ユキと野間は、近くの野間の店に入った。
寂れたBARだった。
野間はフラフラとカウンターに入る。
「なんか飲みます?」
「いらない。傷の手当てでもしてろ」
「うっす」
バックヤードから救急箱を取り、カウンター背面の棚に張られた鏡を使って手当てを始めた野間。
ユキはチェアに腰掛け、その背中に声をかけた。
「どうして、紫藤の状況を話さない」
「言ったところでじゃないですか?紫藤さんが街に出られないことには変わりがないんだし」
街が落ち着くことはなくても。
こうして、紫藤を慕う人間から執拗に狙われることはなくなる。
それでも野間は何も話さない。
どうしてそこまでして、街の恨みを一身に背負うのか。
ユキが知りたいのは、その理由。
「……これは僕のエゴです。紫藤さんは強い男だった。街のみんなに弱った紫藤さんを見せたくない。それだけっす」
「興味ないな」
「そっすよね。でも、僕がこうやって紫藤さんの威厳を守っていられるのは、瑞生さんのおかげでもあります」
ユキがちらりと視線を向ければ、鏡越しに野間と目が合った。


