。
 こんな人に邪魔されてる時間はない。早く帰らせてよ」

 あきらの一言に、守兄がすぐさま切り返す。

「そうやって恩着せがましく。俺だって、星に会いたくて仕事を早く終わらせて来たんだ。
 おまえを相手にしてるほど暇じゃない」

「なんだよ、おまえだって恩着せがましいじゃないか!」

「はっ、君ほどじゃないよ」

 言い合いが止まらない。
 ふたりのやり取りを眺めながら、悩む。

 どうすればこの状況を収められる?

 というか、あきらに子どもっぽいところがあるのは知ってたけど。
 守兄も意外と子どもっぽいんだな。

 そう思ったら、くすっと笑いがこぼれた。

 ぴたりと、言い合いが止まる。
 二人が同時に私を見た。

「星?」

 あきらが不思議そうに首を傾げた、そのとき――。