「千景」
「……なに」
瞳に紫藤を映したままの呼びかけ。
千景は身構えるように返事をした。
「獏さんって、まだオランダから帰ってないのかな」
その言葉に、千景の眉間に深い縦皺が刻まれる。
「何言ってんの?」
「………」
「そんな都合のいい話が、どこにある」
カナコがゆっくりと千景を振り返った。
千景はカナコの表情を見るなり、ハッと目を吊り上げて、声を荒げる。
「……やめろ!ママが気にする必要なんてない!今コイツが死にかけてんのは、自業自得だ!」
「………」
「こんなヤツ、放っておけ!見殺しにされても文句を言えないことを散々やってきた!」
自業自得。
放っておけ。
千景のその言葉は、更にカナコの中の記憶を掘り起こす。
──『なあ。不平等だと思わねぇか?』
不平等。
──『テメェで勝手にトチ狂ったくせして、これじゃまるで貧乏くじじゃねぇか』
貧乏くじ。
「………」
今、起きていることも。
同じ?


