「ユキ」
──ここはAnBar、一階フロア。
二人掛けのソファの上で、ユキが眠っていた。
「おい、起きろって」
「ああ……おはよう、潤ちゃん」
頭上にある潤の顔を、眠気眼で眺める。
ユキは身体を起こすと、ぼうっとフロアを見渡した。
手前には潤、後ろにリンコ。
カウンターにはサンコンがいた。
テーブルに置いてあったスマホを手に取り、時間を確認する。
今は開店前。
それでも、少し眠りすぎてしまった。
「お前。いい加減、家で寝ろよ……」
潤は呆れたように言った。
ユキは、カナコと離れてからというもの。
AnBarで眠ることが多くなった。
ここがちょうどよかった。
カナコが突然帰ってくるかもしれない。
帰ってくるならこの場所だ。
それに。
カナコと二人で眠った、あの家のベッド。
今更一人で眠るには、あまりに寂しすぎる。


