マンションの私の部屋に帰り着いた途端、さっきまでの和やかな空気は完全に消え失せた。
「よっしゃ……! 久しぶりのデカい実戦だ。血が騒ぐぜ」
玄関の鍵を閉めるなり、晴樹は興奮を隠しきれない様子で拳を鳴らした。彼の瞳は、獲物を前にした肉食獣のようにギラギラと危険な光を放っている。
今夜、頭から下された仕事は、末端のクスリ売りや借金の取り立てとは次元が違う。
ここから3キロほど離れた場所にある、敵対する御影組傘下の事務所の襲撃。
目的は、その事務所を完全に潰し、傘下の組長と若頭を「半殺しの状態」で生け捕りにして、小鳥遊組の事務所へ引き渡すこと。
完全な抗争だ。
アドレナリンを分泌させて目を輝かせる晴樹とは対照的に、私の胃の奥は重く冷たい鉛を飲んだように沈み込んでいた。
「……晴樹は、平気なの。相手を、殺すかもしれないのに」
「抗争なんて殺るか殺られるかだろ。向こうだって手加減なんかしてこねぇよ」
晴樹は悪びれもせず言い放つ。彼は本気でこの暴力の世界に適応している。
けれど、私は違う。
自分のこの両手で、誰かの命を完全に奪い去ってしまうかもしれない恐怖。骨が折れる感触、肉が裂ける音、飛び散る血の温かさ。それらを想像するだけで、吐き気が込み上げてくる。
極道の娘に生まれてしまったからには逃げられないと頭では分かっていても、私の心はいつまで経ってもこの狂気を受け入れられずにいた。

