「いいよ、待たせておいたら」
「ダメです!」
「もうちょっとだけ」
「もうおしまいです!」
バタバタと足を揺らして、下ろせと訴えるカナコ。
ユキはとても残念そうな顔で、カナコを床に下ろした。
「今日早く帰るから」
「……ホントですか?」
「だから、さっさとリンコ飲ませて」
「………」
「早く家に帰ろう」
続きがしたい。
そう訴えるユキに、カナコは両手で熱い頬を覆って「はい……」と返事をした。
ほどなくして家を出たユキ。
カナコは閉じた扉の前でしばらく、ぼうっと呆けたあと。
気が付いたように動きだす。
「……いけない、私も用意しなくちゃ」
メイクをしようと、鏡の前に立つ。
そこに映った自分の顔に、なぜだか釘付けになった。
「……『可愛い』」
あの夜から、何度も。
耳元で囁かれた、ユキの言葉。
不思議と、自分の顔が前よりも可愛く見えた。
「変なの」
そう一人笑って、支度を始めたのだった。


