溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 ガツガツと私の料理を平らげていくあきらを見ながら、幸せな気分に浸る。

「おいしーい! 俺、超しあわせ者だね。こんな美味しいハンバーグを食べられて」

 席につくなり、夢中で食べ始めたあきら。

 よっぽどお腹が空いてたのかな。
 ふふっと笑うと、あきらがにっこり満面の笑みを返してきた。

 しあわせ。
 こんなふうに二人で過ごせる時間が、なによりも幸せだった。

 彼はアイドル。
 とてもじゃないけど、気楽に外でデートなんてできない。
 できたとしても、ほんのわずかな時間だけ。

 仕事が忙しくて、会う時間を作るのも大変なんだから。

 だからこそ、この時間を大切にしたい。

 私たちは、ときどきこうして、秘密の逢瀬を重ねている。
 彼のマンションはセキュリティがしっかりしているし、安心できる。
 ただ、入るときは慎重にならないといけないけどね。

「ふぅ、おいしかった」

 物思いにふけっていると、あきらは食べ終わっていた。

「ごちそうさま。ほんとにおいしかった」

 飛び切りのスマイルに、疲れも吹き飛ぶ。

 食事を終えたあきらはお風呂へ向かい、
 私はその間に洗い物を片付けることにした。

 それにしても、とさっきの出来事が頭をよぎる。

 続き、するのかな。
 このあとの展開を考えると……って、なに考えてるの!
 顔が一気に熱くなる。

 思いきり首を振り、頭の中の妄想を追い払った。



「はあ、いいお湯だった」

 お風呂から上がってきたあきらが、目を丸くする。

「え! もう帰るの?」

 ちょうど帰り支度を終えたところだった。
 あきらは口を尖らせて、こちらへ歩み寄ってくる。

「う、うん。だってあきら疲れてるでしょ? 邪魔したら悪いし。
 明日も仕事でしょ?」

 少しそっけなく返すと、彼が寂しそうに眉をひそめた。

「うん、まあ、そうだけど……」

 納得してない顔。
 私だって一緒にいたい。でも、あきらの邪魔はしたくない。
 疲れてるだろうから、早めに退散しないと。

 少しでも一緒にいられたから、それで十分。
 これ以上求めたら、罰が当たる。

「じゃあ、帰るね」

 そそくさと立ち去ろうとしたとき、
 手首を掴まれ、そのまま抱きしめられた。

 お風呂上がりだからだろう、体温が心地いい。
 それに、ふわっといい匂いがする。シャンプーの香りかな。

 彼の温もりに、そっと浸る。

 ああ、だめ。離れたくなくなっちゃう。

「あ、あきら……」

 離れようとした私の身体を、彼がぎゅっと引き戻す。

「星。いつも寂しい思いさせて、ごめんね」

 そっと私を見つめる瞳。
 その視線から、逃れられない。

 ドキドキと鼓動がうるさい。

「ううん、いいの。こうやって会えるだけで幸せだから」

 見つめ合って、またキスをした。
 彼の熱が冷めない。
 だんだん深くなるそれに、息が苦しくなる。

「っん……あきら?」

 体を押し返そうとする。
 けれど、彼は強引に引き寄せ、唇を離そうとしない。

「星、好きだよ……」

 どうしたのかな、今日はやけに積極的。

 身体が熱を帯び、力が抜けて少しよろめいた。

「大丈夫?」

 あきらが私を支え、心配そうにつぶやく。
 愛おしげな瞳に見つめられて、くらくらしてくる。

 このままじゃ、やばい。

「え、ええ。ねえ、もうこれ以上は」

「うん……わかってる」

 ふたりとも黙り込む。
 しばらくして、あきらがふっと笑った。

「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた。
 星だって、あんまり遅くなると太陽が心配するよね」

「え、ええ。そうね」

 微妙に気まずい空気が流れる。

 本当はもっと一緒にいたい。
 本当は、このまま――。
 きっと、この想いは私だけじゃない。

 そのとき、けたたましい音が鳴った。
 あきらのスマホだ。

「ス、スマホか……。はい」

 あきらが相手と会話を始める。
 きっと、あの人だ。相手は想像がついた。

 私はそっと玄関へ向かい、そそくさと靴を履く。
 こうして動いていないと、帰りたくなくなってしまう。

 気持ちに嘘をつく。
 これはあきらのため、そう言い聞かせて。

 靴を履き終え、立ち上がったころ、あきらが玄関へやってきた。

「マネージャーが迎えに来た。マンションの前に車があるから」

「うん、わかった」

 私は頷いて、にっこりと笑う。

「じゃあ、またね、あきら」

「うん、気を付けて。今日は会えて嬉しかった。ご飯ありがとう」

 無理やり作った笑顔。すぐにわかる。
 きっと、私も同じ顔をしてる。

 寂しそうに微笑む彼に背を向け、そっと扉を開けた。

 閉まる音が、虚しく耳に響く。
 それが、さよならの合図みたいに感じられた。