────……
──……
「ママ」
「………」
「ママ」
「……え?」
「それ、さっきからずっと同じの拭いてる」
私は、千景のその声に自分の手元を見た。
クロスと、すっかり乾いたグラス。
「どうかしたの?」
AnBarのカウンター。
隣に立つ千景が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ちょっとぼうっとしてただけ」
誤魔化すように笑って、グラスを棚に戻す。
千景は「そう?」と言って、ミネラルウォーターを持って二階へと上がった。
はあ、と重い溜息が口から零れた。
「………」
どうしよう。
──『……触らないでっ!!』
もう、あれから三日も経った。
あの時。
部屋が暗かったから、ユキがどんな顔をしていたのかはわからない。
ユキは一言も言い返さず、ベッドの上で背を向けて眠った。
私はなかなか眠れなくて、それでもお昼過ぎに目を覚ますと、ユキはもう黙って仕事に出かけてしまっていた。
それからは、ずっとすれ違い。
ユキは私よりも遅く帰り、私よりも早くに家を出て行く。
顔さえ合わせられていない。
きっと、怒ってるんだ。
ちゃんと……謝らなきゃ。


