「………」
部屋の仕切りを超え、ベッドへと近づく。
と、と、と。
フローリングに打ち付ける踵の音だけが空間に響く。
ユキは男を静かに見下ろした。
「おい」
思わず、声をかけた。
布団のかかった胸は浅く上下を繰り返す。
呼吸はしている。
生きている。
それなのに、ユキが部屋に入っても、声をかけても。
男は、何一つ反応を返さない。
痩せていた。
頬は削げ、伸びた黒髪が顔にかかっている。
――紫藤 怜。
シトウの、紫藤。
この街の支配者。
かつて人を射貫くようだった力強い瞳は、どこにも焦点を結んでいない。
ただ、静かにベッドに横たわっている。
「………」
なぁ。
――俺たちは、一体。
何と闘っていたんだ?


