マンションに着くと。
多夜とアオイが揃って出迎えた。
狭い玄関。
電気も点けないまま。
暗い空間に更に影を落とすようなユキに、二人は口を開けない。
カナコの手を引き、彼女が自分で靴を脱いだのを見届けたあと。
ユキは静かに口を開く。
「約束しろ」
多夜とアオイは息を飲んだ。
ユキは一言一言を二人の頭に叩き込む。
「コイツを傷つけるな」
「かすり傷一つ、許さない」
「外傷だけじゃない。コイツの心も傷つけるな」
「帰ると言ったら、その場で帰せ」
「ここには監視を置く。拒否権はない」
「怪しい動きをすれば、連れて帰る」
そこまで言うと、ユキは多夜の胸倉を掴み上げ、壁に押し付けた。
二人の視線がぶつかる。
「………」
「………」
多夜の鋭い目。
それをへし折るかのような、深く、冷酷なユキの瞳。
「いいか。間違えるなよ」
「………」
「セーフラインはお前たちの判断じゃない。俺の判断だ」
ユキは多夜から手を離した。
そのまま玄関の戸を開き、くぐる。
ユキがカナコを振り返ることはなかった。
「………」
扉が、静かに閉じる。
カナコはしばらく、その扉を見つめた。
やがて胸の前をぎゅっと掴むと、扉に背を向け、奥へと歩く。
そうして。
ベッドに横たわる紫藤の前に、静かに立った。


