ああ、むしゃくしゃする。
――バキッ。
俺は扉の前で待機していた部下を、一発殴った。
なんで殴った?って具合の顔を見下ろしながら、苛立ちは未だ冷めない。
街を歩きながら、ふう、ふう、と粗い息を整える。
紫藤さんの所在と、野間の行方。
俺の他の幹部たちも、誰も知らない。
そうなると後はもう、多夜しかいないのに。
「クソが……」
シトウの幹部とはいえ、誰もが四六時中紫藤さんの側にいるわけじゃない。
俺たちにはそれぞれ持ち場がある。
俺は喧嘩場を仕切っているし、金周りを仕切っているヤツは街の商売を回す。
紫藤さんにべったり張り付いてる幹部なんて、多夜くらいのもんだ。
つまりアイツは紫藤さんの側近であり、紫藤さんの行方を知る最後の手がかり。
それが狂ったように『女を探せ』としか言わないんだから、もう絶望的な状況だ。
――多夜。
何を考えているかわからない、不気味な男。
いや、ただの異常者。
昔からそうだ。
俺はシトウの幹部の中で、紫藤さんとの付き合いが一番長い。
紫藤さんが『多夜を幹部に入れる』と言ったとき、俺は紫藤さんに歯向かった。
今にして思えば、俺が紫藤さんに逆らったのは、あれが最初で最後。
『どうしてこんなキチガイを』
『シトウに入れるだけならまだしも、幹部はありえない』
そんなことを何度も進言したが、異論を認めちゃくれなかった。
なんでか紫藤さんは、多夜のことだけは放っておかない。


