カナコの目は、再び紫藤に縫い付けられる。
記憶の中の紫藤の言葉が、表情が。
──『だから言ったろ。全部捨てろと』
どんどん鮮明になって、蘇っていく。
「かぁこ」
すると突然、視界は遮られ。
カナコの瞳にユキが映りこんだ。
まるで懺悔。
頭を下げる前の土下座のような格好で、床にへたり込むカナコの前。
ユキは目を合わせるように屈み、こちらへ意識を引き戻すように両肩へ手を置いた。
「何、考えてる」
カナコを何度も助けた手。
温かい手が、カナコを包んだ。
「忘れたのか。コイツがお前に何をしたか」
カナコは困ったように眉を下げた。
「……忘れてません」
「俺も。忘れられない」
──忘れられない、痛み。
それから。
何度も優しく差し伸べられた、この、優しい手──……
「全部……覚えてます」
「だったら……!」
ユキは唇を噛んだ。
俯いて、喉を詰まらせる。
「……だったらっ!どうしてそうなる!!」
肩を掴むユキの指先に、力がこもる。
苦しそうに歪んだ顔を、カナコはじっと見つめた。


