しかし、紫藤さんは。
抵抗する力のなくなった多夜に馬乗りになると煙草に火を点け、会話の続きを始めた。
「お前。目の前にあるもん全部、バケモンに見えてんだろ」
「………」
「全部うぜぇんだろ?だから壊してぇし、殺してぇ」
「………」
「お前だって、ただ生きてぇだけのバケモンだ」
そこで初めて、多夜の顔に表情がのっかる。
「生きたい……?」
それはどこか悔しそうで、なぜか嬉しそうな。
どっちともとれるような、気持ち悪い顔つきだった。
「その持て余した衝動。俺に寄こせ」
「………」
「何回狂おうが、俺が全部叩き潰してやる」
このやり取り自体にどんな意味があったのか。
俺にはわからない。
ただ……この日を境に。
多夜が紫藤さんの前に現れる目的が、明確に変わったようだった。
もう、むやみやたらに殴ろうとしない。
それは紫藤さんに対しても、俺たち街の人間に対しても。
簡単に言えば、多夜は大人しくなった。
まるで紫藤さんに飼い慣らされた、犬。
ただ黙って、紫藤さんのそばをついて回った。


