檻の外へー極道なんて、大嫌いー


実は前日の夜、私のスマホに魁から短いメッセージが届いていた。
『無理そうなら、俺の部下を何人か貸す。連絡しろ』
それは、あの冷酷な義兄なりの気遣いだったのかもしれない。けれど、画面の文字を見た瞬間、私の心にはチクリと棘が刺さったような、黒い反発心が渦巻いた。
私の力量を否定し、「お前には荷が重い」と突き放されたように感じたのだ。
『必要ありません。二人でやれます』
私は即座にそう返信し、彼の申し出を断っていた。ここで甘えれば、私は一生あの人の掌の上で怯えるだけの弱い存在で終わってしまう。それが、どうしても許せなかったのだ。

夜の冷たい風を切り裂き、バイクで目的の事務所が入る雑居ビルへと辿り着く。
エンジンを切り、路地裏の暗がりに車体を隠すと、私と晴樹はまず建物の周囲を音もなく歩いて回った。正面玄関の配置、監視カメラの死角、非常階段の位置。頭の中に建物の立体図を描き出し、万が一の際の逃走ルートを三パターンほど練り上げる。
「……裏口から入るよ」
私が短く囁くと、晴樹が無言で頷き、手慣れたピッキングで裏口の鍵をこじ開けた。
暗い廊下へと足を踏み入れた瞬間――私たちの侵入に気づいた下っ端の組員たちが、怒号を上げて奥の部屋から一斉になだれ込んできた。
「誰だテメェら!」
「おい、女がいるぞ……! なめやがって、まずはそのアマから殺れ!!」
薄暗い照明の中、私が女だと認識した途端、彼らの標的は面白いくらいに私へと集中した。晴樹という明らかな脅威を後回しにして、私なら簡単に制圧できると完全に侮っているのだ。
「……バカね」
私は小さく息を吐き、先頭で殴りかかってきた男の懐に滑り込んだ。
狙うのは、顎の先端、喉仏、鳩尾、そして膝の関節――人体の急所のみ。無駄な力は一切使わない。これだけの人数の相手に体力を消耗すれば、後が続かなくなるからだ。
一人につき、拳一発。
確実に急所を撃ち抜き、次々と意識を刈り取っていく。
「ぐはっ……!」「ああっ!」というくぐもった呻き声と、男たちが床に崩れ落ちる重い音だけが、事務所の一階に単調なリズムで響き渡った。