アナベルは、夢中になって料理を食べる。
アイザックが──気がつけば他の料理人たちも──手がける甘美な料理を、ふんだんに。柔らかなローストビーフや味の染みたポトフ、熱々なラザニアに食感の良いシュリンプサラダ。サクサクの焼きたてのバゲットや、甘い甘いフルーツゼリーなど。至上の幸福とはまさにこのこと。
「イーサン様、旦那様とチャーリー様がお戻りになりました」
「ただいま皆。……これは、また凄いことになってるな」
外出していたデービッドとチャーリーが帰宅した。
テーブルに並ぶ料理の数と量に、流石のデービッドも驚きを隠せない。これだけ作ってどうするのか。まあどうにかするだろう。いいや。デービッドはすぐに思考を切り替える。
丁度お腹も空いていると、父親たちも同じテーブルに着くことにした。そこにレティシアも駆けつけた。仲間外れにすると泣いてしまうからと、ソフィアが声をかけたところ、案の定飛び起きた訳である。
料理人たちが持ちうる全てをかけた料理は全て、唸るほど美味しい。その量はぬた家族が揃っていても食べきれなくなりつつある。そこはデービッドの予測通り、彼らが長期保存が効くような料理にもなっている。これぞ仕事人。折角のご馳走を使用人たちも集まって、共に囲むことになった。
格好も食事内容も食べ方も、自由な”朝食”の始まりだ。
「これ……!美味しいわイーサン」
「こっちもアナベルが気に入ると思うよ。どうかな」
「お姉さま、あーん」
「アナベルさま、こちらも」
手が止まらない。どんどん食べてしまう。美味しい、おいしい!
皆で食べるご飯が、安心できる場所がいかに素晴らしいものか。アナベルは痛感する。
この数日間、いかにメンタルが弱っていたのか実感した。今後対策を取るとして、まずはご馳走を堪能しなければ。
「アナベル、美味しい?」
「とても!」
幸福を煮詰めた笑顔を浮かべているアナベル。
会話を楽しみながら、目を輝かせて食事を摂る最愛の人の姿に、日常が戻って来たのだと、ようやく青年は心から安心した。
*
「ルロワ伯爵だが、捕まったよ」
空腹が落ち着いたところで、チャーリーとデービッドが外出した用件について話し始めた。
二人はルロワに話をつけるため、彼の屋敷へ向かったのだ。チャーリーは身内の後始末と娘に危害がいかないように、デービッドはアナベルが攫われぬよう脅すつもりで。
馬車で入り口まで着くと、丁度兵士に捕まるところであった。
事情を知るレティシアの兄ーレティシアの家は代々騎士団に勤めている家系。彼女の上三人の兄らは全員騎士団長や兵士教育の教官である。デービッドにとっては義兄たちだー秘密裏に話を聞けば、ルロワは海外にも婚姻を結んだ女性が複数おり、さらには脱税や密猟も行っていたと言う。
騎士団ではかねてから目をつけていた人物であったが、ごますりの上手な彼は、力のある者らに取り入り捜査から巧妙に逃げていた。
それが日付を超えた頃、捜査担当の兵士の元に匿名で、彼の犯罪に関する大量の証拠が届いたのだ。大至急確認をとったところ、証拠に嘘偽りがない本物であることが分かった。
とうとうお縄についたのだ。
ついでに彼の悪事の隠蔽に関わっていた有力者も、軒並み釣ることができたと教えてくれた。あまりにもタイミングが良すぎる。運が良いと言うべきか。とにかくルロワに因縁をかけられる心配もなくなり、アナベルもイーサンも安堵した。
「まだ積もる話はあるが、ゆっくりしよう。なんといってもまだ夏休みだ。暗い気持ちで過ごすべきじゃないね」
そうなのだ。
デービッドの言う通り、まだ夏休み中。大きな事件のせいで忘れていたが。サイドハウス・ノアに来た最大の理由を忘れてはいけない。
忘れてはいけない、といえば、だ。
アナベルは恐る恐る手を挙げた。
「……どうしても気になっていることがあるのですが。今解決してもいいでしょうか」
「もちろん。さ、本人に聞くと良い。私たちも、細かな顛末は知らないからね」
デービッドとレティシアも、一箇所に目を向ける。
アナベルも隣を見る。
自然とチャーリーやアーニー、アナベルの妹たち、使用人たちも。
多くの視線が集まり、不思議そうに目を丸くしているライトグリーンの瞳と、アナベルの視線が交わる。
「どうやって私たちを助けてくれたのか……アイザックが屋敷にいた理由、教えてちょうだいイーサン」
アイザックが──気がつけば他の料理人たちも──手がける甘美な料理を、ふんだんに。柔らかなローストビーフや味の染みたポトフ、熱々なラザニアに食感の良いシュリンプサラダ。サクサクの焼きたてのバゲットや、甘い甘いフルーツゼリーなど。至上の幸福とはまさにこのこと。
「イーサン様、旦那様とチャーリー様がお戻りになりました」
「ただいま皆。……これは、また凄いことになってるな」
外出していたデービッドとチャーリーが帰宅した。
テーブルに並ぶ料理の数と量に、流石のデービッドも驚きを隠せない。これだけ作ってどうするのか。まあどうにかするだろう。いいや。デービッドはすぐに思考を切り替える。
丁度お腹も空いていると、父親たちも同じテーブルに着くことにした。そこにレティシアも駆けつけた。仲間外れにすると泣いてしまうからと、ソフィアが声をかけたところ、案の定飛び起きた訳である。
料理人たちが持ちうる全てをかけた料理は全て、唸るほど美味しい。その量はぬた家族が揃っていても食べきれなくなりつつある。そこはデービッドの予測通り、彼らが長期保存が効くような料理にもなっている。これぞ仕事人。折角のご馳走を使用人たちも集まって、共に囲むことになった。
格好も食事内容も食べ方も、自由な”朝食”の始まりだ。
「これ……!美味しいわイーサン」
「こっちもアナベルが気に入ると思うよ。どうかな」
「お姉さま、あーん」
「アナベルさま、こちらも」
手が止まらない。どんどん食べてしまう。美味しい、おいしい!
皆で食べるご飯が、安心できる場所がいかに素晴らしいものか。アナベルは痛感する。
この数日間、いかにメンタルが弱っていたのか実感した。今後対策を取るとして、まずはご馳走を堪能しなければ。
「アナベル、美味しい?」
「とても!」
幸福を煮詰めた笑顔を浮かべているアナベル。
会話を楽しみながら、目を輝かせて食事を摂る最愛の人の姿に、日常が戻って来たのだと、ようやく青年は心から安心した。
*
「ルロワ伯爵だが、捕まったよ」
空腹が落ち着いたところで、チャーリーとデービッドが外出した用件について話し始めた。
二人はルロワに話をつけるため、彼の屋敷へ向かったのだ。チャーリーは身内の後始末と娘に危害がいかないように、デービッドはアナベルが攫われぬよう脅すつもりで。
馬車で入り口まで着くと、丁度兵士に捕まるところであった。
事情を知るレティシアの兄ーレティシアの家は代々騎士団に勤めている家系。彼女の上三人の兄らは全員騎士団長や兵士教育の教官である。デービッドにとっては義兄たちだー秘密裏に話を聞けば、ルロワは海外にも婚姻を結んだ女性が複数おり、さらには脱税や密猟も行っていたと言う。
騎士団ではかねてから目をつけていた人物であったが、ごますりの上手な彼は、力のある者らに取り入り捜査から巧妙に逃げていた。
それが日付を超えた頃、捜査担当の兵士の元に匿名で、彼の犯罪に関する大量の証拠が届いたのだ。大至急確認をとったところ、証拠に嘘偽りがない本物であることが分かった。
とうとうお縄についたのだ。
ついでに彼の悪事の隠蔽に関わっていた有力者も、軒並み釣ることができたと教えてくれた。あまりにもタイミングが良すぎる。運が良いと言うべきか。とにかくルロワに因縁をかけられる心配もなくなり、アナベルもイーサンも安堵した。
「まだ積もる話はあるが、ゆっくりしよう。なんといってもまだ夏休みだ。暗い気持ちで過ごすべきじゃないね」
そうなのだ。
デービッドの言う通り、まだ夏休み中。大きな事件のせいで忘れていたが。サイドハウス・ノアに来た最大の理由を忘れてはいけない。
忘れてはいけない、といえば、だ。
アナベルは恐る恐る手を挙げた。
「……どうしても気になっていることがあるのですが。今解決してもいいでしょうか」
「もちろん。さ、本人に聞くと良い。私たちも、細かな顛末は知らないからね」
デービッドとレティシアも、一箇所に目を向ける。
アナベルも隣を見る。
自然とチャーリーやアーニー、アナベルの妹たち、使用人たちも。
多くの視線が集まり、不思議そうに目を丸くしているライトグリーンの瞳と、アナベルの視線が交わる。
「どうやって私たちを助けてくれたのか……アイザックが屋敷にいた理由、教えてちょうだいイーサン」

